ニュースレター

2012年04月26日

 

「写真の力」で社会貢献を ~ 株式会社ニコン

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JFS ニュースレター No.115 (2012年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第100回
http://www.nikon.co.jp/


「期待を超えて、期待に応える。」

現在、日本の製造業は、長引く円高、タイでの洪水被害、隣国の韓国の躍進ぶりなど、取り巻く環境は厳しさを増しています。その中にあって、カメラの分野は世界市場において日本メーカーが75パーセントのシェアを占め、トップ3を日本メーカーが占めるなど、日本が強みを見せる部分です。

今年で創業95年となる株式会社ニコンは、1917年、当時の三菱合資会社社長、岩崎小弥太氏の出資により「日本光学工業株式会社」として設立された精密光学機器メーカーで、日本国内での売上高は全売上の14パーセント(2011年3月期)、社員構成も日本人の割合は40パーセント弱と、グローバル化の進む企業です。

ニコンでは今、「信頼と創造」を企業理念に掲げ、「期待を超えて、期待に応える。」というビジョンの実現を目指しています。

環境経営面では、環境管理基本方針の下、社内の環境委員会が環境活動の3カ年計画「ニコン環境アクションプラン」と毎年の「環境目標」を策定し、CO2削減部会、事業環境部会など6つの部会を通してグループ全体で具体的な活動を展開しています。

その一例として、製品に含まれる有害物質(鉛、ヒ素、六価クロムなど)の全廃に向けた活動の継続が挙げられます。1990年代までは光学ガラスで鉛とヒ素が使われていましたが、ニコンはそれら有害物質を使用しない「エコガラス」を開発し、現在ではごく一部の特殊仕様製品を除くほとんどの製品でエコガラスを使用しています。

他にも、鉛フリーはんだの利用や、六価クロムフリーの表面処理技術の確立など、日進月歩の取り組みで、着実に有害物質全廃に向かっています。物流面や海外の非生産事業所においても、CO2排出の削減や省エネルギー、自然エネルギーの利用などに取り組んでいます。2009年3月期からは、ニコングループは国連大学の提唱する「ゼロエミッション」(1994年)に独自のレベル別指標を導入し、廃棄物削減への取り組みの目標としました。以後、現在までに最終(埋立)処分率1パーセント未満となる「レベル1」を、株式会社ニコンおよび国内グループ生産会社など12事業所が達成しています。

2011年3月11日の東日本大震災では、ニコンも大きな影響を受けました。宮城県、栃木県、茨城県の1製作所と7製造会社で設備や建物の一部損壊等の被害があり、また事業所内ではなかったものの、社員4名が犠牲になったそうです。

未曾有の大災害を経験し、その中で「自分たちに何が出来るのか」を考え、話し合い、実行してきたニコンの取り組みについて、経営企画本部CSR統括部社会貢献室長の山崎英雄さんにお話を伺いました。


ニコンだからできる復興支援を実行する

ニコンのホームページには、「写真の力で復興支援」というページがあります。写真の力、それはつまりニコンができるニコンらしい支援をしよう、という意思表明でもあります。
http://www.nikon.co.jp/csr/support/index.htm

ニコンは、震災当初、宮城県名取市で被災したグループ会社(仙台ニコン)に食料など生活に必要な物資を送り、社員だけではなく近隣の方々への支援も行いました。仙台ニコンは震災からおよそ1ヶ月で一部生産を再開し、その間も支援を続けていた名取市とのやりとりの中で、市が必要としていたのがカメラでした。

「罹災証明に写真が必要なのですが、カメラを無くした人も多く、ここで必要ならば他でも必要だろうと被災三県に連絡し、1,000台のカメラを用意して、まずは役所に届けました。そのカメラの一部を、経産省の方とのご縁で、NPO法人映像情報士協会のプロジェクト「復興支援メディア隊」を通じて、今度は被災した地域の学校に届けていただきました」(山崎さん)

「特定非営利法人活動法人 映像情報士協会」
http://www.apvi-npo.org/

復興支援メディア隊は車にカメラを積んで被災した学校を回り、ニコンのプロジェクター内蔵のコンパクトカメラを贈りました。このカメラは撮影だけでなく、撮った写真を避難所となっている体育館の壁などに投影し、みんなで見ることもできます。撮影した画像は、羽田空港で開催した写真展で公開しました。さらに復興支援メディア隊が独自に撮ったビデオインタビューと併せてBSテレビや、インターネットで全世界に配信もしています。

