ニュースレター

2011年02月15日

 

おカネの流れを私たちの手に

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JFS ニュースレター No.98 (2010年10月号)


市民による市民のための銀行 ― NPOバンク

環境問題をはじめ、さまざまな領域で「市民参加」が進んでいますが、最も遅れている分野の1つは金融でしょう。日本では多くの人が、「おカネは銀行に預けるもの」と思っているかもしれません。実際、金融機関別の預金額のシェアを見ると、2009年3月時点では、大手都市銀行が34%弱、ゆうちょ銀行が17%、地方銀行が約20%(金融ジャーナル社調べ)と、ここまででおよそ7割を占めています。

また、預金量に対する貸出金量の割合を表す「預貸率」を地域別に見ると、貸出金が預金額を上回るのは東京だけで、ほかではすべての地域で下回っています(2010年8月現在、日本銀行のデータより)。これは地方のお金が東京に吸い上げられていることを示しています。つまり地域のお金が地域で循環していないのです。

こうした中で少しずつ広がりを見せている新しい動きに「NPOバンク」があります。NPOバンクとは、市民、NPO、企業からの出資金を元手に、環境保全や福祉、コミュニティビジネスなど、社会性のある事業に融資することを目的とした非営利の金融機関です。

現在日本には、全国に12のNPOバンクがあり、計画中のものも含めれば、その数はおよそ20に上ります。特に2000年代に入ってから、北海道NPOバンク(2002年)、東京コミュニティパワーバンク(2003年)、ap bank(2003年)、新潟コミュニティ・バンク(2004年)、コミュニティ・ユース・バンクmomo(2005年)、くまもとソーシャルバンク(2008年)と、各地にNPOバンクの設立が相次ぎました。2005年からは、NPOバンクの連絡組織である「全国NPOバンク連絡会」も活動を開始し、NPOバンク同士の連携も進んでいます。

最も古いのは1994年に設立された「未来バンク」です。江戸川区に拠点を構える未来バンクは、組合員となって出資された資金を、同じく組合員のために融資する仕組みで、「環境」「市民事業」「福祉」という3つの目的に限って低利(2%)の融資を行っています。組合員20名の出資金400万円から始め、2010年3月末現在の組合員数は約510名で、出資金はおよそ1億7000万円。そのうち、現在は6000万円が融資され、これまでの累積では9億円強の貸し出しを行ってきました。融資の受け手のほとんどがNPOです。


おカネとエネルギー循環のつながり

未来バンク理事長の田中優さんは、地域経済の規模は「地域内の資金量×回転数=地域経済の規模」で測れると言います。地域の活性化には、資金を地域で回転させることが大事になります。そこで田中さんが提唱するのが「代替通貨」です。

たとえば、荒廃した森林の木材をペレットにして燃料に替えることを考えてみましょう。今のように輸入される化石燃料に頼っていては、地域のおカネが外に出て行くばかりで、エネルギー循環もおカネの循環も持続可能にはなりません。ペレットを燃料とする暖房器具や給湯器を開発した上で、地元の山の木材でペレットをつくり、「ペレット燃料20キロ」と替えられる「ペレットはがき」という代替通貨をつくったらどうでしょうか。

ペレットはがきは信頼関係ある人たちの中だけで循環する代替通貨ですから、全国で通用する「円札」より不安定です。多くの人はペレットはがきを先に使いたくなるでしょう。すると、ペレットはがきの回転数が上がり地域経済が活性化される、と田中さんは考えています。こうしておカネの流れを私たちの手に取り戻すことで、実はエネルギー問題の解決にも近づくことができる一石二鳥のアイデアといえるでしょう。

家庭のエネルギー消費を減らす試みのうち、最も大規模なものは住宅そのものを省エネ型に替えることです。この発想から生まれたのが一般社団法人天然住宅です。天然住宅とは、自然な素材を用いて長く使える住宅を建て、いい木材を適正な価格で買うことで林産地の人たちの生活を支え、光熱費の負担が少ない環境保全につながる住宅のことです。

