ニュースレター

2011年05月10日

 

ミシマバイカモ復活、日韓交流、花開いた活動を次世代へつなぐ ~ NPO法人グラウンドワーク三島  

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JFS ニュースレター No.101 (2011年1月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第13回
http://www.gwmishima.jp/

JFS/Restoration of the Rare Mishima Baikamo Plant, Exchange with Korean NGO: Flowering Initiatives by "Groundwork Mishima"
Copyright グラウンドワーク三島


東京から新幹線で1時間の静岡県三島市。駅に降り立つと、白い雪をかぶり大きく裾を引く富士山の姿が見えます。三島は昔から「水の都」と呼ばれ、街なかを歩けば、あちらこちらで富士山からの湧水流れる水辺風景に出あうことができます。

しかし、1960年代に産業活動の活発化による地下水の汲み上げによって、湧水は減ってしまい、川はドブ川と化してしまいました。「これではいけない」「子どものころに遊んだ原風景を取り戻したい」と、三島ゆうすい会、三島ホタルの会など8つの市民団体が一緒になって1992年に設立したのがグラウンドワーク三島です。多くの人たちの手によって、今では水辺環境は見違えるほどきれいになりました。

一時は絶滅してしまった水草・ミシマバイカモを復活させ、同じく韓国江華島でバイカモ再生に取り組んだ韓国ナショナルトラストとの交流も生まれました。2010年10月に、両団体は東アジア地域の環境保全に貢献した個人、団体に与えられる日韓国際環境賞(主催:毎日新聞社・朝鮮日報社)をダブル受賞しました。受賞に至った経緯と、グラウンドワーク三島のこれからの展開について、事務局長の渡辺豊博さんにお話を伺いました。


ミシマバイカモは富士山湧水のバロメーター

グラウンドワークとは、1980年代にイギリスで始まった市民、NPO、企業、行政のパートナーシップによる環境改善活動で、その手法を日本で最初に取り入れたのがグラウンドワーク三島です。ドブ川化した源兵衛川の再生、歴史的井戸や水神さんの祭りの再生、ほたるの里づくり、学校ビオトープの建設など、これまで40カ所以上のプロジェクトを実施してきました。「右手にスコップ、左手に缶ビール」を合い言葉に、多くの人がかかわってきました。1999年にはNPO法人グラウンドワーク三島(緒明實理事長)となり、現在20の市民団体が参加するネットワーク組織となっています。

JFS/Restoration of the Rare Mishima Baikamo Plant, Exchange with Korean NGO: Flowering Initiatives by "Groundwork Mishima" JFS/Restoration of the Rare Mishima Baikamo Plant, Exchange with Korean NGO: Flowering Initiatives by "Groundwork Mishima"
整備前と整備後の源兵衛川の様子
Copyright グラウンドワーク三島


プロジェクトのひとつとして行われてきたのが、ミシマバイカモの復活です。バイカモはキンポウゲ科の水草で、小さな白い花が咲き、その形が梅と似ていることから漢字で「梅花藻」と書きます。1930年に三島市楽寿園の小浜池で発見されたバイカモは、特にミシマバイカモ(三島梅花藻)と名づけられました。富士山の清流によって育つデリケートな植物は、清流のバロメーターと言えますが、湧水の減少で、市内のミシマバイカモは絶滅してしまいました。

そこで、この可愛らしい花の復活のために、1995年に行われたのが「三島梅花藻の里」づくりです。隣町の駿東郡清水町の柿田川からミシマバイカモを移植し、佐野美術館所有の湧水池を利用した里づくりが始まりました。繊細な水草を生かすためには、つねに水がきれいに保たれるように泥を取り除くなど、多くのボランティアによる地道な作業が続きました。次第にその努力が実り、水面を覆う花が増えていきました。「なぜこの小さな花のために努力を? と思われるかもしれませんが、きれいな水があることで生きていけるミシマバイカモはふるさとの宝です。それを復活させることは、故郷を愛するというみんなの心です。美しい自然の姿が戻れば、街全体が豊かに、元気になります」と、渡辺さんは話しています。

三島梅花藻の里
http://www.gwmishima.jp/projects/details/local-treasure/case/mishima-baikamo.html

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バイカモが縁となって日韓交流

2003年、グラウンドワーク三島に、韓国のナショナルトラストから「ミシマバイカモを見たい」と突然のメールが来ました。ソウル近郊の仁川市江華郡の田や沼地では、かつて白い花を咲かせるバイカモの群生地がありましたが、除草剤や化学肥料を使い、米の大量生産を目指した近代農業により激減してしまいました。経済成長とともに貴重な植物が消えていってしまったという三島市と同じ状況でした。

