ニュースレター

2011年05月24日

 

東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて ~ 日本の電力不足と対策の動き

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.104 (2011年4月号)

2011年3月11日、東日本を襲ったマグニチュード9の大地震と、最大38メートルに達したとも言われる津波は、大きな被害をもたらしました。震災から1ヵ月後の4月11日現在、死者数は1万3千人を超え、行方不明の方々が1万4600人、約15万人が今なお避難生活を強いられています。復旧・復興にはかなりの時間と資金、努力が必要な状況です。

また、今回の大震災とその後に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、東日本の電力供給力を大きく損ないました。今回は、電力需給に何が起こったのか、現在どのような状況なのか、今後の見通しはどうなのか、どのような対策が考えられているのかをお伝えします。(4月14日現在)


何が起こったのか

東日本大震災によって、千葉県以北の太平洋沿岸を中心とする火力・原子力電源が停止し、発電設備に大きな被害が出ました。東京電力の系統では福島第一(470万kW)、福島第二(440万kW)をはじめ8発電所(合計2196万kW)が、東北電力の系統では5発電所(合計564万kW)などが地震被害で停止しました。震災のあった3月中旬は暖房需要の大きい冬季がまだ終わっていないこともあり、電力需要に対して供給力が不足する事態となりました。


すでに何がおこなわれているか

この事態に対し、まず供給側では大きく2つの対応がとられています。ひとつは連系線を利用して、他地域から送電するというものです。北海道からは最大60万kWの送電があります。西日本にも多くの発電所がありますが、日本が明治時代に発電機を輸入した当初、関東にはドイツから50Hzの発電機が、関西には米国から60Hzの発電機が輸入されたことから、現在も東日本は50Hz、西日本は60Hzと異なる周波数を用いています。したがって、西日本から東日本への送電能力はその間にある周波数変換設備の容量によって決まってしまい、最大100万kWしかありません。

供給側のもう1つの対応は、他社からの応援を得ることです。たとえば、50Hz/60Hzの境界地域にある 通常60Hzで運用している水力発電機を50Hzで運転したり、電力会社の自家発電設備など余裕のある供給力を調達することに加え、需要側での多数の自主的な電源の調達・使用などの応援を得ています。たとえば、森ビル株式会社は都心に立つ六本木ヒルズという高層ビルコンプレックスの発電設備(都市ガスを燃料とする)の電力を最大4,000kW、東京電力に融通しています。

突然の大規模停電を回避するための需要側の対策として、東京電力は毎日の需要と供給見込みを見ながら、それぞれの配電用変電所が受け持っている地域ごとに、輪番で停電させる「計画停電」を始めました。対象地域を5つのグループに分け、その日の供給量と需要量のバランスを見ながら、「○時から○時は、グループ1の地域を停電させる」と決め、発表します。

当初は大きな混乱が起きました。信号が消えた交差点で衝突事故が起きて死亡者が出たり、信号が消灯中の交差点でトラックにはねられた女性が、搬送先の病院で停電のためコンピューター断層撮影装置(CT)の検査ができず、重体になるという悲劇も起きました。ほかにも、在宅医療に支障をきたす恐れや電動ポンプが停止したマンションでは断水するなど、さまざまな問題が起きました。

工場の操業も店舗の営業も電車の運行も平常通りにはできません。工場も機械の立ち上げなどの時間を考えると、1日に3時間程度の計画停電といっても、丸1日操業できないのに等しい場合もあります。電車の運行は路線や本数をしぼった形になり、数日間まったく運行されなくなった地域もありました(都心から30分のJFSオフィスや私の自宅のある地域もそうでしたので、外出の予定はすべてキャンセル、電車通勤のスタッフは自宅勤務となりました)。特に首都圏は電車による交通網が発達しているため、電車が止まるとただちに身動きがとりにくくなり、あちこちで混乱が起こります。

配電用変電所の受け持ち区域は行政区分と必ずしも一致しないことからグループ分けもわかりにくく、東京電力の情報提供が不十分かつ遅れ気味だったことも混乱に輪をかけました。また、計画停電は需要と供給の見込みに基づいておこなうので、みなが十分に節電すれば実際には計画停電を回避することができます。ところが、「○時から計画停電」と伝えられ、そのつもりで準備をしていた人々にとっては、停電しないことがまた混乱をもたらし、「計画停電は無計画停電だ」と揶揄されることもありました。

余談ですが、この頃こんな笑い話のツイッターがあちこちにRTされていました。「計画停電に対する各国の反応。フランス:恋人が愛を語る。ドイツ:太陽電池がある。日本:国民の節電により需要予測を下回り停電回避、停電が実施されない事に国民激怒」(日本人気質を言い当てています!)。

東京電力でも当初の5グループを25グループに細分化して、より細やかな対応をするなど改善をはかりながら、震災直後から続いた計画停電は、4月8日に「需給バランスが回復したため原則不実施」と発表され、終わりました。ただし、需給バランスの回復は、春になって暖房需要が減ったことなどによるもので、一時的と考えられています。


今夏の需給バランスに向けて

現時点での今夏の需給状況は、5500万kWと想定される最大電力に対して供給力は4650万kWと、最大ピーク時に1000万kWという膨大な電力が不足する見通しです。猛暑だった昨年夏の最大電力は5999万kWでしたので、そのレベルと比べると1500万kWの不足となります。

