2013年02月12日
Keywords: ニュースレター 生態系・生物多様性 食糧
JFS ニュースレター No.125 (2013年1月号)
絶滅のおそれのある野生生物を救うことから活動をスタートさせた世界自然保護基金(WWF)。活動の一環として、海の生きものに配慮した漁具の工夫を競うコンテストを主催しています。2011年には、日本の漁業団体がこのコンテストで大賞を受賞しました。
今回のJFSニュースレターでは、WWFジャパンの快諾を得て、この団体の漁具開発と工夫についてのインタビュー後編をお届けします。
参考:
世界の海から「混獲」をなくす!日本の漁業の挑戦(前編)
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世界が認めた「二重加重枝縄」その広がりへの期待
-二重加重枝縄を普及していこうという動きはありますか?
「今、南アフリカだけでなく、ブラジルの200海里でも採用することをめざして、細かいスペックをつめているところです。
また、2011年の夏には、ACAP(アホウドリ類とウミツバメ類の保全に関する協定)の海鳥回避装置に関する作業部会というのがエクアドルでありましたが、そこに招かれて二重加重枝縄について紹介をしました。
国際スマートギアコンテストでいただいた賞金は、普及活動に使いなさいという「ヒモ」が付いていますからね(笑)。
台湾、韓国、中国の大手のマグロ船を所有している会社に、二重加重枝縄を解説するCDも配布していますし、水産庁にお願いして、ACAPと、バードライフインターナショナルと共同で、普及のためのワークショップを開催しようとしています。
我々だけでやっているのじゃなく、中国、台湾、韓国、EUの船にも取り入れてもらわないと、意味がないですから。」
-国際的な漁業協定の中でも、拘束力のある採択がなされたと聞きました。
「2011年のICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)で、2013年7月から、南緯30度以南では、(1)加重枝縄、(2)トリライン、(3)夜間投縄のうちから2つを採用する、ということが決まりました。
IOTC(インド洋まぐろ委員会)でも、南緯25度以南について2014年からそうなります。いずれも拘束力のある採択です。
採択から実施まで、一年ほど期間があるのは、一年以上、日本に戻ってこない船に対して、やり方の普及、材料の調達・補給などをやるとなると、やはりそれなりに時間がかかるからです。悠長だという非難もありますが、これは必要な時間です。」
-3つのうち2つ、とされている意味は?
「海鳥が飛び込んできやすい場面の一つが、延縄(はえなわ)を海に入れる時です。そこで、我々は、船尾から100mくらいは、トリラインでカバーして、その先は、二重加重枝縄によって、すみやかに餌を沈める、という対策をとっています。
ただ、ICCATやIOTCの採択では、加重枝縄、となっていて、必ずしも二重加重枝縄であることとはされていません。
でも漁師の側からすれば、(錘が一つだけの)加重枝縄では危険もあるし、漁獲効率も下がるので、二重加重枝縄を採用できるように、ICATTの採択の中でも、細かいスペックについては漁業者のほうの裁量で、幅をもたせることができるようにしてもらっています。」
人と海鳥にやさしい漁業をめざして
イメージ画像: Photo by hankplank.
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-夜間投縄というのは、効果があるのでしょうか。
「海に飛び込んで魚をとる海鳥は、視覚に頼っているものが多いので、夜間に延縄を海に入れることは、混獲防止に効果があります。
ただ、まっ暗な中で縄をうつので、どうしても手元の明かりは必要になります。でも、船が揺れるので、最低限の手元の明かりでも、周囲へ散ってしまい、却って鳥が集まる結果になることもあるんです。
しかも、漁業者の睡眠時間が減るという問題もあります。日の出までに投縄を済ませなければならないとなると、今は午前4時くらいから縄を入れ始めているのを、午前1時とか2時に始めなければならない。そうなると、睡眠時間が削られることになって、安全や健康管理に問題が出てきてしまいます。
夜間投縄は、漁業者として受け入れられないですね。漁業者の安全面や健康、漁の効率、混獲回避への効果、すべてを考え合わせて一番よいのが二重加重枝縄なんです。」
-漁業にたずさわる方々にとって、混獲を防ぐというのは、どのような意味を持っ ているとお考えになりますか?
「延縄漁に関しては、餌をとられる被害を防ぐ、という意味もあります。しかし、それより、混獲を防ぐというのは、今や避けて通れない問題だと感じています。
この問題を避ける、ということは、マグロ延縄漁から撤退するという意味だと思っていますから。
そうした中で、現場の漁労長のアイデアで、ようやく我々としても納得のできる対策ができました。
だから、早く他の国や団体にも普及させたい。これ以上、混獲の問題で漁業活動が制限されるようなことがなくなって、安心して操業が続けられるようになることを願っています。
環境団体も、これまで混獲問題を批判してきた分、ようやく、ほぼ完成した我々の取り組みを、ぜひ広く知らせてほしいと思います。」
WWFジャパン 世界の海から「混獲」をなくす!日本の漁業の挑戦 より転載
http://www.wwf.or.jp/activities/2012/06/1071528.html