ニュースレター

2010年05月18日

 

2020年、2つの日本の姿(前編)

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JFS ニュースレター No.89 (2010年1月号)


新しい10年が始まりました。年始に当たって、10年後の日本、つまり「2020年の日本」の姿を2つの可能性として描いてみました。今月号ではまず「このままの状態が続くと......?」という10年後をお届けします。

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2020年。2009年末に行われたCOP15で、世界は具体的な目標や取り組みの枠組みを設定できず、その後も、先進国と中国をはじめとする途上国が、「過去の責任」と「未来の責任」を巡って争いを続け、皆が"後出しジャンケン"をしようと腹の探り合いをする中で、問題を先送りしたまま10年がたってしまった。

その間に温暖化の影響や被害は明白になりつつあり、特に脆弱な地域では地域社会や生態系が崩壊し始め、膨大な環境難民が発生するようになり、国際情勢やグローバル経済を揺るがしている。

問題構造の根底にあるのは、「経済活動はエネルギー消費量に比例し、エネルギー消費量はCO2排出量に比例する」という構造のままではCO2削減=経済活動の縮小を意味するため、自国の繁栄を求める各国間で話が進まないという事実である。

このような国際情勢の中、「2020年に25%削減」という目標を、「主要国が参加するなら」という条件付きで掲げた日本も、「主要国が参加すると言っていないから」と、目標実現のための対策着手を先送りし、日本の温室効果ガス排出量は増え続けている。

しかし、その間に、専門家がかねてより2012~2014年にやってくると警告を発していたピークオイル(産油量がピークに達した後減少していくタイミング)が到来した。2009年8月には、それまで楽観的な見通しを出していたIEA(国際エネルギー機関)も、「世界の産油量の4分の3を占める800の油田を調べたところ、主要な油田のほとんどはすでにピークを過ぎていた。これまでの我々の見通しは甘かった。世界全体でも10年以内にピークが来るだろう」と述べた通りの世界になっているのだ。

原油価格は1バレル200ドルを超えている。新興国をはじめとする需要は増大の一途をたどっているため、需給の乖離が拡大するにつれ、価格がさらに高騰していくのは火を見るより明らかである。

エネルギー自給率4%で、一次エネルギーの約8割を化石燃料に頼っている日本では、くるくる変わる政策に中長期的な投資を阻まれて自然エネルギーの拡大が進まず、地震が来るたびに原子力発電も停止する状況の中、輸入の化石エネルギーに依存する構造が変わっておらず、経済も社会も動きが取れなくなりつつある。

何しろ、2008年には約23兆円だった化石エネルギーの輸入コストが、消費量はほとんど変わらないのに、2018年には50兆円近くになっているのだから。2008年時点でも、日本の御三家といわれた自動車・鉄鋼・電機電子産業が輸出で稼いでくる外貨をすべて化石エネルギーの輸入に費やしていた状況だった。今では、輸出産業の稼ぐ外貨は減っているのに、化石エネルギーのコストは高騰の一途なのだ。

ただでさえ財政赤字の大きかった日本は、財政破綻の瀬戸際に立たされている。高騰を続ける輸入エネルギーの支払いに加え、国内でのCO2削減が進んでいないため、京都議定書やその後の枠組みの目標の帳尻合わせのため、海外からの排出権購入を余儀なくされ、さらに国外へと資金が流出して、国内の産業や社会を活性化する原資が乏しくなっているのだ。

加えて、余力のあるうちに自立的な食料経済への転換をはからなかったため、食料自給率は40%前後と10年前とほとんど変わっていない。ガソリンや軽油で動くトラクターやトラック、重油を燃やす温室、天然ガスを原料とする化学肥料に頼る「1キロカロリーの栄養をつくるのに10キロカロリーの化石燃料が必要」といわれる食料生産のやり方も変わっていないため、原油価格の高騰や品薄が食料価格の高騰や品薄に直結し、十分に食べられない人が増えている状況だ。

地方は、大胆な地域分権によってそれぞれの地域でのビジョンに向けての取り組みを進めるチャンスを創り出すことができず、人口減少はさらに進行し、疲弊が進んでいる。自動車中心の街づくりの帰結として、スプロール化して市街地から離れた地域に点在する高齢者への福祉サービスの維持もままならなくなっている。

政府は相変わらず長期的なビジョンがないまま、そのときどきの内外の圧力によって補助金を付けたりやめたり、制度をころころ変えたりするエネルギー・温暖化政策をとりつづけている。産業界や企業は、確固たる中長期の投資計画も立てられず、予測性と継続性のない政策に翻弄されつづける一方、政府の国際公約の帳尻を合わせるために排出権購入を強いられるという状況がずっと続いている。

そのような状況の中、企業は生き残りのために、短期的・局所的な効率性を求めるしかなくなり、「わが社さえ良ければ」「今期さえ良ければ」といった思考パターンに陥り、人員カットなどの短期的なコスト削減を図って何とか黒字化を目指している。しかし、雇用の削減は、消費できない人々を創り出し、社会の購買力を削減することに等しいため、自分の首を自分で絞めているような状況になりつつある。将来に向けての大事な研究開発や体制づくりには、ほとんど資金が割けていない状態なのだ。

そのような状況の中、効果的な新製品も開発できなくなりつつあり、日本企業の国際競争力も、日本の世界における地位も下落の一途をたどっている。日本社会の覇気も明るさも失われ、こんな社会に子どもを送り出したくないという思いからか、出生率も低下の一途をたどっている。

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こんな日本にはなってほしくない!と思います。でも、このままの状況では、こんな日本に限りなく近づいていきそうです。そうしないために、どうしたらよいか?

まずは「ありたい姿」「ありうる姿」をバックキャスティングで描くことです。次回は、全く異なる「2020年の日本」を描いてみようと思います。こういう日本にしたい、できるのだ!という姿を。お楽しみに。

ぜひ読者の皆さんも、「2020年の自分の国は?」「2020年の私たちの地域は?」「2020年のわが社は?」を描いてみて下さいね!

(枝廣淳子)

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