ニュースレター

2011年12月13日

 

東北大学環境科学研究所エコラボ訪問記 ~ 子どもたちの見た未来

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.111 (2011年11月号)
シリーズ:JFS「自然に学ぼう」プロジェクト 第3回

JFS/Children Visit Tohoku University's Ecollab. -- Learning Future Technologies through Environmental Study
Copyright Japan for Sustainability


JFS「自然に学ぼう」プロジェクトでは、これまで2回に渡り、東北大学大学院環境科学研究科教授の石田秀輝先生のインタビューをお届けしてきました。今回は、石田先生がいらっしゃる東北大学の研究所、エコラボについてご紹介させていただきます。

2011年8月17日、小学校1年生から中学校2年生までのJFS子どもレポーターたち5名が、仙台にある東北大学環境科学研究所エコラボを訪ねました。石田先生の研究室では、子どもも含めた多くの方に自然について学んでもらうために、楽しく学べるプログラム「自然のすごさ探検隊」がありますので、それに参加したのです。子どもたちは特別に環境を学んでいるわけではない、ごく一般的な子どもたちですが、大学の先生から自然について学べるということで、わくわくして参加してくれました。

先生の授業は、まず身近な環境問題と地球温暖化問題から始まりました。それから3月に起こった東日本大震災の際の仙台と大学の様子、地震で交通網や水道・ガス・電気が止まったことなどを聞いた後、人間が地球という生態系の中で生きていること、その自然の中にあるすごさを利用した技術について、わかりやすく解説いただきました。シロアリの巣が自然のエアコンになっていること、ゾウが人間には聞くことができない音を聞くことによって津波から逃れられたことなど、不思議な話に子どもたちは熱心に聞き入っていました。

それから子どもたちは、カタツムリの殻、サメの肌、蝶の羽などが持っている自然のどこがすごいのか、どのように利用することができるのか、解説をしていただいた後、実際に活用された製品などに触れました。ハスの葉の原理を利用した布の上で水が玉になって転がるのを見たり、水をかけてもすぐに沁み込んで表面がさらさらなタイルなどを実験したほか、クイズを解いたり、虫眼鏡を使ってオナモミ(ひっつき虫)の原理について調べたりと、不思議と技術の融合を体験した子どもたちは、それぞれ以下のような感想を寄せてくれました。

JFS/Children Visit Tohoku University's Ecollab. -- Learning Future Technologies through Environmental Study
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「自然って、こんなことができるからすごいと思いました。人間が虫をまねするとか、そういうことがすごいです」
「布に水をかけると玉ができることがすごいと思いました。エアコンのような壁は、水を吸い込むとどうなるのか知りたいと思いました。」
「ぬれない布。水をかけて、その水を集めると玉になったのがすごかった。蓄電池のことについて、もっと知りたいです。ホタルの仕組みも知りたかったです。」
「ひっつき虫の実験が面白かった。虫眼鏡で見ないとわからないようなフックを使って、人やものにくっついて運ばれていくということが面白いと思った。」
「呼吸するタイルと蛾の目の仕組みがすごいと思った。ただの1枚のタイルなのに、部屋の湿度を一定にできるところ。エアコンの代わりにできたら、電気をぜんぜん使わなくてすごいと思いました。蛾の目なんて、ちゃんと見たことが なかったけれど、意外と身近なところに人間の生活を良くするヒントがあってすごいと思いました。」

仙台にあるエコラボは、2007年の夏から建設計画が持ち上がり、2010年3月に完成した、東北大学農学部付属フィールドセンターから切り出された地元の木材を使って建てられた木造校舎です。木そのものの素材を生かした建物は、素朴で暖かみがある風合いを持っていますが、この校舎を建てる時には環境科学研究所ならではのエコハウスにしようと、さまざまな試みが取り入れられました。エコラボという名称は、さまざまな分野の知識を融合した新しい視点から環境問題に挑戦できる場として、みんなに親しまれる建物になって欲しいという願いを込めて、エコ+コラボレーション+ラボラトリからエコラボ(Ecollab.)としています。

そもそも環境科学研究科のシンボル的研究施設として設計されたエコラボは、先端的な研究も行われることを前提としていますから、フレキシビリティを確保した上で、木造が持つ暖かさや柔らかさを持ちながらも、断熱性能や気密性能といった機能性も持った建物として設計されています。

JFS/Children Visit Tohoku University's Ecollab. -- Learning Future Technologies through Environmental Study
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エントランスホールは広い吹き抜けになっていますが、この空間を利用し、夏期や中間期は自動開閉換気窓が熱を逃がし、冬期はエアスイングファンで天井近くの暖められた空気を吹き下ろすことで室内の温度を調整します。大きな天窓からの採光で昼間の照明をほぼ不要とし、壁や天井にも木材の調湿機能を活かした仕上げ剤を使用して室内環境の安定をはかっています。他にも、天井にはトンボの翅を真似たファンが取りつけられ、室内の上昇気流で発電が試みられています。40cm/秒程度の上昇気流を利用して何とか発電できないかと検討中です。

