ニュースレター

2012年10月23日

 

インタビュー: ポスト3・11 森から見た日本再生のシナリオ

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JFS ニュースレター No.121 (2012年9月号)

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Copyright watashinomori.jp


東日本大震災から今月で1年半が経ちました。被災地での支援、避難生活を余儀なくされている方々への支援、そして被災地の復興への歩みが始まり、復興後の東北はどうあってほしいのか、人々は模索し続けています。

今回のJFSニュースレターでは、早くから森林生態系の重要性を発信してきた先駆者でもある、オークヴィレッジ、NPOどんぐりの会の代表の稲本正さんが、「私の森.jp」のインタビューで語った、3.11 後の日本の再生論をご紹介します。

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僕は、2011年3月11日を境に日本は変わらなければならないと思った。もっと言えば、これで変わらなきゃ人類は滅ぶというくらいの強い思いがある。5月に発表した「緑の国プロジェクト」は、被災地の復興支援に始まって、日本の再生につながる提案なんです。

まず、東北では、これから家を建てるために間違いなくスギ林を大量に伐ることになる。仮設住宅も、その後の住宅も木の家が増えるはず。僕らはスギ材でつくる木造復興住宅「合掌の家」を発表したけど、家を一戸立てるのにはスギが100本くらい必要なんです。そこで提案するシナリオの1番目は、大量に伐採した東北のスギ林の跡地に広葉樹を混ぜて植えること。針広混交林を増やして、「緑の国」を支える豊かな生態系を取り戻す機会にします。

2番目は、伐採時に出る広葉樹の間伐材から積み木をつくったりアロマを採ったり、余すところなく使うこと。被災地の子どもには、親を亡くしたりして遊べなくなった子もいるから、積み木と一緒に人も送る。アロマはマッサージに使ってもらう。実際、クロモジやサンショウなどの国産アロマは、「馴染みがある香りだ!」とお年寄りにも好評なんです。

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種拾いツアーの様子。
Copyright NPOどんぐりの会

3番目は、植林用の広葉樹の苗を育てること。そのために地元の東北で種を拾っています。実は広葉樹の苗というものはどこにも売っていない。そこで2011年10月には宮城県の栗駒山で「種拾いツアー」を企画し、みんなで2万個以上を集めました。

この種を都会の子どもたちに配って、育ててもらおうと考えている。僕らは「子ども1人にドングリ1個」って唱えていて、芽が出るまでの間、「ドングリの里親」になってもらうんです。それを引き取って苗床で育てて、実際に東北に植林するまで2~3年かかりますが、そうすることで被災地と都会が結びつく。


東北に立ち上がる「緑の国」の循環モデルを世界に示そう。

東北でめざす「緑の国」とは、森林によって支えられる持続可能な循環モデルです。よく、日本の林業は採算が合わないと言われるが、それは伐採した材からひたすら柱を取ることだけが目的になっているから。間伐材を含め、木をもっと有効活用できる。端材もアロマや玩具、製紙用チップ、バイオマスエネルギーなどに使える。森林資源の利用の仕方を見直して、きちんと販売できるシステムができれば、大きな成果を期待できるんじゃないかと思う。

もし東北で、「廃墟」の上に新しい持続可能な「小さな緑の国」が立ち上がったら、それは日本の将来を指し示す一つのモデルになる。そして、このモデルを世界に先駆けて示すことができれば、人類の文明を持続可能に変える可能性もある。僕は身の回りに溢れるプラスチック製品は、原理的に木で置き換えられると考えて、さまざまな木の可能性を探っているんです。


空気、水、食糧。私たちは「緑の国」に生かされる。

なぜ「緑の国」が必要なのか。第一に、空気です。人は平均して1日に20~25キロの空気を吸うんです。大人1人が呼吸するためだけで、木に換算して15本必要になる。さらに、文明国で排出する二酸化炭素(CO2)の量は呼吸の20倍以上で、これを吸収するのに必要な木の本数は、日本では1人あたり376本、アメリカはなんと約800本!

