ニュースレター

2012年01月24日

 

今夏の電力需要抑制対策の効果と学び

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JFS ニュースレター No.112 (2011年12月号)

この夏、日本は「供給電力が大きく減ってもやっていけるのか?」という大きな"社会実験"を経験しました。そのようすを、これまでのニュースレターでもさまざまな角度からご紹介していきましたが、夏が終わり、「実際にはどうだったのか?」というとりまとめが政府から出されました。

今回は大震災と原発事故による供給電力の低下でしたが、今後、温暖化対策として消費電力を減らしていく必要が出てくる可能性のある世界にとって、この日本の"社会実験"からさまざまな学びが得られればと思い、この12月に経済産業省が発表した「今夏の電力需給対策のフォローアップ について」をご紹介します。


今夏の電力需給対策の総括

まず、東京・東北電力管内では、3.11直後、やむを得ない緊急措置として3月14日~28日の平日10日間にわたり、計画停電が実施されました。これは国民生活や産業活動にかなりの悪影響を与えたと言われています。4月8日以降は計画停電は実施されていません。

電力需要の大きくなる夏期には、大口需要家(契約電力500kW以上の事業者)・小口需要家(契約電力500kW未満の事業者)・家庭の3者に共通して、9月30日まで「前年同月比15%削減」という需要抑制目標が設定されました。

計画的な電力ピークの抑制を行うため、大口需要家に対して、電気の使用制限が実施されました。(東北:9月9日まで、東京:9月22日まで)

日本の中西地域は、中部・関西・北陸・中国・四国・九州電力の管内ですが、原子力が再起動できず、中西6社全体で需給が逼迫しました。供給力が需要をどの程度上回っているのかを示す「予備率」は、最低でも3%、通常8%以上が必要とされていますが、6社の予備率は0.0%、関西電力は▲6.2%という状況でした。

夏期は節電の呼びかけと機動的な相互融通で対応できるとして、この地域には電気の使用制限は適用せず、関西電力管内には全体として▲10%以上を目途の節電を要請し、他電力管内には「国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電」を要請しました(いずれも9月22日まで)


主な需要対策

大口需要家は、ピーク時間帯の使用電力を抑制するための計画(操業・営業時間の調整・シフト等)の自主的な策定・実施を求められました。また、需要抑制の実効性及び需要家間の公平性を担保するため、電気事業法27条(電気使用制限)が発動されました。

小口需要家に対しては、節電対策メニュー例(照明、空調、OA機器の節電など)を提示するとともに、目標達成に向けた自主的な節電行動計画の策定・公表が奨励(フォーマットの提示)されました。実際に、東京・東北・関西電力管内で合計 約10万事業所が策定しました。加えて、資源エネルギー庁が派遣する節電サポーターによる戸別訪問及び出張説明会を行い、東京・東北電力管内で約15万件の戸別訪問、約1万回の出張説明会が実施されました。

家庭に対しては、家庭向けの節電対策メニュー例を提示するほか、新聞・テレビCMなどのメディア等さまざまな手段を活用した節電の呼びかけが実施されました。東京・東北電力管内小中学校約4,300校に「節電教育」教材を配布し、節電をサポートする参加型プログラム「家庭の節電宣言」を提供し、約15万名が参加しました。

このような対象ごとの取り組みの他に、横断的取り組みとして、新聞、テレビ、インターネットなど多様な媒体を活用した節電広報キャンペーンを展開し、「でんき予報」など電力需給データの「見える化」を徹底して行いました。また、電力需給が逼迫し、計画停電の恐れが生じた際に、緊急の節電要請を出し、テレビ、ラジオ、携帯、防災無線を通じて情報提供する「需給ひっ迫警報」「需給逼迫のお知らせ」も準備されましたが、発動されずにすみました。


需要対策の結果は?

まず、大口需要家(契約電力500kW以上の事業者)の結果です。

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約30件の企業への聞き取り調査などから、こうした需要抑制は生産・産業活動に多大な影響を与え、相当のコスト(数億円~数十億円の例もあり)が発生したとされています。たとえば、休日・夜間へのシフトによる労務費増、自家発電活用によるコストアップ、生産調整などです。一方、業務部門中心の企業では、影響を最小限に抑えながら、節電目標を実現しているところもありました。

これらの結果を踏まえて、「今冬の政策形成に向けた含意」として以下が挙げられています。(1) 強制的措置を伴う場合、目標以上の節電が行われる傾向あり。(東京、東北)(2) 自主的な数値目標でも、ピーク電力削減など目標に応じた節電効果が期待で  きる。(関西)(3) 経済活動への影響の最小化には、業務部門を中心にきめ細かな節電を要請す  る必要。

次に、小口需要家 (契約電力500kW未満の事業者)の結果です。

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約230社を対象としたアンケート調査から、コスト増、取引先のシフト変更の関係から休日が減少など、生産や産業活動に影響があったこと、同時に、コンビニなど業務部門の比率の大きい企業では、影響を最小限に抑えながら、節電目標を実現しているところもあることがわかりました。具体的な取り組み例としては、照明(間引き、LED導入)、空調(28℃設定)、エレベータ(間引き)などです。

今冬の政策形成に向けた含意としては、以下が挙げられています。(1) 自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が期待できる。(2) 経済活動への影響最小化には、各社毎に異なる事情を踏まえ、業務部門を中  心にきめ細かな節電を要請する必要。

最後に家庭の結果です。

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ピークカットという意味では目標に達していないところが多いのですが、売電力量(kWh)で見れば、東京、東北、関西いずれも、目標以上に減らしています。

東京・東北管内の家庭から1,200件を無作為抽出して実施したアンケート結果から、「無理のある節電行動だった(0.8%)」「やや無理のある節電行動だった(5.0%)」との回答は少数であり、概ね無理のない範囲で一定の節電が行われていることがわかります。主な取り組みは、「日中は照明を消して夜間も照明を減らす」、「エアコンの温度調節」、「コンセントからプラグを抜く」などです。また、約90%の家庭が「今後とも節電を続ける」と回答しており、 約65%の家庭が「節電要請があれば今後も▲10%以上の協力が可能」と考えていることがわかりました。

今冬の政策形成に向けた含意として、以下が挙げられています。(1) 自主的な数値目標であっても、具体的な節電メニューを提示することにより、  無理のない範囲で節電が期待される。(2) 使用電力量ベースでは概ね目標通りであるが、ピーク電力の削減については  目標を下回る傾向があるため、今後の検討課題。

この夏の日本の"社会実験"から、みなさんが学べることは何でしょうか? 日本ではこれまで原発を推進してきた一つの"理由"が「原発がないと電力が足りなくて大変なことになる」でした。しかし、この夏、54基ある原発のうち、稼働していたのは15基(2011年8月6日現在)だけです。それでも停電や計画停電という事態はまぬがれました。

もちろん、企業などが払った犠牲を考えると、このままの形で節電を続けていくのは持続可能ではないでしょう。でも、今回の結果から得られる「何が効いたか」をもとに、もう少し痛みの少ない形で社会全体の少エネ化(エネルギーの消費量自体を減らすこと)を進めていけるのではないかと考えています。

ちなみに、今冬に向けては、原発依存度が高いため需給が特に逼迫している関西電力と九州電力に対して、前年同月の電力使用量を目安として、関西電力は10%、九州電力は5%の節電目標数値が定められています。この冬の取り組みや実績についても、お伝えしていきたいと思っています。

参考:経済産業省「今夏の電力需給対策のフォローアップについて」
http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111014009/20111014009-2.pdf


(枝廣淳子)

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