エコラボ建築の際に大きな基軸となったのは「微弱エネルギー蓄電型エコハウスに関する省エネ技術開発」プロジェクトです。これは2008年度の環境省地球温暖化対策技術開発事業として採択され、3年計画で開始されたプロジェクトで、家庭で利用されていなかった微弱なエネルギーを回収・発電し、これらの低電力発電エネルギーをリチウムイオン電池に蓄電する技術やシステムを開発するというものです。自然エネルギーは不安定で、従来の蓄電池も短寿命なことから、国の社会基盤としての利用は困難だと言われてきましたが、このプロジェクトで利用する大容量リチウムイオン電池なら、従来の蓄電池よりも長寿命で電力の保持能力が高く、家庭での自然エネルギーの利用が可能になると考えられています。実際、このシステムにより、エコラボでは震災の停電の際にも電気を使うことができたそうです。

参考:太陽光発電 直接蓄電し直接使用するシステムの実証に成功   
http://www.japanfs.org/ja/pages/029020.html

自然エネルギーで発電したDC(直流)電源を利用し、エネルギーを無駄なく使い、微弱電流をこつこつ貯める新しいライフスタイルも提示されています。これは化石燃料の利用により大量給電・大量消費となってしまったサイクルを見直し、エネルギーの地産地消を具現化する新しい生活像をつくりだそうというものです。具体的には、必要な時に必要なだけ灯りを取りだす「LED照明を用いた分散光源」、これまでは壁に固定されていた電力取り口を生活の中心に再配置した「DCテーブル」など、生活の中心を人間に据えたライフスタイルを提案しています。

私たちが生活のレベルを下げずに低炭素化を実現するには、「自然エネルギーの利用」「無駄を少なくすること」「小さなエネルギーもこつこつ貯めて使うこと」を生活のリズムにスムーズに挿入することが必要条件となるとエコラボでは考えています。「DCライフスペース」は、直流給電を前提とした高いテクノロジーを用いたエネルギー制御を導入し、交流・直流の変換ロスも削減して自然エネルギーを無駄なく使い、これらの条件を可能にするモデルのひとつなのです。

JFS/Children Visit Tohoku University's Ecollab. -- Learning Future Technologies through Environmental Study
Copyright 東北大学


またエコラボでは、太陽熱利用空調システムも取り入れ、夏期は除湿とヒートポンプによる床冷房を行い、冬期は太陽熱を利用して床暖房を行っています。こういった自然の仕組みをいくつも取り入れることで、エネルギー負荷を減らし、停電時にも対応できる、災害にも強いエコハウスが建てられる可能性が出てきています。

今回のエコラボ訪問は、どの子どももそれぞれに発見があり、新しい疑問と好奇心が掻き立てられたようです。家に帰ってから、あらためて感想を寄せてもらったところ、自然に学ぶ技術をどんなふうに生かしたら良いか、さまざまなアイデアも生まれていました。

「蝶とか蜂は花の蜜を吸います。そのまねをして作ったストローがあれば良いと思います。おなかがすいた時、いつでもストローで蜜を飲めるからです。」
「水をはじく布は、水にぬれると壊れやすい携帯電話やカメラに使えば、水にぬれても玉になって転がり落ちるので、あまりぬれなくて良いと思いました。」
「地球温暖化を防ぐためには石油を燃やさないことが大事なので、電気を使わないエアコンができれば、石油を燃やさないので地球温暖化を防げるし、節電できて良いと思いました。」
「できたらいいと思うことは、鳥の目の技術を応用した望遠鏡です。鳥は目がとても良いと聞いたことがあったので、望遠鏡や双眼鏡ができないかなと思いました。」
「カタツムリの殻の表面のような、汚れても水で流すだけで汚れが落ちるという仕組みをキッチンなどに応用すれば、洗剤を使わないので水を汚さずに済み、節水できるだけでなく、浄水場でも節電・節水ができると思いました。」
「このような仕組みが、こんなに身近な自然にあることを知り、とても驚きました。そして、まだまだ地球や自然について何も知らないんだなと思いました。これからは、みんなが節電しているから節電する、ではなく、自然の仕組みをよく観察して、生活に応用できる仕組みを見つけていきたいです。」
「自然は人よりも長い時間を生きているから、人だけが良いように生きるのではなく、みんなで生きていきたいと思います。」

JFS/Children Visit Tohoku University's Ecollab. -- Learning Future Technologies through Environmental Study
Copyright Japan for Sustainability


環境科学研究科ではエネルギーや物資が不足した震災での経験を踏まえ、エネルギー消費の少ない中での新しい暮らし方の提案として、「先取りしたい、2030年のくらし ―エネルギーと資源が十分に得られないときに心豊かに暮らす法―」と名付けられた小冊子のシリーズの発行を始めました。一般の市民に向けたもので、子どもにも楽しんでもらえるようにイラストもふんだんに取り入れ、かつ具体的な数値も示されています。

エコラボでは、子どもたちに自然の仕組みを伝えながら、さらに新しい次代のライフスタイルを提案し続けています。

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参考:
東北大学環境科学研究所   
http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/
エコラボ   
http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/ecollab.html
「先取りしたい、2030年のくらし」   
http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/torikumi.html


(スタッフライター 三枝信子)


本プロジェクトは、財団法人 日立環境財団(2011年度環境NPO助成)の支援によって実現しました。

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