ニュースレター

2010年11月09日

 

日本の運輸部門からのCO2はすでに減少中!

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.95 (2010年7月号)


世界のCO2排出量は増加し続けています。その中で、運輸部門は2007年に世界のCO2排出量290億トンの約23%を占めており、世界各地のモータリゼーションと共に増加の一途をたどっています。運輸部門には飛行機、船舶、鉄道、自動車が含まれますが、そのCO2排出量の約73%を自動車が占めています。

日本では、CO2排出量のうち約19%を運輸部門が占めており、うち約90%が自動車からの排出です。世界全体では運輸部門からのCO2排出量は増え続けていますが、日本では、運輸部門のCO2排出量は、2001年をピークに減少しつつあります(下図)。2001年に2億6700万トンだったのが2007年には2億4600万トンへと減っており、2010年度の目安目標(2億4000万~4300万トン)を過達していますが、更なる削減を目指して努力が続けられています。日本の運輸部門はどのような手を打って、増加から減少へと転換できたのか、さらなる減少を追求しているのかをお伝えしましょう。

Transport_Sector_CO2_Emissions01_ja.jpg

日本の運輸部門のCO2削減の要因は、大きく3つに分けることができます。(1)自動車の燃費向上、(2)交通対策・エコドライブなど、(3)走行量の低下です。もし95年時点から何も手を打たなかったとしたら、日本の運輸部門からのCO2排出量は上昇の一途をたどっていたと考えられます。このBAU(未対応ケース)に比べ、2007年度には3600万トンのCO2が削減されています。そのうち、自動車の燃費向上によるものが1400万トン、交通対策・エコドライブ等が1300万トン、モーダルシフトを含む走行量の低下によるものが900万トンです。


燃費はこうやって改善してきた

日本の2010年度燃費基準は、乗用車平均14.8km/Lですが、2008年度の販売モード燃費(新車のカタログ燃費)は平均16.9km/Lに達しています。各国の乗用車の燃費推移を示したグラフを見ると(下図)、日本の燃費の良さがわかります。これは自動車メーカーが、その技術力と投資を集中してきたためです。

Transport_Sector_CO2_Emissions02_ja.jpg

排気ガス対策は、触媒という一つの技術改善で済む対策であるのに対して、燃費改善は、車全体の細かな地道な技術の積み重ねで進めていくしかありません。エンジンの効率向上のためには、可変機構などによる熱効率の改善や、低摩擦エンジンオイルなどによる摩擦損失の低減などに取り組んでいます。また、材料製造業界などの技術を結集し、軽量材料の採用を拡大したり、ボディ構造の改良を図ることで、車両の軽量化を実現しています。

シフト段数を増やすなどの駆動系の改良も重要な要因です。ボディ形状を改良して空気抵抗を低減したり、低転がり抵抗タイヤを採用することで、転がり抵抗の低減を図ったり、そのほかにも電動パワーステアリングや自動アイドリングストップ、ハイブリッドカーなどを組み合わせることで、燃費の大きな改善が図られてきました。

日本の燃費基準はトップランナー方式によって設定されます。トップランナー方式とは、現状の機器の中で最高の効率の値に基準を設定するやり方です。自動車のトップランナー燃費基準は、現状で販売されている自動車の燃費分布をベースとして、まず平均値をトップランナーの水準まで引き上げ、さらに将来普及が見込まれる技術の向上分を上乗せし、それを新しい平均値である新基準として定められます。こうして燃費基準はどんどんと引き上げられてきました。

2015年度の燃費基準として、乗用車は平均18.6km/L相当(10.15モード)というさらに厳しい基準が設定されています。軽自動車から重量車まですべての区分で燃費基準があるのは、世界でも日本だけです。この2015年度燃費基準は、今後10年間、過去10年間と同じハイペースで燃費を向上していかなければ達成できない厳しい基準ですが、次世代車の普及を含め、日本の自動車メーカーはこの新基準の達成に向け、最大限の努力を進めています。

カタログに掲載される10.15モード燃費に比べて、実際の走行時の実走行燃費は3割ほど低くなっています。この差の主因は、(1)急加速など、運転方法によるロス、(2)エアコンと電気負荷によるエネルギー消費、(3)冷却によるロス(寒冷気候、車の暖機)、(4)道路が混雑していることのロスの4つと考えられています。

自動車メーカーの努力による燃費改善だけではなく、運転者のエコドライブによって急加速やエアコン使用などの要因を改善できます。また、道路の混雑は交通流対策で改善を図ることができるでしょう。このように、CO2排出量の削減は、さまざまな対策が総合的に有機的に効果を発揮して実現できるものなのです。