そこで、韓国ナショナルトラストでは、2002年から3,015平方メートルの田を「江華梅花藻群生地」と命名して保存してきました。さらに他の田んぼでも、昔の風景を取り戻したいという思いから、「三島ではなぜ小さな花を保全できたのか?」という疑問を持って、村長と地主と韓国ナショナルトラストの人たちが視察に訪れたのです。その結果、江華島の人たちは、現場見学を通して、三島の人びとの「ふるさとを大切に思う心」に共感し、これがきっかけで三島と江華島の交流が始まりました。

また、江華島ではさっそく減農薬の環境保全型農業を導入し、その田んぼはわずか数年の間に200平方メートルから20万平方メートルと、驚く早さで増えていったのです。その結果、バイカモがよみがえり、そこにはカエル、ドジョウ、ウナギ、鳥もやってくるようになりました。そして、そこで収穫された米は「バイカモ米」というブランドで発売され、すぐに売り切れになってしまうほどの人気となりました。韓国でもやはり食の安全に対して意識が高まっている昨今、「手間のかかる農業では儲からない」という概念を覆すことになったのです。

また、「江華梅花藻群生地」は、2008年にはラムサール条約の世界最初の水田湿地として登録され、最小規模の登録湿地として世界中で知られるようになりました。


日本国内にはバイカモ群生地が23カ所ありますが、2007年から、それらの地域や江華島とのネットワークを広げる「国際バイカモサミット」も開催するようになりました。三島と江華島では、学生、農業関係者など幅広い分野の人たちがお互いに行き来をするようになり、2010年までに小学生相互のホームステイも含め、その数19回、延べ320人になります。

こういった一連の活動が認められ、第16回日韓国際環境賞に日本側としてNPO法人グラウンドワーク三島、韓国側として韓国ナショナルトラストが選ばれたのです。

現在、江華島にバイカモ保全を通した日韓青少年の交流拠点となる国際環境教育センターの建設が予定されています。また、渡辺さんは「バイカモは、中国にもアフガニスタンにもタイにもあって、これからは、バイカモ交流を東アジア全体に広げていきたい」と次の展開についても、述べています。

韓国江華島
http://www.gwmishima.jp/abroad/case/korea-ganghwado.html

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インターンシップで次世代へつなぐ

グラウンドワーク三島は、2011年に20周年を迎えます。15年前に柿田川から移植したミシマバイカモは、バケツたった3杯分。やがて「三島梅花藻の里」の水面が広く白い花で覆われるようになり、市内を流れる源兵衛川にも移植し、今では清流の中で揺れるたくさんの花が見られるようになりました。そこには小魚やどじょうが集まり、鳥もやって来るようになったのです。ドブ川だった姿から、美しい水辺環境に変わると、ここを訪れる観光客も増えてきました。

20年の間に他の事業も広がり、環境資源を生かして木工作業などを行う「せせらぎシニア元気工房」、耕作放棄地でそば栽培などを行う「環境コミュニティ・ビジネス」、杉の間伐材を利用したバイオトイレの普及、三島市南端にある松毛川の再生、「三島街中カフェ」や牛舎を改造した「三島農村カフェ」のオープンなどが挙げられます。

さらに、これらの現場モデルを全国へ普及、発展させるために、2010年から内閣府「地域社会雇用創造事業」の一環として、「グラウンドワーク・インターンシップ」を始めています。全国から合計2,400人の研修生を募集し、環境再生やコミュニティ・ビジネスなどについて伝え、それぞれのNPOや地域ビジネスの立ち上げを支援するというものです。

第1期はすでに2010年の8月から10月に行われ、443人の研修生が集まりました。野外実習や講義、グループワークを通じてお互いの交流もでき、大盛況のうちに終了しました。さらに、2011年の春に2期、夏に3期が行われる予定です。

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第1期インターンシップ
Copyright グラウンドワーク三島


「これまで三島の人たちががんばってきた自然再生の成果を少しでも多くの人たちに見てもらいたいと思います。第1期の活動の様子では、みなさん、実際に富士山の湧水につかりながら、さまざまな人と話すことで元気が出たようです。特に大学生を中心とした若い人の参加が多く、これからも次世代にこの元気をつないでいくためにも、どんどん若い人に参加してもらいたいと思っています」と、渡辺さんは呼びかけています。グラウンドワーク・インターンシップ
http://www.gwmishima.jp/

コツコツと積み上げてきたこれまでの活動が、まさにミシマバイカモに象徴されるように、形となって花開き、そしてその宝を次世代に伝えていこうという現在。グラウンドワーク三島の力強い行動力、発信力からつながる今後の展開がますます楽しみです。

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JFS関連記事:みんなで築く環境先進都市 - 静岡県三島市
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027351.html


(スタッフライター 大野多恵子)

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