ニュースレター

2013年04月16日

 

企業と社会と個人を結ぶ「共成長マーケティング」

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JFS ニュースレター No.127 (2013年3月号)

JFS/Co-Growth Marketing: Linking Companies, Society, and Individuals
Copyright AQUA SOCIAL FES!! 事務局


トヨタの小型ハイブリッドカー「アクア(AQUA)」の発売にちなみ、全国で水辺の環境保全活動を行うプロジェクト「AQUA SOCIAL FES!!」が注目されています。新車の発売と、環境ボランティアとして水辺に多くの人が集まるという一見何のつながりもないようなことがどのようにして結びついたのでしょうか?

アクアが発売されたのは、2011年12月。当初からこのプロジェクトのアドバイザーとしてトヨタ、広告代理店をサポートしてきた一般社団法人Think the Earthのプロデューサー上田壮一さんは、「従来のCSR活動という枠組みではなく、企業、NPO、個人の連携によるソーシャルコミュニケーションという新しい手法です。アクアが『水』という意味もあり、環境性能の高い車を作った延長線上で、未来をよくしたいと考える人たちとともに水辺再生の活動をしようということになりました」と話しています。

最近は、企業と個人がつながって社会を変えていこうという「共創」という言葉をよく聞くようになりましたが、このプロジェクトでは企業、社会、個人が「共に成長していく」ことを目指し、「共成長マーケティング」と名付けられました。


共成長マーケティングとは

アクアはリッター35.4kmという世界一の低燃費車で、2012年10月には月間の車名別新車販売台数で1位になりました。これまでのハイブリッドカーに比べ、コンパクト、低価格ということもあり、若年層からも支持されています。

最近は、若者のクルマ離れが顕著になってきましたが、新しいマーケティング概念として多くの人たちの心を捉えたのが「共成長マーケティング」という考え方です。従来は、企業と個人が商品を提供、享受するという一方的な関係でした。それに対して企業、社会、個人という三者が関わる「共成長マーケティング」は、企業にとっては「ブランド思想を理解してもらい、選んでもらう」、社会にとっては「よりよい自然や環境や未来がもたらされる」、個人にとっては「マーケティング活動に参加し、楽しめる」というように、共にWin-Winの関係で結ばれることを目指しているのです。

ここ数年、若い人たちの価値観が変化し、社会貢献できるボランティアに参加したい、社会に貢献しているブランドを選びたい、などという傾向が見られるようになりました。そういった背景を踏まえて生まれたのが、水辺環境を保全していこうという「AQUA SOCIAL FES!!」です。アクアというクルマが提供するカーライフだけでなく、地域社会や環境などを含めた広い意味で、キャッチフレーズともなっている「あしたの『いいね!』」をつくることを目指しています。

2012年より全国47都道府県、50カ所で始まった「AQUA SOCIAL FES!!」は、それぞれの地域の新聞社とNPOなどの活動団体が協力し、かつてない規模で行われています。2012年には、131回の開催、1万人以上が参加しました。上田さんは、その中でも岩手県の北上川と、東京都・神奈川県の鶴見川の保全活動にかかわってきました。北上川と鶴見川は、「AQUA SOCIAL FES!!」のもう一人のアドバイザーであり、NPO法人鶴見川流域ネットワーキング代表の岸由二さんが提唱する流域思考に基づいた活動が展開されました。

JFS/Co-Growth Marketing: Linking Companies, Society, and Individuals
Copyright AQUA SOCIAL FES!! 事務局


北上川の再生に必要な「森」と「人」

アクアの生産拠点となっている岩手工場は、2011年の東日本大震災後の復興支援のためにこの地で積極的な雇用を生み出そうということで選ばれた工場です。

その工場からも近い北上川の流域でスタートした「AQUA SOCIAL FES!! 北上川流域再生プロジェクト」には、岩手工場の社員も参加し、一般社団法人いわて流域ネットワーキングやカタクリの会のメンバーや個人参加の人たちとともに作業を行いました。

北上川流域再生プロジェクトは、まずは川の水を保つ森の再生からスタート。北上川の支流和賀川の源流近くにある「星めぐりの森」は、元々ブナの森を伐り開かれた牧草地で、その後長く放置されて荒れ地となっていました。まだ雪深い3月に始まったプロジェクトは、雪渡りに始まり、新緑の時期の下草刈りなど、四季を通じて森の様子を観察しながら進めていきました。そして、近くで集めたドングリやトチやクリの実をポットで発芽させて苗作りをし、1000株以上の植樹を行いました。50年後を見据えた森づくりによって、ここが水を貯える「流水のタンク」になっていくのです。

