ニュースレター

2011年02月22日

 

サッカーの力で社会課題解決のきっかけをつくる ~ ソニー

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JFS ニュースレター No.98 (2010年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第96回
http://www.sony.co.jp/csr/


効果的だったサッカー観戦との組み合わせ

2010年6月11日~7月11日、世界中の人々が熱狂したサッカー・ワールドカップ(W杯)がアフリカ大陸初となる南アフリカ共和国で開催されました。「アフリカに関心が集まるこの機会に、サッカーの力を生かした社会貢献活動を」。国際サッカー連盟(FIFA)オフィシャルパートナーのソニーが、W杯参加国のカメルーン共和国とガーナ共和国の19地域(2カ国合計)で、「パブリックビューイング」を開催しました。

これは、テレビの普及率が低く、せっかくの試合を見られない人も多い地域で、公共の場に組まれた200インチの大型モニターを使って、大勢の人がワールドカップの生中継を見るというもの。ソニーの映像技術を生かし、カメルーン共和国では国連開発計画(UNDP)と、ガーナ共和国では国際協力機構(JICA)と連携し、HIV/エイズ(後天性免疫不全症候群)蔓延防止を呼びかける活動の一環として実施されました。

この活動の背景には、アフリカの深刻なHIV/エイズ蔓延の問題があります。外務省の開発教育ハンドブック『ミレニアム開発目標』によると、これまでのHIV/エイズの感染者数はおよそ4200万人にのぼり、そのうち2200万人が死亡。サハラ以南のアフリカが感染者の約70%を占め、エイズによってアフリカの平均寿命が急落していると報告されています。国連ミレニアム開発目標(MDGs)では、「極度の貧困と飢餓の撲滅」「普遍的初等教育の達成」「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」「幼児死亡率の削減」など8つのゴールを定めていますが、「HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止」もその1つです。多くの人に知識を持ってもらい、自ら身を守る術を持ってもらいたいと、UNDPやJICAをはじめ多くの団体が活動しています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/handbook06.pdf

HIV/エイズについては、正しい知識を普及・啓発するために効果的な活動方法が常に求められています。そのときに、ソニーの持つ映像技術が、人々を集めるための手段としてうまくマッチしたのです。

JICAの報告によれば、2009年にソニーとガーナで行ったパブリックビューイングのトライアルでは、JICAが2006年に啓発・教育イベントを単独で行ったときより、HIV検査受診者数が約3倍に増加するなど、劇的に効果が上がったといいます。
http://www.jica.go.jp/press/2009/20090717_01.html

このプロジェクトは、都市部ではなく主に郊外で行われていますが、ソニーのCSR部統括部長の冨田秀実さんはその背景について、「啓発活動をする際に、都市部ではある程度の人を集めることは容易です。しかし、そのほかの地域で人を集めるのが難しいと聞きました。そこで、サッカーの注目度がとても高いにもかかわらず、テレビでの試合観戦が困難な地方部で展開したのです」と語ります。

ソニーのCSR活動には「技術をはじめソニーが持っているものを使うこと」「ほかの組織などとパートナーシップを活用すること」「社員の活用」の3つの軸があります。今回のアフリカでのプロジェクトでは、この3つをフルに生かしたと冨田さんは続けます。

カメルーンでは6月14日から24日まで、ガーナでは6月13日から7月11日まで、それぞれの国でパブリックビューイングが行われました。大型スクリーン、プロジェクター、防水スピーカーなど、現地での風雨に耐えるシステムが組まれ、ソニーの社員が設置から運営までを担当しました。

パブリックビューイングの会場で、試合前後やハーフタイムに、UNDPとJICAはそれぞれにHIV/エイズに関する劇やクイズ大会、歌・ポエム選考会、コンドームの無料配布などのイベントを行いました。結果、目標の2倍に当たる約2万4000人(カメルーン: 約5,350人、ガーナ: 約1万8650人)が参加、HIV検査受診者は約2.5倍の約4,800人(カメルーン: 約1,800人、ガーナ: 約3,000人)という成果があがったのです。使われた機材は、現地に寄付され、今後もHIV/エイズ蔓延防止のイベントなどで活用される予定です。


