ニュースレター

2011年08月23日

 

大震災・原発事故による電力不足に立ち向かう ~ 日本の民生の取り組み

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JFS ニュースレター No.107 (2011年7月号)


7月1日から始まった東京電力、東北電力管内の電力使用制限令。昨夏のピーク時から15%の削減を求められている大規模工場やオフィスなどの大口需要家に対して、同じ15%でも小口需要家や家庭などの民生部門では法的規制を持たない「努力目標」とされています。

日本列島では既に6月下旬から猛暑が続き、「この夏の電力不足をどう乗り切るか」という話題が、テレビや新聞、ネットなどのメディアに上らない日はありません。家電量販店やデパートでも、節電しながら、夏をいかに涼しく過ごすかというコーナーを多数設けています。

なかなかはっきりとした数値では表しにくい家庭での節電対策ですが、民生部門のエネルギー消費量は全体の31.4%。自主規制やルールを設けること、行政や企業が家庭でできる節電への後押しをすること、そして、各家庭の工夫によって、大規模停電を回避し、この夏を乗り切ることができるのでしょうか。私たちが初めて直面する特別な「暑い夏」から、どんなことが見えてくるのでしょうか。


自主規制や新しいルールによる節電

自動販売機数は、世界の中でも群を抜いて多い日本。この4月、東京都議会最大会派の民主党では自販機の電力使用を条例によって規制する動きがありましたが、清涼飲料各社が時間をずらしながら冷却機能を止める輪番節電によって自主規制することで、条例案は取り下げになりました。最大手の日本コカ・コーラは、6月下旬から約25万台で実施し、それによって消費電力を例年の夏場より約33%減らせるとしています。

電気の大口消費者である各大学でも、知恵を絞り節電に取り組んでいます。多くの大学で前期の授業を早期終了したり、サマータイムを導入したり、夏休みの延長や一部施設の休業などで電力消費を抑制しています。東京大学では、震災後には大学全体で約4割の削減をしていますが、さらにピーク時の電力使用量を前年より3割減らす目標を掲げています。リアルタイムで電力使用状態を確認できるよう、本郷キャンパスの建物をネットワーク化して、研究科、学部ごとの使用量をグラフで示す試みが始まっています。

首都圏の自治体も、住民向けサービスを縮小することによって、節電対策を行っています。千代田区では、温水プールの利用を休止、横浜市では運動施設の夜間利用を中止し、文京区では戸籍住民課の夜間窓口を休止、足立区では図書館などの施設が交代で休業する輪番制度を採用し、節電を目指しています。


家庭の節電を後押し

各家庭での節電を後押ししようと、さまざまな業種でサービスを行い、節電特需も生まれています。家電量販店大手のビックカメラでは、家庭の節電対策を支援する専門相談カウンターを全国30店に開設し、エアコンや冷蔵庫などについて幅広い知識を持つ相談員が常駐しています。

Green Fan
イメージ画像: Photo by MARUYAMA Takahiro. Some Rights Reserved.

昨年に比べ、4~5倍もの売れ行きを見せているのが扇風機です。エアコンに比べて50%の節電になるとのことで、多くの店で売り場のコーナーを拡大しています。従来のものよりさらに省エネ型、充電式、取り込んだ空気を増幅させ大きな風量を生み出す羽のない扇風機、エアコンの空気をむらなく循環させるサーキュレーターなどタイプもさまざまで、4月ごろから売れ始め、6月には売り切れの品も出るほどの売れ行きです。

また、家電量販店には、省エネ性能の高い製品の購入者に独自のポイントを付与する動きが広がっています。3月末に政府が行っていたグリーン家電促進のためのエコポイントが終了しましたが、独自のポイント制を設けることで改めて需要を喚起することを狙っています。

家電ばかりでなく、大手スーパーのイオンでは7月に「自宅の使用電力量を前年同月より15%以上減らすと、イオンで使える電子マネーのポイント200円分を進呈する」というサービスを行っています。

日本マイクロソフトでは、ウィンドウズを搭載したパソコンの使用電力を約3割減らせる節電用ソフトを一般家庭向けに無償で提供しています。このソフトを使うと、画面の明るさを通常の40%に抑えたり、パソコンを使わない時間帯に待機状態になったりするようパソコンの設定が自動的に変わるものです。