ニコンはこの活動にカメラの提供で協力する一方、独自の支援として被災地の中学校を対象にした写真教室の開催や、生徒たちが撮影した写真で構成するフォトブックを作成して生徒に贈る活動「中学生フォトブックプロジェクト」を行っています。2012年3月期には、岩手県・釜石市立唐丹中学校、釜石東中学校と大船渡市立第一中学校の3校にて、生徒が撮影した作品をフォトブックにし、4月からは他の被災地域の中学校を対象に拡大する方針です。

「中学生フォトブックプロジェクト」
http://www.nikon.co.jp/csr/support/index.htm#sec01

「福島市に避難している飯館村の子供たちにも、別のプロジェクトでカメラを届けたのですが、その時に写真講習会も同時に開催しました。その時の子供たちの喜びようは今でも忘れられません」と山崎さん。「芸術性ももちろんですが、写真には人を勇気づける力がある。そう実感しました。『写真の力で復興支援』は、その思いから名付けたスローガンです」

こうしたニコンの復興支援の活動拠点「ニコンプラザ仙台」が、2012年2月28日、仙台駅前にオープンしました。写真展を行うフォトギャラリーのほか、東北各県で活動するNPOやボランティア団体、個人の復興支援活動等の情報発信やふれあいの場としてのコミュニティースペース、地元のニーズによりサービスセンター機能も設置しています。「被災各県の中学生の写真展も、まず地元で見せる。彼らの思いのこもった写真を地元で見ることに意味があります」(山崎さん)

他にも、がれき撤去等のボランティア活動の事前ヒアリング調査で行った先で、「せっかくニコンなんだから、写真の撮り方を教えてほしい」という声に応えて、石巻市ではNPOを対象にした写真教室を開催したり、山元町では仮設住宅に暮らす高齢者の方々にパソコンやインターネットと合わせてデジタルカメラ講習を行ったりしています。

「一つひとつのプランについて、本当に被災地・被災者の支援になるのかと社内で議論を重ね、『やる、やらない、もっとやる』の判断をしています。支援の押し売りはしたくないからです」(山崎さん)


環境教育の推進にニコンらしさで関わり続ける

ニコンでは、「すべての事業活動は自然環境からの恩恵を受け、また、自然環境に影響を与えている」という認識のもとに、社員、そしてその家族をも対象とした環境教育を行っています。「富士山の森づくり」の恊働プロジェクト(主催:公益財団法人オイスカ)では、これまでに社員とその家族延べ330名が富士山で植林等のボランティア活動に参加しました。社内教育、啓発の一環として2010年10月には「生物多様性パンフレット」「生物多様性読本」を作成、イントラネット上にも掲載し、生物多様性についてわかりやすく説明しています。

また、群馬県みなかみ町北部にある「赤谷の森」の生物多様性の復元と持続的な地域社会づくりを目指す公益財団法人「日本自然保護協会」の恊働プロジェクト「AKAYAプロジェクト」を支援し、顕微鏡やカメラの寄贈のほか、2009年には『赤谷ノート』という、森の生物多様性を紹介する冊子の作成をニコンが独自に行い、すでに5,500冊が全国の教育機関に送られています。他にも、協会やニコン所有の絵や写真を活用した「いきものカルタ」を制作し、楽しみながら生物多様性を知る子供向けツールとして、小・中学校約110校で活用されています。

環境啓発ツール(赤谷ノート・いきものカルタ)
http://www.nikon.co.jp/csr/society/education/environmental-education-support/tool/index.htm

国連環境計画(UNEP)、地球環境平和財団(FGPE)、製薬会社バイエルとの共催で行っている「国連子供環境ポスター原画コンテスト」も、そうした活動の1つです。全国公募の中から選ばれた作品が3月4日に国内部門表彰され、その上位作品がグローバル審査にエントリーされます。さらにグローバル部門での上位入賞者は、6月にブラジル・リオデジャネイロ市で開催される「地球サミット」20周年記念行事「リオ+20」の中で表彰される予定です。

国連子供環境ポスター原画コンテスト
http://www.nikon.co.jp/csr/society/earth/icpc/index.htm

ニコンの自然環境保全や社会貢献の取り組みは、社内におけるCO2の排出削減や有害物質の除去から、社内、社外への教育・啓発活動まで多岐にわたっていますが、ニコンはニコンらしい「写真の力で復興支援」を続け、持続可能な社会の実現に向けて挑戦し続けています。


(スタッフライター 青豆礼子)

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