エコドライブの推進と交通流の改善

貨物事業者のエコドライブは、燃費向上がコスト削減につながるためかなり進んでいますが、乗用車ではまだ定着しているとは言えません。そのため、自動車メーカー各社は、燃料計などの車載のエコドライブツールを装着するようになっています。

現在、新車販売されている自家用乗用車のうち約3分の2には、現在の燃費を示したり、燃費の良いエコドライブ走行をしているとランプがつくなど、何らかのエコドライブツールが装着されています。このように、まずは自分の走行時の燃費を把握し、エコドライブにより運転の改善を行うことで、燃費が約1割改善できることがわかっています。すべての乗用車がエコドライブを実践すれば、年間数百万トン規模のCO2排出量を削減できます。

エコドライブを推進するために、政府と民間団体が定めた「エコドライブ10のすすめ」は、(1)ふんわりアクセル「eスタート」、(2)加減速の少ない運転、(3)早めのアクセルオフ、(4)エアコンの使用を控えめに、(5)アイドリングストップ、(6)暖機運転は適切に、(7)道路交通情報の活用、(8)タイヤの空気圧をこまめにチェック、(9)不要な荷物は積まずに走行、(10)駐車場所に注意、です。

交通流が改善すると、走行速度が上がって燃費が改善します。東京23区の一般道路の平均速度は17.9km/hしかありません(2005年)。平均時速が20km/hから40km/hに改善すると、CO2を40%減らせます。渋滞ポイントの解消や、踏切の改良、渋滞にかかわる違法駐車の取り締まり強化、環状線の整備などの交通流改善が、CO2削減にも役立つのです。また、ETCシステムの普及や高度ナビゲーションシステム、信号制御高度化など、道路交通システムの高度化という交通施策もあります。


日本の経験から学べること

冒頭述べたように、世界では自動車の増加に伴い、世界の総走行量は2030年に現状の約1.9倍になり、運輸部門からのCO2排出量はまだまだ増えると予測されています。その中で、「日本の運輸部門では、CO2排出量が実際にピークアウトしている」という事実とその成功要因は、世界に多くの知見を提供できるのではないでしょうか。

日本自動車工業会では、日本の経験を踏まえ、総合的に4つの対策に取り組むことで、CO2削減を実現できると考えています。自動車メーカーは自動車単体の燃費改善を、政府は交通流改善を、燃料メーカーは燃料の多様化を、国民はエコドライブや低CO2車両の利用など、効率的な利用を進めることです。

日本自動車工業会では、「こうした統合的な対策をとらなければ、世界の自動車によるCO2排出量は2030年に現在の倍近くになるが、対策をとれば、車両数が増えても、世界の自動車からのCO2排出量は2025年頃ピークに達し、そのあと減少できる」と予測しています。

Transport_Sector_CO2_Emissions03_ja.jpg

まず、乗用車の燃費基準のない国では燃費基準を設定し、貨物車に燃費基準のない国は貨物車用の燃費基準を設定することが大切です。日本のほか米国、欧州、カナダ、オーストラリア、韓国、中国、台湾など、燃費基準が定められている国々では、毎年平均燃費が改善されています。ところが、世界にはまだ燃費基準の定められていない国も多数あります。燃費基準のない国では、燃費が改善されておらず、1km走行当たりのCO2排出量は減っていません。

また、軽量化を促す施策によって、自動車の重量化を抑えることも重要です。欧米では重量化の傾向が最近続いており、重量化の傾向を示していないのは日本だけです。

グリーン税制による優遇措置などで、低排出型の自動車を後押しすることも大事です。日本では、燃費性能および排出ガスに優れた低公害車に対して自動車税の税率を軽減する一方、新規登録から一定年数を経過した自動車に対しては税率を重課するという自動車税のグリーン化が効果を発揮しています。

新興国では、今後人口増加に伴って都市部への人口集中が予測されます。そういった地域では、都市計画を作る段階で道路整備やITS技術を導入するなど、交通対策を考慮に入れることが重要です。

それぞれの国や地域に合わせた形で、燃費改善、道路インフラの整備、燃料の多様化、各種交通対策、エコドライブといった総合的な対策を進めていくことによって、近い将来、世界全体のCO2排出量がピークアウトする日を心待ちにしています。

(枝廣淳子)

参考:日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/eco/wrestle/index.html
http://www.jama.or.jp/eco/wrestle/pdf/co2_reduction.pdf

English  

 


 

このページの先頭へ