経産省は前年比15%の節電を達成した家庭にLED電球の交換券などの景品を贈る制度を始めました。対象は東電と契約する1900万所帯で、サイト上に示された「冷房温度を2度上げる」「LED照明に切り替える」などの節電メニューから自分に合う方法を複数選び、節電計画を設定し、どれだけ節電したかが月ごとに確認できるというものです。


昔の暮らしを思い出す家庭の節電アイデア

新しい商品を取り入れるだけでなく、各家庭では、節電につながるちょっとした工夫が広がっています。灯りはこまめに消す、使っていない家電のプラグを抜く、テレビを観る時間を見直す、冷蔵庫にものを詰めこみ過ぎず、ドアの開閉を素早くする、温水洗浄便座の電源を切る、食器洗い機の使用を控えるなど。

そして、自然の恩恵を利用しようと、ここ数年、地球温暖化対策として注目されてきた「緑のカーテン」が、今年はさらに脚光を浴びています。「緑のカーテン」は、ゴーヤやアサガオなどのツルが伸びて、支柱や壁ごしに葉が広がるとカーテンのような役目となって、日差しを遮ります。コンクリートのベランダでは、温度が上がって、夜中でも家の中の温度が下がらない状態になってしまいますが、「緑のカーテン」によって、暑さが緩和できるのです。その効果は、壁の温度なら10度、室温は1度~6度ほど下がると報告されています。

JFS/Japan Adapts (and Remembers) Amid Power Shortages after 2011 Great Earthquake, Nuclear Accidents
Image by Japan for Sustainability


料理に関しても、あまり火を使わないレシピ、加熱調理した後、余熱を利用した煮込み料理など、省エネクッキングのアイデアが、ネットでもたくさん紹介されています。電気釜を使わず鍋でご飯を炊く方法も紹介され、土鍋の売れ行きは昨年の2倍とのこと。昔は鍋でご飯を炊くのは当たり前のことでしたが、若い世代の人たちにとっては、「おこげができておいしい」「電気釜より調理時間が短くて楽」と、その新鮮さが好評のようです。

ご飯は電気釜で炊くものと思い込んでいたことが、実は電気がなくても大丈夫。電気掃除機を使わなくても、昔ながらの箒で部屋のほこりを掃けばいい。

Wind Bell
イメージ画像: Photo by mrhayata.
Some Rights Reserved.

窓や玄関扉を開けて、風を通し、暑い日差しをさえぎるために簾やよしずを利用し、天然素材の服で寛ぎ、うちわや扇子を使えば、まるで昭和の時代に戻ったよう。当時は、エアコンやパソコンやコンピューターゲームはありませんでしたが、だからといって人々が不便だとか不幸せだと思っていたわけではなく、それが普通の暮らしだったのです。

ゲームといえば、震災以来、電力を使うコンピューターゲームではなく、ジグソーパズルやトランプ、人生ゲームなどのボードゲームが売れているそうです。単に電力を使わないというだけでなく、一人で遊ぶゲームではなく、これも昭和の時代のように、家族や友達と遊ぶ懐かしいゲームなのです。

「停電の心配があるから、節電しなくては」という状況の中から、実は節電とは単なるがまんではなく、ひょっとしたら豊かで幸せな生活へのきっかけ?と、思う人も増えています。

JFSも協力している幸せ経済社会研究所では、節電を本当の幸せを考えるきっかけにしてほしいと、「幸せな節電」エッセイコンテストを開催しました。「節電によって、それまで忘れていた小さな幸せに気づきました」「節電について夫婦でできることを話し合ったり、家族が同じ部屋で過ごしたりするなど、前よりも仲良くなりました」「街も駅もこれまでのように隅々まで煌々と明るくなくてもいいのですね、そのほうが落ち着きますね」などの声が寄せられています。
http://ishes.org/news/2011/inws_id000019.html(発表は9月です)

震災で停止中の発電所が復旧したら、停電の危機は去り、この夏のような節電の声掛けもなくなることでしょう。それでも、この夏、節電を強いられたからこそ得られた大事な気づきは、忘れることなく、私たちの暮らしや生き方、社会を導いてくれることを願っています。


(スタッフライター 大野多恵子)


このページは Artists Project Earth の助成を受けています。
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