2012年11月06日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.122 (2012年10月号)
ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)では、2012年8月20~25日に「世界が東北から学ぶ旅(ラーニング・ジャーニー)」と題し、国内外の若者たちが東北の被災地を訪ね、被災された人々や復興に取り組む人々の生の声に触れながら、3・11以降の軌跡と今を見つめる学びの旅を実施しました。
なぜラーニング・ジャーニーか?
2011年3月11日の東日本大震災は、日本、特に東北に大きな被害をもたらしました。それから1年半、各地で懸命の復旧・復興への取り組みが行われていますが、地域の真の復興には時間がかかることも事実です。
また、世界に目を向ければ、地球温暖化、貧困問題の深刻化など私たちは多くの社会的課題を抱えています。そんな中、真の意味で豊かで持続可能な社会づくりをどう進めていくことができるのでしょうか。複雑かつ困難な状況にありながらも復興へと歩みを進める東北の現場には、東北のみならず世界が学ぶべきものが数多くあるように思います。
今後何年にもわたるであろう復興の取り組み、そして持続可能な社会づくりを進めていくためには、世界に東北の今を伝え続け、東北の学びを世界の学びにしていくことが大切です。
そのために、次世代を担う国内外の若者たちが被災地を訪ね、彼らの学び、成長、そして世界へのメッセ-ジを発信することで、若者たちの感受性や能力育成を支援しつつ、東北の学びを世界の人々と共有するラーニング・ジャーニーを企画しました。
学びのプロセス
ラーニング・ジャーニーの参加者は世界中から集まった14名です。国籍だけを見ても、カナダ、韓国、ジンバブエ、中国、デンマーク、ドイツ、フィンランド、ブラジル、日本とさまざまで、文化、専門領域、経験など実に多様な背景を持つグループとなりました。
また、宮城県の石巻、雄勝、気仙沼という3カ所を訪問先として選定し、各地域でもできるだけ多くの地元住民の方、企業、行政、復興関連NPOなどを訪問できるよう設計し、震災とその復興における多様な側面を体験できるように意図しました。
異なる視点を持つ参加者が、多様な現実に触れ、対話を通じて共に学びを深めていく点が今回の旅の特徴でもあります。そのために、組織学習の経験豊かなファシリテーターであるBob Stilger(ボブ・スティルガー)さんと由佐美加子さんのお二人に同行いただきました。
学びの旅への事前準備
東北への訪問前、東京で最初のセッションが行われました。そこで、参加者はいくつかの問いと向き合いました。最初の問いは、「なぜ自分たちは今この場所にいるのか?」から始まりました。参加者からは「東北の人々の話を直接聞きたい」「学ぶだけではなく、東北のために行動を起こしたい」「人々が東北にもう一度目を向けるきっかけを作りたい」「世界の人々と共に、持続可能な社会を考えたい」といった声が聞かれました。
その後は、「このラーニング・ジャーニーが終わった時、あなた/このグループ/東北で出会った人々は、どんな状態や気持ちになっていると思いますか?」という問いについて考えました。「東北とのつながりを感じていたい」「尊敬と他者を思いやる深い感覚を持っていたい」「一つの家族になっていたい」などが参加者からは挙がりました。
東北での学びの旅
東北では、震災を直接体験した人々や、復興に取り組む人々から話を伺いました。ここでは訪問先の一つである雄勝町船越地区の「船越レディース」での体験について紹介します。
船越地区の女性たちが結成した船越レディース。雄勝は「雄勝石」という硯に使われる石で有名で、彼女たちはその石を利用したペンダント、キーホルダーなどの製作・販売を行うことで日々の生計を立て、地域の復興を担っています。
雄勝町で起こっている人口流失の例に漏れず、船越地区でも、震災前は120あった世帯数が激減し、今は1世帯のみが暮らしています。震災で住めなくなった住居から立ち退かざるを得なくなった人々は石巻市内にある仮設住宅などで暮らしています。船越レディースのメンバーの多くも、毎日片道1時間かけ石巻の仮設住宅から通っています。「それでも、同じ地域の仲間に会えるのが楽しみで仕方がない」。女性たちはそう話してくれました。
船越レディースの方々が、その明るい人柄でボランティアや訪問者を温かく迎え入れる姿勢に感銘を受けた参加者も多かったようです。もちろん、その明るさの裏には辛い過去の体験があります。「私たちもずっと明るかったわけじゃないんだよ。震災後しばらくは涙も出なかった。ただただ落ち込んでいるだけだった。でもある時から泣けるようになって、そうしたら色々な感情がばーっと出てきたんだよ。独りだったらどうなっていたか分からないし、それは地域の仲間がいたからこそ。こうして、毎日笑えるようになってきたんだよ」
船越レディース以外でも、東北ではさまざまな出会いや体験がありました。涙が溢れるような辛く悲しい震災の体験、自分の生まれ育った地域を良い街にするという復興への強い想い、複雑な現実という壁、そしてたくさんの笑顔や元気。そのどれもが現実でした。こうした体験を基に、ラーニング・ジャーニーの参加者14名は対話を重ね、深い学びをしていきました。
対話イベントの開催
最終日にあたる8月25日には、対話イベント「東北から世界へ、今私たちが伝えられること」を開催しました。このイベントは、ラーニング・ジャーニーの参加者がイベントそのものをデザインし、対話のホスト役やファシリテーターを務める形で開催しました。
被災地における体験を通して学んだことを来場者の方と共有しながら、これから私たちが生きる上で避けて通れない、さまざまな社会経済システムの再構築、そしてサステナビリティというテーマについて、被災地から何を学ぶことができるのか、また何を学ぶべきなのかを対話を通じて深める場となりました。
この対話イベントが社会に働きかける具体的な行動の1つとなったことで、ラーニング・ジャーニーの大きな成果の一端を目にすることができました。
参加者の感想
ラーニング・ジャーニー終了後、参加者からは以下のような感想が寄せられました。(一部抜粋・改編)
終わりに
「次はいつ来れるの? また来てな~」。別れ際にそう言ってくれた船越レディースの女性たちの言葉が心に残っています。外からきた訪問者と受入先という関係だけではなく、今回のラーニング・ジャーニーを通じて、一人の人間同士としての深いつながりが生まれる場面も多く見られました。ラーニング・ジャーニーから2カ月を過ぎ、東北復興と持続可能な社会づくりに向けて具体的に動き出した参加者もいます。ラーニング・ジャーニーを経験した参加者たちが、今回の学びをどう活かしていってくれるのかが楽しみでなりません。
(スタッフライター 後藤拓也)