ニュースレター

2011年12月20日

 

エネルギーの地産地消を実現するプロトタイプに ~ 金沢市の取り組み

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JFS ニュースレター No.111 (2011年11月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第36回


地方自治体の事業で、再生可能エネルギーの導入や未利用エネルギーの活用を促進しようという動きが石川県金沢市で加速しています。今回は、国のエネルギー政策とは別に、地元での実績や資産を最大限に活用し、「金沢らしく」再生可能エネルギーの導入を進めようという取り組みをご紹介します。

本州のほぼ中央、日本海側に位置する金沢市は、東西23.3km、南北37.3kmの範囲にある地方都市です。市域の南部には白山山系から連なる山地があり、市の中心部から13kmほど東にある標高939mの医王山(いおうぜん)では、市民が小さい頃からスキー教室や登山体験などを楽しんでいます。

北部は金沢平野を経て、日本海を臨み、市街地は寺町台、小立野台、卯辰山の3つの台地の間を犀川、浅野川の2つの河川が流れ、起伏に富んだ地形構造となっています。この自然の恵み豊かな都市は、一方で県庁所在地として交通網や商工業も発展しており、46万人の人口を抱える北陸有数の都市として高い利便性も持ち合わせています。


電力自給率5.6%―市営の水力発電事業とごみ発電で実現

古くから日本のエネルギー供給源として、重要な役割を果たしてきた水力発電。発電時に二酸化炭素を排出しない、クリーンエネルギーのひとつとして、今ふたたび注目されています。金沢市は、日本海側気候で「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるぐらい雨の多い地域です。市はその豊かな水資源を利用して、90年前から全国唯一の市営水力発電事業に取り組み、犀川と内川(うちかわ)に合計5カ所の発電所を有しています。それぞれの川にあるダムが治水や農業、上水道など多目的に利用されるため、運転に際して下流の制限を受けてはいるものの、発電能力は最大約3万3千kW、年間1億4千万kWhと約4万世帯の電気をまかなっています。

さらに、市の事業として1980年という早い時期から焼却施設におけるごみ発電を開始したほか、太陽光発電など自然エネルギーを積極的に活用してきた結果、現在、市内の電力量の約5.6%にあたる年間約1億7200万kWhを発電しています(2010年度、金沢市)。ちなみに、日本全体のエネルギー自給率は4%です。

参考:金沢市企業局 発電事業   
http://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/web/about/about_hatuden.html

金沢市には西部・東部クリーンセンター(ごみ焼却施設)がありますが、そこでごみを燃やして出てくる熱を廃熱ボイラーで回収し、高温・高圧の蒸気を発生させて熱源供給、電力供給を行っています。蒸気の一部から熱交換器でお湯を作り、体育館など市営の隣接施設の冷暖房や給湯、プールなどの熱源として利用しています。また、蒸気でタービンを駆動して発電し、自家消費の他、隣接施設の電力を賄い、余剰電力は売電しています。

西部・東部クリーンセンターの合計発電量は約2900万kWh、そのうち売電量は約1480万kWhで、約4千世帯の電気をまかなっています。

さらに、2012年4月に西部クリーンセンター新工場が稼働する予定で、発電能力が現在の1,600kWから7,000kWに増え、市の施設・事業全体での発電量はさらに0.7%増加する見込みです。西部クリーンセンター新工場には、屋上緑化、太陽光発電設備が導入される予定で、子どもたちのエネルギー学習の場としての利用も考慮されています。

参考:金沢市 余熱利用(2008年データ)   
http://www4.city.kanazawa.lg.jp/25021/kankyoushi/yonetu.html


景観を守りながら、太陽光発電

金沢市では、2003度から住宅用太陽光発電設備の設置に対する補助を行い、再生可能エネルギーの導入を進めています。日本では、2009年11月から余剰電力買取制度が開始されたことを契機に、太陽光発電設備の設置が進んでいます。また世界的に、太陽光パネルの価格自体もインフレ調整後の価格にして、年率約7%で低下しています。

