ニュースレター

2010年02月23日

 

民主党政権誕生 ~ 日本の環境への取り組みはどう変わるか?

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JFS ニュースレター No.86 (2009年10月号)

8月30日に投開票された第45回衆議院議員選挙で、民主党が過半数を大幅に上回る議席を獲得し、自民党は1955年の結党以来、初めて第一党の座を失いました。衆院選で野党が単独過半数を得て政権交代を実現するのは、戦後初めてです。「すさまじい地殻変動」「革命的」とも言われる政権交代で、9月16日、鳩山由紀夫総理大臣が誕生しました。

「政治主導」を掲げる民主党政権の誕生で、「政と官」の関係など日本の政策決定の仕組みが大きく変わりつつあります。また、国際的な場面でのリーダーシップも発揮しつつあります。まだ活動を開始して間もない新政権をめぐる状況と、日本の環境への取り組みの変化をお伝えしましょう。

まず、これまでの日本の政策決定の仕組みについて簡単に説明しましょう。1955年以降、政党と官僚と産業界の強力な連帯関係が生まれ、第二次世界大戦後の日本の経済復興において主な推進力になりました。その強い関係性は時に癒着と呼ばれる状況を生み、硬直化した制度や社会の閉塞感に変化を求めた国民が自民党に「ノー」をつきつけたのが、今回の選挙の結果であるとも言われています。

また、日本の官僚制度は強固な縦割り行政で知られており、各省庁はそれぞれの管轄を堅持しています。他国に比べて日本の環境省が国の環境政策を指揮する権限が弱いのはそのためです。たとえば、エネルギーや産業界に関連することは経済産業省の管轄であるため、環境省には手出しができません。交通輸送や建築関係は国交省、森林や食糧関係は農水省と、環境問題に関わる多くの分野が環境省の管轄外なのです。

経済政策に関しては、経済産業省と企業は一丸となって、「護送船団方式」「旗艦船方式」と呼ばれるやり方で、世界の市場における日本企業の競争力を築き上げてきました。「護送船団方式」で競争力のない企業を世界の競争相手から守り、一方「旗艦船方式」では選択したいくつかの大企業や業種を優遇措置で後押しし、世界市場での競争力を高めます。官僚と産業界の関係は、いわゆる「天下り」によって強化されてきました。省庁を退職した官僚たちが企業の重役ポストに就き、企業は彼らを通して影響力を行使する仕組みです。

また、日本の産業界で甚大な影響力を持ってきたのが、「社団法人日本経済団体連合会(経団連)」です。経団連とは、様々な分野の大企業からなる連合体で、重要なポストは強力な企業の間で分担されています。海外で知られている日本企業は自動車や電機、機械などの業界の輸出企業ですが、国内ではいまだに鉄鋼や電力といった古くから日本の産業を支えてきた業界が強い影響力を持っており、政治家や官僚に対しても大きな力を持っています。

このような状況の中で、自民党政権はさまざまなしがらみに動きがとれなっており、「国民よりも産業界を向いて政治をしている」という声もよく聞かれました。麻生前政権のときに、温暖化に関する中期目標として「2005年比15%(1990年比8%)」を掲げることになったのも、「野心的な中期目標を設定すると、日本の産業や経済にマイナスになる」という産業界からの強い声に配慮したことも大きな理由の1つです。

このような状況に対して変革を求める国民の声に応じて誕生した民主党政権は、自民党と違って、これまで経団連とのつながりもしがらみもなく、官僚に対しても「政治主導」を強く打ち出すことで、途中まで進んでいたダムプロジェクトの中止や見直しをするなど、矢継ぎ早に動きを起こしています。

国際的な面でも、これまでの"内向き指向"ではなく、世界を動かすイニシアチブを取り始めています。温暖化問題に対しても、多くの国々や人々をがっかりさせた「2005年比15%(1990年比8%)」という中期目標ではなく、「米国、中国その他主要な国々が同じ土俵で議論ができるような仕掛けを日本がつくっていかないといけない」という問題意識で、全主要排出国が参加する実効性ある国際的な枠組み構築を前提に、「科学の要請に基づいた目標」を高らかに打ち出しています。