いずれ中国やインドが、いまの日本やアメリカ並みに酸素を消費するようになったら、森がいくらあっても足りない。そして酸素の大部分は森林の光合成によってつくられている。森林が減ってしまうと人が必要とする空気がまかなえなくなり、人類は存亡の危機に瀕します。

第二に、水。人は1日に2リットルのきれいな水が必要です。地球上の水の97.5%は海水で、残る2.5%のうち9割は地下水や高山の氷雪など。だから人間の手が届く陸地の水は、地球上の水の0.25%しかない。しかもその大半は汚い水なので、実際に使えるのは0.1%以下。そして、きれいな水の大部分は森林がつくり出す。海外資本が日本の森林を買い求めるのは水のためだと言われています。世界から見れば、水は日本が持つ貴重な資源なんです。

第三に、食糧。人は1日2キロの食糧を食べる。肉であれ、魚であれ、たどっていくと、栄養の大本は毒のない植物です。結局、食糧についても、きれいな水で育った植物が必要なんです。森から生み出されるきれいな水がなかったら、安全な食糧を手に入れることもできなくなります。

空気と水と食糧のために木や森が必要。そんなことは、ごく当たり前の基本なのに、みんな本当にはわかっていないんじゃないか。人類が生きていくためには、健康な森が十分にある状態、つまり「緑の国」が必要なんです。

葉っぱは、なぜ緑色だと思いますか? 効率だけ考えたら「黒」が一番良い。ところが葉っぱは可視光の真ん中の光量が豊かな「緑色」を反射している。僕にはまるで「葉っぱは、人間をはじめとした動物に、エネルギーをなるべくたくさん分け与えようとしている」と思える。緑に生かされているんだと感じます。


被災地で実感した、森があることの価値、そして決意。

3月11日は、講演のために京都にいたので全く体感はないんです。でもすぐに大変なことが起こったと分かったので、昔からの友人で、気仙沼で植林活動をしていた漁師、畠山重篤さん(※)の安否を心配しました。ほどなく本人の無事は確認できたけれど、畠山さんは被災されてお母さんを亡くされて。でも、「緑の国プロジェクト」は一緒にやりたかったから、まだ寒い4月、気仙沼に会いに行きました。

海抜25メートルの高台にあった畠山さんの自宅は無事だったけど、津波が21メートルというから、ほんの4メートルの差で逃れたことになる。牡蛎の養殖場はもちろん、舞根の集落の9割は津波で跡形もなく流され、ライフラインも遮断されていました。「応接間へどうぞ」って案内されたテントの中には薪ストーブが焚かれていて、僕らはそこで話をしたんです。

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舞根湾近くで撮影。右側手前から奥へ続く茶色い木立は、塩害で立ち枯れたスギ。
津波はこんなに奥まで到達していたのか、と言葉を失う。
Copyright watashinomori.jp


「森は海の恋人」を提唱する畠山さんは、「漁師は泥棒みたいなもんだ。海に金を払わずに、とってばっかりじゃダメだ。海に感謝するなら、木を植えなさい」と言って、20年以上も植林活動をしてきた人です。牡蠣が育つのに必要な、ミネラルや栄養が豊富な海にするためには上流の森が必要なんだと。そして舞根湾に注ぐ川の上流の森に毎年広葉樹を植えてきた。

実際、舞根湾には震災3日後に魚が戻り始めたらしい。そのことを話して畠山さんは「海は懐が深いね」って言うんですよ。あんなにひどい目にあっても、「漁民で津波を恨んでいる人間は誰もいない。海の見えないところには住みたくないんです」と言っていて、それが印象的でしたね。

震災と津波、原発事故を受けて、僕は、もっと前に出るしかないと決めた。これまで休みなく日本中の森を回り、世界の森も回ってきて、もうそろそろ次の世代にバトンタッチして休もうかなと実は考え始めていた。けれど、今は死ぬまで木を植えたり育てたりするしかないなと。畠山さんに会ったことで、ますますそう思った。「緑の国プロジェクト」のシナリオの通り、元気で動ける間は動いてやろうと思っていますよ。

(※)畠山重篤さん:牡蠣養殖家・NPO法人「森は海の恋人」代表

(私の森.jp より転載)
http://watashinomori.jp/post311/interview_01.html

JFS参考記事:
日本の森林の状況について

English  

 


 

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