2010年度の金沢市の太陽光発電設備の設置に対する補助件数は、前年度の約2倍の220件と大幅に増加、さらに2011年度も8月末時点で昨年度の同時期と比べ、約2倍の状況となっており、太陽光発電に対する市民意識の高まりが感じられます。9月の市議会では新たに200基の設備への補助のための補正予算が可決されました。

さらに特徴的なのは、景観配慮型の太陽光発電設備の設置には、補助金の上乗せ制度が設けられていることです。金沢市は、2011年11月1日以降の設置分について新たに、伝統環境保存区域内の住宅において景観配慮型の設備を設置する場合、1件あたり10万円の補助を開始しました。(景観配慮型を設置しない場合は補助対象外。それ以外の区域の住宅に設置する場合は、1件あたり5万円。)

このような景観配慮型の太陽光発電設備へ補助金を上乗せする制度は、京都市に続く導入となっています。市の財産ともいうべき良好な都市景観を守りつつ、環境都市としての側面も創っていこうという市の意気込みが感じられます。


マイクロ水力発電―用水のまちとしての伝統を活かす

再生可能エネルギーとして、今新たに注目されているのが用水です。実は、金沢は湧水も多く、用水は古くから市民の生活に身近な存在であり、家と家の間を抜けて網の目状に広がっており、「用水のまち」としても有名です。

現在、市内の用水の数は全部で55もあり、長さを全部合わせると約150kmになると言われています。市民は昔から用水で洗濯や水遊びをしたり、夏はかごにスイカやウリを入れて冷やし、現在は冬期の道路の除雪作業後に雪を捨てる場所として利用するなど、私たちの暮らしに密接に関わっています。

出力が100kW以下の水力発電設備「マイクロ水力発電」は、規模が小さく、比較的簡易な構造です。また、用水は太陽光や風力に比べ、気象の影響を受けにくいという利点があります。この2つをマッチングさせた、金沢らしい取り組みとして注目が集まっています。

しかしながら、マイクロ水力発電を導入するにはいくつか課題もあります。年間を通じて安定した水量を確保できるか、また、都市景観への影響、発電設備周辺の住民の騒音に対する懸念、水利権や河川管理者との調整などです。このため金沢市では2010年度から、学識者などで組織する金沢市地球温暖化対策推進協議会で検討を進めており、今年度は先進事例の現地調査や市内における適地調査を進める予定です。

参考:金沢の用水   
http://www4.city.kanazawa.lg.jp/kids/01/keikan/yousui.html


再生可能エネルギーの導入を加速させる

3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、現在行われているエネルギー施策を再検討するため、金沢市は産学官が連携した「金沢市再生可能エネルギー導入等研究会」を2011年8月1日立ち上げました。研究会は学識者や事業者、関連の行政機関などを含め計7名と、アドバイザー2名で構成されています。

山野之義(やまのゆきよし)市長は「水資源や森林資源など本市の地域特性に合った地産地消型のエネルギーの活用に取り組んで将来の子どもたちのために、どのようなエネルギー政策が適切なのか、金沢発の議論を進めてほしい」と、委員に活発な提言を求めています。研究会は今後、2013年3月をめどに、再生可能エネルギー導入プランを策定するための方針を示し、市長に報告する予定です。

水力発電やごみ発電など、これまでの実績をさらに伸ばしながら、用水という昔ながらの資産をマイクロ水力発電で活かす。景観を守りながら、太陽光発電を加速させる。できることを一つでも進めようという金沢市の取り組みはまだ始まったばかりです。

南北に細長い日本は、同じ日に北では雪が降り、南では半袖のTシャツで漁師が海へ出て行く、そんな国です。それぞれの地域が、その気候や地域の特性を見極め、その土地に最も適したエネルギー政策を導入していく必要があり、金沢市は、まさにそのプロトタイプになろうとしていると感じます。2013年の再生可能エネルギー導入プランに明確な数値目標が掲げられ、その達成に向けて、具体的な方策が提示されていることを、強く期待します。


(スタッフライター 二口芳彗子)

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