ニュースレター

2013年07月16日

 

エネルギーをめぐる日本の最近動向

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JFS ニュースレター No.130 (2013年6月号)

JFS ニュースレター No.126 (2013年2月号)「東日本大震災後の日本のエネルギーをめぐる状況」では、東日本大震災後の日本のエネルギーを巡る動向について、5期に分けて紹介しました。

第1期:3.11後、原発が次々と運転停止
第2期:エネルギー基本計画の作り直し開始、すべての原発が運転停止
第3期:大飯原発の再稼働と反対デモ、エネルギー政策をめぐる国民的議論
第4期:政局の混乱により、エネルギー政策や原発のゆくえも混乱
第5期:自民党政権となって、原発ゼロ見直しへ

その後の状況はどのように展開しているのでしょうか。自民党政権に代わってからの日本のエネルギー政策や動向について海外からインタビューを受けることも多く、いくつかの"エネルギー前線"についてまとめてお伝えします。

安倍政権のエネルギー政策

2012年12月16日の第46回総選挙で、自民党が単独過半数を大幅に上回る議席を獲得し、勝利しました。世論調査などでは原発ゼロ派が多かったにも関わらず、原発維持・推進の自民党が勝ったことについて朝日新聞は、「出口調査によると、全国では14%を占めた「今すぐゼロ」派と64%の「徐々にゼロ」派の比例区投票先は、維新、民主、みんな、未来など各党に分散。自民以外の各政党は基本的には脱原発を掲げており、原発ゼロ票が分散した」としています。

自民党総裁の安倍氏は選挙後の12月22日、民主党が決めた原発政策の方針「2030年代に原発稼働ゼロ」について、「もう一度見直していく」と発言し、原発政策は食い違いのまま、12月26日自公連立政権が発足しました。

総選挙での自民党の公約は、「10年以内に電源構成のベストミックスを確立」「原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論をめざす」としており、一方、公明党は「可能な限り速やかに原発ゼロを目指す」とマニフェストに明記しています。

安倍首相は2013年2月28日の施政方針演説で、「安全が確認された原発は再稼働する」と明言。3月6日の参院本会議でも「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするという前政権の方針はゼロベースで見直す」と述べています。

3月15日にはエネルギー基本計画の議論を再開しました。民主党政権下での「基本問題委員会」は、委員25人のうち8人が脱原発派でしたが、今回は15人の委員のうち、脱原発派は2人しかいません(私も委員ではなくなりました)。

一方、7月に行われる参議院選をにらみ、自民党に原発再稼働を促進する議員連盟が5月14日に発足しました。参院選公約にも安全確認を前提にした「原発再稼働」を明記するといわれています。6月14日に閣議決定された安倍政権の経済政策「アベノミクス」の中核となる成長戦略でも、「原子力規制委員会の判断を尊重し、再稼働を進める」と明記、原発の活用を前面に打ち出しました。

ちなみに、朝日新聞が6月8~9日に実施した世論調査では、「停止中の原発の再稼働」について、反対が58%。「安倍政権の日本経済の成長のためだとして原発を積極的に利用する方針」についても、反対が59%となっています。

国会議員の中にも脱原発派もおり、超党派議員による「原発ゼロの会」もあります。この会は昨年、国内の50原発の「危険度ランキング」を公表し、「原発ゼロ推進法案」の準備を進めていました。衆院選での自民党圧勝の結果、会員はほぼ半減しましたが、活動を再開しています。

また、毎週金曜夜に首相官邸や国会前でデモを続ける市民団体の呼びかけで、6月2日に大規模な集会・デモ行進が行われました。以前のような盛り上がりはないものの、「このままではいけない」という思いの市民が集まり、主催側によると延べ約8万5千人が参加しました。


原子力規制委員会の動き

原発のゆくえや再稼働を左右する大きな役割を果たすのが、原子力規制委員会です。原子力規制委員会とその事務局である原子力規制庁は、福島第一原子力発電所事故の反省のもと、2012年9月19日に原子力規制委員会設置法に基づき、独立性の確保と原子力規制組織の一元化を目的として設置されました

最初の大きな役目が原発の新安全基準の設定です。新安全基準は、想定を上回る自然災害やテロ攻撃などに備える「過酷事故対策」と「地震・津波対策」からなり、有識者会合やパブリックコメントなどを経て新安全基準案が出されています。

非常時に炉心の損傷や格納容器の破損を防ぐための過酷事故対策は、今回初めて法的に義務づけられ、原子炉を遠隔操作で冷やすための第2制御室の設置などの備えが必要となりました。福島第一原発と同じ沸騰水型炉については、フィルター付きベント設備の設置が再稼働の条件です。設備の設置には数年間かかるため、日本の原発全50基のうち26基は当面再稼働ができない見込みです。