苦労と共に新たなニーズも知ったアフリカ体験

前もって行われたトライアルで技術的な問題はクリアされていましたが、試合の観戦中、応援する自国チームがゴールを決めた際には、喜んで走り回る大勢の観客に映像ケーブルを踏まれ、映像が飛ぶなどのトラブルが生じたそうです。しかし、回数を重ねて経験を積むにつれ、トラブルも少なくなりセッティングも手際よくなっていったと冨田さんは話します。(パブリックビューイングの様子:動画)
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr/ForTheNextGeneration/
contentslist/dreamgoal2010/publicviewing/

ガーナではトライアルも行い、しかもJICAがパートナーなので日本語も通じ、やりやすさがありました。しかし、カメルーンでのパートナー・UNDPとは、お互い初体験のうえ、日本語は通じません。冨田さんは「現地スタッフと共に調整が大変でした。しかし、UNDPは地域に根ざした組織なので、地元のコミュニケーションに長けていて、主力メディアであるラジオでの告知が必要と判断すると、突然にもかかわらず早朝番組の生放送に出演が決まったり、われわれだけではできないようなことが実現しました」と、そのパートナーシップを振り返ります。

ソニーのスタッフの現地滞在は、一人平均3週間弱から1カ月ほど。試合は夜中に行われるため、作業は深夜に及び体力的にも大変でした。しかし、参加したスタッフはさまざまな気づきを得て帰国したと冨田さんは語ります。「普段の業務と全く違う世界で、何が求められているかを知り、また、自分たちができることも改めて実感しました。ビジネス面でも、現場を実際に見てその国のニーズを知る、とってもよい機会になりました。また、興味津々な様子で機材に集まってくる子どもが多いことはおもしろかったです。子どもの好奇心の強さは、日本でも世界でも世界中同じだと改めて感じました」


技術を生かし、サッカーを通じて社会貢献する「Dream Goal 2010」

ソニーは、敗戦直後の1946年に創立されたこともあり、伝統的に教育分野への貢献に力を入れてきました。グローバルカンパニーとなった現在、自社の技術を生かし世界的な課題に対してユニークな形で教育へアプローチすることを目指しています。そのとき、一つのコアとしているものがMDGsの8つのゴールです。「『ウォークマン』という世の中にない製品を提案したことで、人々のライフスタイルに変革をもたらしたように、これまでにない手法を提案することが、私たちができる貢献だと思います」と冨田さん。パブリックビューイングが、ほかの企業やNGO、国際機関などと共に広がっていくことを期待しています。

ソニーでは今年、「パブリックビューイング」のほかにも「Dream Goal 2010」として3つの社会貢献プログラムを展開しています。南アフリカの子どもたちをサッカー観戦に招待する「チケットファンド」、アフリカの子どもたちへプレゼントするための「オリジナルボールの開発」、サッカーを通じ社会開発活動を行う世界各地のNGOに製品を提供しキャパシティビルディグに協力する「シヤコナ"We can do it"プロジェクト」です。いずれも、ソニーの社員の協力と技術力を生かした独自なものとなっています。

たとえば「オリジナルボールの開発」では、整備の不十分なフィールドでも長く使えるよう、耐久性の高い植物原料プラスチックを使ったサッカーボールを開発。ウェブサイトでのクリック募金に1,000クリックが集まったり、メモリースティックなどの製品が10GB分販売されるごとに1個のボールが贈られる仕組みで、現在3,372個がアフリカ各地に寄贈される予定です。

W杯では、アフリカ大陸から参加した6カ国のうち、ガーナ以外は1次リーグで敗退しました。しかし、アフリカ大陸初の開催は、そこに住む人々にとって、大きな希望につながったことでしょう。その希望は、アフリカの国々のほか、国際団体、NGO、そしてソニーなどの企業と、さまざまな力が支えています。

今後の展開について、冨田さんは次のように力強く語りました。「今回は、W杯のためアフリカが主な活動場所でしたが、『シヤコナ』プロジェクトには、ほかの地域のNGOなども対象になります。サッカーを観戦するだけではCSRの活動としては不十分です。ほかの地域でどういう問題があり、それに対してどう展開するか、今後の課題と意識しています」


(スタッフライター 岸上祐子)

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