ニュースレター

2011年04月12日

 

テレビから動画ポータルサイトまで、多角的に環境情報を伝える ~ 株式会社NHKグローバルメディアサービス

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JFS ニュースレター No.100 (2010年12月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第98回
http://www.nhk-g.co.jp/


日本の公共放送、日本放送協会(NHK)のテレビ放送が開始されたのは1953年。高度経済成長とともに各家庭にテレビが普及し、白黒からカラー放送、衛星放送、ハイビジョン、地上デジタル放送と、60年足らずの間にその技術はめざましい進歩を遂げました。

公共放送NHKの報道系の子会社である株式会社NHKグローバルメディアサービスでは、多様化する情報ネットワークの中で、NHKからの番組制作の委託や、国際化に対応する翻訳、同時通訳業務などを行っています。

現在では、インターネットによる情報発信も加わり、映像の世界はテレビの枠を超えて次々と新しい展開を見せています。NHKは2010年4月から、NHKグローバルメディアサービスなど関連会社とともに、これまでにテレビで放送された環境関連の番組を集めた無料の動画ポータルサイト「NHKエコチャンネル」での配信をスタートしました。JFS関連記事:環境動画ポータルサイト「NHKエコチャンネル」オープン
http://www.japanfs.org/ja/pages/030013.html

今回は、ここ10年ほど環境に関する番組制作にたずさわってきた番組制作部のチーフ・プロデューサーの西川美和子さんと、ナレーター兼ライターのジンジャー・ヴォーンさんにお話を伺いました。


2001年に放送された「地球白書」

京都議定書が発効された1997年ごろから、「地球温暖化」という言葉が広く一般市民に知られるようになりました。従来は、一部の専門家のものと思われていた環境問題が、私たち生活者にどのような影響を及ぼし、今後どのように考えていけばいいのか―そこにメディアの力がとても大きな影響力を持って、重要な役割を果たすことになります。

2001年の1月2~7日にNHKで放送された「地球白書」は、経済成長を続けてきた地球の姿を見直す意味で大きな一石を投じた番組です。アメリカの環境学者、レスター・ブラウン氏が当時代表を務めていたワールドウォッチ研究所が1984年から毎年発行している書籍「地球白書」をもとに、CNNなどと国際共同制作されたものです。テーマは「大量消費との決別」「巨大都市 未来への選択」「90億人をどう養うか」「大いなる自然の恵み」「新エネルギー革命」「私たちの惑星~21世紀 市民の力~」「エピローグ 環境革命への決断」というものでした。

50年後には90億人に達する世界の人口を、地球の限られた再生能力の中でどう養っていくのかという大きな課題を提示した特集番組として反響を呼びました。海外取材を含め、2年間という制作全体にかかわってきた西川さんは、「今ほど温暖化問題については知られていない時代でしたから、一から丁寧に説明していく番組づくりが必要でした」と、当時を振り返ります。


1つのテーマを深める「SAVE THE FUTURE」

その後、メディアが環境問題を取り上げる機会が少しずつ増えていきましたが、再び大きく取り上げられるきっかけとなったのが2008年7月の北海道洞爺湖サミットです。日本は議長国として重要な役割を果たし、気候変動問題については2050年までに世界全体の温室効果ガスを少なくとも50%削減するという長期目標を採択することで一致しました。

NHKでは洞爺湖サミット開催にちなみ、2008年6月6~8日に「SAVE THE FUTURE」という特集番組を放映。6日の夜のプロローグを皮切りに、7日は「地球温暖化(CO2削減)問題を考えてみよう!」、8日は「楽しくエコライフ!できることから始めよう!」をテーマとして、朝から夜までの放送枠を3日間連続でほぼ特番のプログラムで構成するという、環境問題を扱った番組としては画期的なものでした。
http://www.nhk.or.jp/savethefuture/

「SAVE THE FUTURE」は、その後も年に2度、メインテーマを設けて放送されています。

2009年は、毎年夏至の日に全国で行われている市民運動「100万人のキャンドルナイト」を特集。各地の市民グループやNPO、学生、企業の人たちをつないだリレー中継で、「電気を消す、キャンドルの灯りで過ごす」という呼びかけを行いました。

そして2010年は「生物多様性COP10スペシャル」と題して、名古屋で開催されていたCOP10の会場からの生中継を交えながら7時間近く放送されました。

SAVE THE FUTUREでは、地球温暖化や生物多様性など、従来は一般の人になじみの薄かった内容にバラエティショーの要素を盛り込み、理解しやすい工夫をしています。西川さんは3年間を通じて「科学者ライブ」のコーナーを担当してきました。地球温暖化やグリーン・テクノロジーなどに関するさまざまな疑問に、第一線で活躍する科学者たちが分かりやすく答えていくというものです。

「『SAVE THE FUTURE』を始めてしばらくは、番組の認知度がなかなか上がらなかったのですが、今ではあちこちで番組を知ってくださっている方にお会いするようになりました。数年前と比べると、環境について人々の関心が高まってきたということでしょうか。番組を続けてきた成果もあったと思います。生物多様性に関連して、2010年6月の放送で生物多様性の危機を扱ったときは、視聴率が約10%と、こういう種類の番組としては多くの方に見ていただけました」と、西川さんは語っています。


環境映像を蓄積する「NHKエコチャンネル」のスタート

「SAVE THE FUTURE」の企画と並行し、動画ポータルサイト「NHKエコチャンネル」の企画が進められました。これまで環境問題を扱った番組は、特番のほかにもかなりの数が制作されてきましたが、通常は1~2回しか放送されません。それではもったいないと、動画サイトの企画が挙がったのです。
http://www.nhk.or.jp/eco-channel/

2010年4月から配信がスタートし、現在は日本語で約700本、英語で約150本の映像が無料で見られます。日本のテレビ界では珍しいことといえそうです。ユーザーは興味のあるカテゴリー別に、あるいはキーワード検索で、さまざまな番組を探すことができます。これまでのテレビ放送に加えて、こうしたサービスを提供することで、映像メディアの世界はさらに次のステップへと移行しています。

また、西川さんとヴォーンさんは、海外向けの24時間英語チャンネル「NHKワールド」で放送するシリーズ番組「Green Style Japan」で、日本ならでは環境の取り組みを伝えています。その映像も「NHKエコチャンネル」で見られます。

アメリカ人の父、日本人の母を持つヴォーンさんは、「兵庫県でコウノトリの野生復帰に向けた環境整備を取材して、とても興味を持ちました。また水や肥料を極力使わず、美味しい野菜をつくるという永田農法について伝えたときには、とても反響がありました」と話しています。日本ならでの取り組みが、海外の視聴者にとっては興味深く、貴重な情報源となるのでしょう。地道な取材や報道の積み重ねが、海外への貢献として結実しているといえるかもしれません。

テレビという既存のメディアに加え、さらに動画サイトで、多角的な情報が得られる時代。私たちにとっては、なかなか目には見えず、把握することが難しい地球環境に関する正しい情報は、今後ますます必要となることでしょう。海外のニュースを日本に伝えると同時に、日本の有効な情報も海外へ伝える公共放送として、NHKとNHKグローバルメディアサービスの果たす役割と可能性にますます期待したいところです。


(スタッフライター 大野多恵子)

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