ニュースレター

2013年05月07日

 

人と人がつながっていく新しい働き方「コワーキング」

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JFS ニュースレター No.128 (2013年4月号)


今やパソコンが1台あれば、あらゆる場所で仕事ができる時代になりました。オフィスという形態にとらわれることなく、自宅で仕事をし、ある時はカフェで仕事をするなどそのスタイルはさまざま。しかし個の働きは自由であるものの、その時間が長く続けば、人とのつながりが欲しくなります。そんな時代に生まれたのが、異なる仕事を持つ人たちが仕事場を共有し、コミュニケーションを図る「コワーキング(Coworking)」という働き方です。

このワークスタイルは2006年にアメリカで始まったとされ、2010年に日本で初めてのコワーキングスペースが誕生しました。2013年時点では日本全国に200カ所、世界には2200カ所にまで広がっています。東京で初のコワーキングスペースを開いた佐谷恭さんに、この新しいスタイルの働き方と可能性についてお話を伺いました。


パーティするように仕事しよう!

佐谷さんが代表を務める「パックス・コワーキング」は世田谷区の経堂駅から歩いて3分ほどの場所。広い部屋には大小いくつかのテーブルが置かれ、そこを訪れた人は好きな場所にすわって、三々五々仕事を開始します。

仕事時間のほとんどをここで過ごすフルタイムコワーカー、週に1~2回訪れるパートタイムコワーカー、ふらっと立ち寄って体験利用できるドロップインなどがあり、働き方を自由に選べることがコワーキングの特徴です。職種もIT関連、デザイナー、農業関係者、編集者、ライター、大学講師、飲食店経営者などと多岐に渡っています。

パソコンに向かって自分の仕事を続けながら、隣同志の人と話が弾むこともあり、ちょっとした悩みを相談したり、冗談交じりで話したプロジェクトが現実のものになったりと、そこではさまざまな展開が見られます。

佐谷さんは、コワーキングについて「パーティするように仕事しよう!」というフレーズで表現しています。いい仕事をするために必要な環境は、楽しいパーティを開くための環境と同じで、気のおけない仲間がいて、リラックスした雰囲気でコミュニケーションが取れるということ。そこから刺激を受けつつ新しいアイデアが生まれていくのです。


コワーキングの歴史と背景

20世紀初頭のパリで芸術家が集まったり、ニューヨークでは文筆家が集まったり、複数の人たちが仕事場を共有するスタイルはいろいろな場所で行われてきました。2006年にニューヨークで個人の起業家がコワーキングを呼びかけた例がありますが、現存するスペースとしては、同年11月、アメリカのサンフランシスコに「シチズン・スペース」として誕生したものが世界初とされるコワーキングスペースです。その後、コワーキングはアメリカ国内の大都市で徐々に広がり、やがてヨーロッパにも広がっていきました。

日本でも、インターネットの普及とともに場所を選ばない働き方が浸透していきました。個人で仕事を受け、自宅や個人事務所で仕事をする人が増えていくと、共同で事務所を構える人も出てきて、2000年以降には、空きオフィスの有効活用として「レンタルオフィス」や「シェアオフィス」が急増しました。しかし、ここではコラボレーションを起こした例はほとんどないと言われています。

ここ2~3年はインターネットのさらなる普及で、無料のWi-Fiが利用できるカフェなどで仕事をする人も増えてきました。こうした人たちのことを、作家の佐々木俊尚さんは遊牧民になぞらえて「ノマド」と名づけ、この呼び名が定着しました。しかし、公共の場ではあまり長時間の利用はできないなどのデメリットも多いのです。

コワーキングというワークスタイルは、こうした問題を解決すべく、日本では2010年に初のコワーキングスペース「カフーツ」が神戸に誕生し、次いで東京に「パックス・コワーキング」が誕生しました。


コワーキングのメリット

佐谷さんは、これまで世界各国を旅して多くの人と出会ってきました。世代や国籍、立場を超えて皆が対等でいられる旅先での「非日常的な体験」は、その後の飲食店経営に生かされ、さらにコワーキングスペースの立ち上げにつながりました。

「日本はこれほど豊かなのに、人々の表情が暗いのはなぜでしょう。飲食店では人と人が話しやすくする仕掛けを作り、ここではみんなが『100%笑っているね』と言われました。それなら『100%笑っているオフィスを作れないかな』とずっと考えてきました」。

1日に長い時間を費やす仕事の時間こそ、この発想で変化させたいと考えていたときに、ロンドンのコワーキングスペースの写真を目にする機会があり、描いていたイメージとぴったり重なり、すぐに自らコワーキングスペースの立ち上げを決めたのです。

シェアオフィスやノマドと違ったコワーキングのメリットはいくつか挙げられます。Wi-Fiと電源がある、利用料金が安い、セキュリティへの不安が少ない、自分の居場所ができる、仲間や多くの知り合いができる、作業に集中できる、コミュニティの存在により仕事の意味が変わる、知識と技術の共有ができる、仕事のパートナーができるなどです。


コラボレーションによるさらなる可能性

現在、世界各地でコワーキングスペースは増えつつあります。中でもその約40%を占めるのがアメリカで、特にニューヨークとサンフランシスコに集中しています。ヨーロッパにも浸透し、2010年には、ベルギーにてヨーロッパで最初のコワーキングスペース・カンファレンスが開催されました。アジアでも、中国、シンガポールをはじめ少しずつ広がりを見せています。

日本国内では、都心部から地方へとコワーキングスペースの開設ラッシュが続いています。その中で、実際にいくつもの新しいプロジェクトが生まれています。例えば、「ナナ・ミュージック」は、自分の歌声を録音し、ネットで共有し、ほかの人の歌にハモリを入れるなど、簡単に世界中の人と音楽のコラボができるというサービスを行い、アメリカに海外法人を設立しました。最初は、「カフーツ」を発信地に、現在は「パックス・コワーキング」を本拠地として国内外のコワーキングスペースとつながりを持ちながら業務を行っています。

また、農業ウェブマガジン「株式会社ザックザック」は、生産者と消費者をつなぐ情報を提供し、多くの協力者をコワーキングのメンバーから見つけています。さらに、介護家族と子育てママの社会復帰支援「一般社団法人エッグシェル」は、コワーキングスペース内で仕事を続けていくうち、密接なコラボレーションを経験し、自らコワーキングスペースを開設したという例もあります。

ほかにも、コワーキングスペースでは、勉強会や大手企業とのコラボレーション、東日本大震災の復興支援を行うなど、いろいろな試みが広がっています。

佐谷さんは、「コワーキングスペースでは、一人ひとりがスペシャリティを持っていて、本人が当たり前と思っていることも、ほかの人に話してみると一般の視点で答えてくれて問題が解決することもあります。普段でも必要なときには、気軽に他人に話しかけられるような社会であれば、そういう雰囲気がオフィスでもどんどん出てくれば、社会全体に変化が起こるんじゃないかと信じています」と話しています。

「コワーキング」という新しい働き方、新しいつながりによって、今後さらにもたらされるより良い社会変化の可能性に期待したいと思います。

〈参考〉
パックス・コワーキング

つながりの仕事術 「コワーキング」を始めよう(洋泉社 新書)
佐谷恭・中谷健一・藤木穣


(スタッフライター 大野多恵子)

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