津波対策については、従来の指針では2行しか記述がありませんでしたが、新基準では起こりうる最大規模の津波を「基準津波」として原発ごとに設定し、防潮堤の整備や重要な機器がある建屋の防水化などの対策を求めています。朝日新聞は、「防潮堤などの津波対策や電源車の配備など、電力会社10社が見込んでいる新安全基準に適合するための対策費は少なくとも計1兆円」と伝えています。

ご存じのように日本は地震国です。新安全基準では、原発の安全性評価の対象となる活断層について、活動履歴を従来の「12万~13万年前以降」で判断できない場合は「40万年前以降」まで広げて活断層かどうかを検討する、ずれが生じるおそれがある断層の真上には原子炉建屋などの重要施設の設置を認めないとしています。

12~13万年前なら問題視されていなかったが40万年前以降の活動が指摘されている断層が敷地内にある東京電力柏崎刈羽原発や北海道電力泊原発などに影響を与える可能性があります。

原子力規制委員会が原子炉建屋直下の断層は「活断層」と断定した日本原子力発電の敦賀原発2号機は、現状では再稼働できなくなり、廃炉が不可避と見られています。北陸電力志賀原発1号機も原子炉建屋の直下に活断層の疑いがあると指摘されており、関西電力の大飯原発、美浜原発、日本原子力研究開発機構のもんじゅ、東北電力の東通原発も敷地内に活断層の疑いがあり、電力会社や規制委員会の有識者会合などが調査・審査を進めています。

唯一稼働中の関西電力大飯原発の敷地内にも断層があります。規制委員会の評価会合でも活断層かの見解が一致せず、さらに調査に時間がかかる見込みです(判断が下るまでは稼働が続きます)。ほかにも、志賀原発や美浜原発などの断層調査・報告が予定よりも遅れています。

規制委員会は、原発の運転期間について、原則40年とし、条件付きで最大20年の延長を認めるという制度を定めました。日本には運転開始から30年を超える原発が17基あります。運転延長の審査を受ける際に、通常の定期検査よりも厳しい「特別点検」の実施を電力会社に求め、延長の認可には新規制基準に基づく過酷事故対策なども必要になります。

この新安全基準は7月に導入される予定です。現在、北海道電力泊1~3号機、関西電力高浜3、4号機、四国電力伊方3号機、九州電力川内1、2号機などが再稼働の申請をするとみられています。規制委員会の審査には少なくとも半年ほどかかる見通しといわれており、その後、原発が立地する地方自治体の同意を得てからの再稼働となります。

電力会社では原発休止による火力発電のための燃料コストの増大が大きな負担となっており、経済成長のための電力の安定供給を求める産業界とともに、規制委員会への圧力も増してくると考えられます。一方、規制委員会の田中委員長は「電力会社の経営的な問題は考慮しない。安全上の審査をきちんと納得できるようにやる」との原則を示しており、規制委員会が独立性を確保しつづけられるか、また、規制委員会の審査後の立地自治体の同意を得られるかが大きな焦点となってきそうです。


その他の動き

一方、活断層の存在などにより廃炉を迫られる原発が出てくることから、経産省では、電力会社が廃炉費用や原発の資産価値がゼロに目減りすることによる損失を長い期間かけて分割して決算処理し、一度に巨額の損失を出さなくても済むようにする仕組みの検討を始めました。試算では、国内の原発50基すべてをすぐに廃炉にすると計4兆4664億円の損失が出るとしており、資産を売っても損失をまかなえない債務超過に陥る電力会社も出てきます。こうした経営への影響が廃炉が進まない一因と言われているためです。

最後に、原発輸出の動きをお伝えしましょう。「福島原発事故の究明も終わっていないのに」という反対論も根強い中、安倍政権は2013年度当初予算にも国内メーカーが海外で原発を建設するための調査や人材育成に12億円を計上しているほか、安倍首相が東南アジア3カ国歴訪や中東歴訪での原発トップセールスに力を入れています。

原発輸出の前提となる原子力協定をアラブ首長国連邦(UAE)、トルコと締結し、サウジアラビア、ブラジルとは締結に向けた交渉を進めています。すでに原子力協定が結ばれているベトナムやカザフスタンとは原発建設の導入や協力の覚書を結びました。トルコの原発も受注しています。

また安倍首相は5月、インドへの原発輸出に向け、日印原子力協定の「早期妥結」でインドのシン首相と合意しました。核保有国、核不拡散条約(NPT)未加盟国であるインドとの原子力協定については、いくらインドの原発市場が魅力的とはいっても、被爆国として問題ではないかという反対の声も上がっています。

以上、大きな動きの見られるものを採り上げて、日本のエネルギー最新動向をお伝えしました。今後もアップデートしていく予定です。日本のエネルギーをめぐる方向性が真に幸せで持続可能な方向に向かっていくよう、(現在は向かい風のように感じていますが)ぜひ見守って下さい!


(枝廣淳子)

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