供給側を考えたとき、周波数変換所の増強や火力発電所などの新規電源の建設など、大規模な供給力の増強には数年かかり、この夏には対応できません。太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーも、導入を加速することはできても、現状日本の全発電量に占める割合が3%程度しかありませんので、短期的に大規模な電源にはなりえないでしょう(言うまでもないですが、現在の状況における短期的な緊急対応が、中長期的な温暖化対策・持続可能な社会づくりを阻むものではなく、後押しするものであってほしいと思います)。JFS関連記事:日本の再生可能エネルギーの現状      
http://www.japanfs.org/ja/pages/029812.html

供給が間に合わないとしたら、需要を抑制するしかありません。ピーク時の電力需要を20~25%抑える必要があります。どうやってそれだけの需要を抑制し、計画停電をせずにすむようにするか――政府、自治体、産業界、市民などの対策策定や取り組みが求められています。

日本ではかつて1972年の石油ショックの時にもエネルギーの需給ギャップが発生し、大きな社会の混乱を引き起こしました。ただ、石油ショック時は総量のギャップであったのに対し、今回の問題は「ピーク時電力」の需給ギャップであるため、ピーク時電力をいかに抑えるかが中心課題となります。

日本の電力需要家は3つに分けることができ、それぞれに別個の需要抑制策が必要となります。1つは契約電力500kW以上の大口需要家で、企業や工場などの事業者で、1.5万口あります。2つめは、契約電力500kW以下の事業者で、ふつうのオフィスやコンビニ、店舗など、320万口です。3つめが契約電力50kW以下の家庭で、2100万口あります。実際に使用している電力量を推定すると、大口需要家は全体の約15%、小口需要家と家庭がそれぞれ40%強といわれています。

まず大口需要家に対しては、東京電力には大口需要家を対象とした「需給調整契約」のしくみがあります。これは電力需給が逼迫した時に使用電力量の抑制の義務を負う代わりに、割引料金が適用される、というものです。3時間以上継続して契約電力の20%以上または1,000kW以上の調整をすることを約束するもので、(1)通告後すぐに、(2)使用制限1時間前までに通告、(3)使用制限3時間前までに通告と、3種類あり、新聞報道などによると合計1,200件を超える大口需要家が契約をしています。

この他にも、瞬時調整電力契約、夏季休日契約、夏季操業調整契約、午後1時から午後4時までの間に調整をするピーク時間調整契約などの契約形態もあります。東京電力では4月から、加入条件を緩和して、こういった需給調整契約の加入者を増やし、需要抑制を進めようとしています。

政府では、企業や工場などの大口事業者に対して、電気事業法27条に基づく「電力使用制限令」を発動して、平日のピーク時の最大電力を25%削減することを計画しています。大口需要家の使用電力量を15%制限した石油ショック時以来の発動となります(当時は水道局や学校、鉄道などは対象から除かれました)。

産業界でも、各業界団体で自主的な節電計画づくりが進んでいます。日本経団連が主導し、ピーク需要が低下する盆休みや週末、夜間に工場を操業する、各社が日替わりで生産を行う工場の輪番操業などが考えられています。また各企業でも、他の休日を減らし、その分夏休みを長期化するなど、節電計画を進めています。たとえばソニーでは、夏休みを例年の4日間から2週間程度に延ばす代わりに、今年後半の祝日をすべて出勤にする方針だそうです。

これら大口需要家は、政府の命令の発動や業界団体の指導による需要抑制量を計算することができますが、数が限られており、対象となるのは使用電力量の15%だけです。小口需要家に対しては、政府は20%削減の目標を設定し、冷房の抑制や営業時間短縮など個別の計画策定を求める考えです。

そして、家庭は数が膨大であること、命令や所属団体の強力な指導などの力が及ばないことから、なかなか直接的な抑制策がとりにくく、現状では政府のウェブページや自治体などを通じて節電意識を徹底することで、15%の削減をめざすとしています。その具体的な取り組みはこれからです。

JFSでは「十分な電力がない状況で、どうやって夏を乗り切るか」――今後の官学産民あげての取り組みをお伝えしていくつもりです。今回は図らずも震災と原発事故による電力供給量の「絶対的な限界」が明白に立ちはだかり、「いかにその限界の範囲で、暮らしや経済活動をやりくりするか」が日本のあらゆる層にとっての取り組むべき課題となっていますが、温暖化の進行を止めるためにも、同様の温室効果ガス排出量の「限界」があります。こちらはあらゆる層の「絶対にその範囲内に収めなくてはならない」という強いコミットメントや取り組みにはなっていませんが、早晩そうなっていくべきものだと考えています。

そのときに、きっとこれから夏に向けて日本が挑戦し、試行錯誤し、学びつつ進めていく「絶対的な限界との折り合いのつけ方」が日本のみならず世界の役に立つと信じているのです。


(枝廣淳子)

参考資料:「エネルギー需給の今から将来を考える-震災からの回復, 供給セキュリティの観点を含めて-(東京大学 生産技術研究所 荻本和彦、岩船由美子)」
http://www.ogimotolab.iis.u-tokyo.ac.jp/Energy_Integration_including_lessons_from_the_quake.pdf


このページは Artists Project Earth の助成を受けています。
English  

 


 

このページの先頭へ