日本の住宅は、築後20年ほどで資産価値ゼロと査定され、建て替えサイクルが非常に短いという問題を抱えています。木が育つには長い時間が必要です。50 年かけて育った木材なら、それより長く使わなければ森が失われてしまいます。新築住宅に使われる化学物質が、アトピーをはじめ、さまざまな人体への悪影響を及ぼしていると言われますが、化学物質を排した天然住宅なら、中古になっても資産価値が下がらないかもしれません。

天然住宅は、大手ハウスメーカーのプレハブ住宅より少し高額な買い物になります。そこで、「天然住宅に住みたい!」と思う人を資金面からサポートするために、「天然住宅バンク」というNPOバンクも設立されました。

2008年にできたばかりとあって、この融資だけで天然住宅を建てた例はありませんが、ほかの銀行の融資と組み合わせて新築したり、自宅の断熱リフォームの費用を融資してもらい、安くなった光熱費分から余裕を持って返済する、という事例が既に生まれています。


口座を変えれば世界が変わる

こうした新しい市民による銀行の先駆けとなった未来バンクは、従来の貯蓄に対する疑問がきっかけで生まれました。田中さんは、「国内・海外の環境破壊をめぐる資金が、郵便貯金などを原資とする財政投融資にあり、このままにしていれば、過去と同様に戦争の資金とされるかも知れない。いくら環境破壊に反対しても資金が供給される以上、もぐら叩きに過ぎなくなる」と危惧していたといいます。

こうした危機感を共有し、主に若い世代に向けたキャンペーンを行っている団体もあります。国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」では、「口座を変えれば世界が変わる」をキャッチフレーズに、環境や人にやさしく、地域・社会のためになるお金の流れをつくる「エコ貯金」プロジェクトを2003年から続けてきました。市民一人ひとりが自分の銀行口座や出資先・投資先を、銀行の「社会性」や「環境貢献への取り組み」を考慮して選び直す新しい預貯金スタイルを提案しています。

市民にエコ貯金の実践を促すために取り組んだのが、「3億円のエコ貯金アクション!」というキャンペーン。エコ貯金、つまり「環境・社会に配慮した金融機関におカネを預け変えます」という宣言を3億円分集めるというもので、アースデイなどのイベントで呼びかけた結果、開始から7カ月ほど経った2005年9月に目標を達成しています。その後もエコ貯金宣言は集まり続け、2010年には合計で10億円までに達し、宣言した市民の数は1,600人を超えました。

同時に、2010年1月からは、「地雷廃絶日本キャンペーン」と協働で「どこに行ってる? 私のお金」キャンペーンを展開してきました。私たちが預けたお金が、非人道兵器の製造や人権侵害に加担している企業への融資に使われている現状を変えるために、 日本の金融機関に投融資の基準づくりと情報公開を求めるものです。A SEEED JAPANはこれまでにも、国内大手メガバンクグループ3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャル・グループ、 三井住友フィナンシャル・グループ)に対し、金融機関の社会的責任に関する公開質問状を送り、こうした投融資の基準づくりを求めてきました。

非人道兵器とは例えばクラスター爆弾です。クラスター爆弾については世界中の有志国やNGOから反対の声があがり、2010年8月1日、ついに「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」が発効し、クラスター弾の国際的な定義とその禁止が定められました。

A SEED JAPANや地雷廃絶日本キャンペーンの働きかけや、こうした世界的な流れもあり、全国銀行業界は2010年10月、「クラスター弾の製造を資金使途とする与信は、国の内外を問わず、これを行わない」と発表するにいたりました。市民の力が少しずつ大手金融機関を動かしているといえるでしょう。

おカネに振り回されるのではなく、おカネを賢く使いこなして真に持続可能な社会を築くためには、おカネの流れを私たちの手に取り戻していくことが何より大切です。口座をつくっている金融機関の取り組みをしっかり見定めたり、NPOバンクのような新しい仕組みを活用するなどして、おカネの流れを変えることで、エネルギー問題の解決や地域の活性化、そして平和な世界の構築に取り組む人が増えていくことを願っています。


(スタッフライター 小島和子)

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