また、川の安全基礎知識からレスキューの実地訓練までを行う若者によるアクアレンジャーの育成も行われ子どもたちの川の環境学習など、川の活動をサポートする人材も育っています。川の再生のためには、森を再生し、そして多くの人の手が必要でした。

全7回の活動を通し、参加者は実際に運搬車として活躍したアクアの写真を撮り、次々とフェイスブックに載せて活動の様子を発信するなど、かつてなかった一般市民によるマーケティングが展開する結果ともなったのです。


鶴見川流域で多彩なプログラムを展開

JFS/Co-Growth Marketing: Linking Companies, Society, and Individuals
Copyright AQUA SOCIAL FES!! 事務局


鶴見川は、東京都町田市の源流に発し、横浜市鶴見区で東京湾にそそぐ全長約42.5kmの一級河川で、流域人口190万人の都市河川です。NPO法人鶴見川流域ネットワーキングが共催となって、「AQUA SOCIAL FES!! 鶴見川流域再生プロジェクト」全9回に渡り、上流、中流、下流のエリアを行き来しながら活動を行いました。

中流では春に清掃を行い、水源である上流の「源流保水の森」では、エノキの植樹を行い、森の保水力向上、ゲンジボタルや絶滅危惧種となっている国蝶のオオムラサキの保全を目指しました。河口干潟のある下流では、清掃と外来生物退治なども行い、1年を通して自然保護活動が行われました。

全国でもっとも多くプログラムが企画されたのがこの鶴見川で、ほかにも多数のイベントが開催されました。春のウォーキング、初夏のホタル観察会、夏のカヌー体験、秋には、特定のエリアに生息する生き物をたくさん集めて種類ごとに分けて観察するバイオブリッツやシードバンク作りなど、四季を通した自然学習アクティビティが充実していました。本来は日本の原風景を形作っていた鶴見川ですが、その再生に向けて、多くの人が共に汗を流し、参加した女性は「いろいろな人と出会えたことが楽しかった」と話しています。中には皆勤賞でこのプロジェクトに参加した子どもたちもいたそうです。


会社が変われば社会が変わる

北上川、鶴見川ほか全国各地で展開された「AQUA SOCIAL FES!! 2012」は、参加者総数が0歳から91歳まで11,533人にも上りました。参加者のアンケートによれば、「参加した理由」として、「楽しそうだから」「社会に良いことをしたいと思うから」などの回答が多く、実際に参加して「達成感があったか?」という質問には、87.9%の人が「達成感があった」「やや達成感があった」と答えています。

また、「AQUA SOCIAL FES!!」は、グッドデザイン賞2012年のサステナブルデザイン賞を受賞しました。「企業の広告費を変えたら、社会が変わる。広告費の使い方をデザイン。」というコンセプトによって、「広告費で社会貢献活動を実現」したことを訴求。「世界最高燃費から『持続可能な社会』というテーマが現れ、それをふまえたアクアというネーミング、ひいては水の環境を守るという活動展開には一貫した文脈がある」と評価されました。

上田さんは、年間を通して活動にかかわりながら、「実際これほど多くの人が参加してくれるとは思いませんでした。一人ひとりが汗をかくことで、ゴールに向かえた達成感があったのでは。企業に勤める人が多い日本で、社会を変えていくには、まず会社が変われば社会が変わるということがとても大切だと思います。個人が社会を変えるのは難しいけれど、そういった意味で、共成長マーケティングは、これからの時代を象徴する方式だと言えるでしょう」と手ごたえを感じています。

森を作り、水の環境を守ることは、一過性の行動で解決できることではありません。トヨタアクアが「次の10年を見据えたコンパクトカー」であると同時に、「AQUA SOCIAL FES!!」の活動は単発のマーケティングではなく、中長期的に取り組んでいくというもの。今後ともその動きに注目していきたいと思います。

JFS/Co-Growth Marketing: Linking Companies, Society, and Individuals
Copyright AQUA SOCIAL FES!! 事務局


〈参考〉
AQUA SOCIAL FES!!
Think the Earth
グッドデザイン賞


(スタッフライター 大野多恵子)

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