9月22日に国連気候変動サミットで演説した鳩山由紀夫首相は、温室効果ガス排出について「2020年までに1990年比で25%削減」を目指すという中期目標を発表しました。そのための具体的な国内政策として、国内排出量取引制度や再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入、地球温暖化対策税の検討を表明するとともに、途上国への資金や省エネ技術の積極的供与を明示した「鳩山イニシアチブ」も提唱しています。

これまで「消極的」「あいまい」と見られてきた日本の環境外交を大きく転換し、地球温暖化防止に向けて積極的に貢献していこうというリーダーシップに、サミットに出席していた首脳や世界の多くから高い評価が寄せられました。

日本国内では、どのように受けとめられているのでしょうか? 読売新聞社が新内閣発足直後に実施した緊急全国世論調査では、「2020年までに25%削減という目標に賛成」は74%でした。また、朝日新聞社が10月11~12日に実施した全国世論調査では、2020年までに25%削減という国際公約を「支持する」が72%、「支持しない」が21%でした。

一方、特に全国の財界で主要ポストを占める鉄鋼、電力、石油などの業界を中心に、産業界からは大きな懸念の声が聞こえてきます。いくつか報道記事などからお伝えしましょう。

神戸商工会議所の水越浩士会頭(神戸製鋼所相談役)は記者会見で、「荒唐無稽もいいところだ」と批判。「国益に反するのは間違いなく、(国内では)生産活動ができなくなる」と発言し、新日鐵会長の三村明夫氏も、「産業の競争力が大きく損なわれ、日本から逃げ出す企業も出るかもしれない」と述べ、日本化学工業協会の米倉弘昌会長(住友化学会長)は、「リーダーシップを発揮するために高い目標を掲げなければならないというのは間違った考え方」と批判しています。

一方、環境技術を持つ企業グループ幹部が「環境も競争条件としてのみ込む世界の潮流を、重厚長大産業は知らない」と指摘する声も引用されており、高い目標を大きなチャンスにすべきだとの認識を明らかにする企業も増えてきています。

京都商工会議所会頭を務める立石義雄オムロン会長(制御機器・電子部品等のメーカー)は、鳩山内閣の中期目標を、「温暖化対策で日本が主導的役割を果たす高い志し」と評価し、「イノベーション(技術革新)を起こすことで実現できる」と述べています。沖電気工業(IT・電機企業)の篠塚勝正会長も講演で、温室効果ガスについて高い目標設定が必要だとして中期目標に理解を示しました。

また、トヨタ自動車の豊田章男社長も「(政府が打ち出した目標に)ブレーキをかけるのではなく、アクセルを踏んでいく」と表明しました。実現に必要な策を「社内で現在、スタディー中」で、"脱石油社会"の到来は避けられず「電気自動車や燃料電池車などの投入を考えざるを得ない」とし、商品化を進めるハイブリッド車だけでなく、あらゆる種類の環境対応車の開発・普及を加速させる方針を強調したとのことです。

京セラ(電子デバイス、通信機器のほか太陽光パネルなどのメーカー)の稲盛和夫名誉会長は「克服して乗り越える勇気が政府、産業界に必要。経済界で、政府目標の負担が重いと言われているが、手をこまぬいては人類滅亡につながる」と述べています。

ダイキン工業(空調総合メーカー)の井上礼之会長は「ビジネスチャンスはある。地球環境がこれだけ悪化しつつある中で、高い目標に挑戦してみるべきであり、そこからイノベーションも生まれる」、シャープ町田勝彦会長も、2020年までという期限については疑問を呈しながらも、「民主党は環境に関心が高く、われわれにとってやりやすい」と語り、国内首位の太陽電池メーカーとして新政権の誕生を歓迎しています。

前政権は、「25%削減なら、官民累計の投資が190兆円、1世帯当たりの負担は年間36万円になるうえ、失業率の増加やエネルギー多消費産業の生産規模縮小(海外移転)が避けられない」と主張してきました。これに対し、民主党政権では「これは、何も対策しない状態がもっとも経済成長率が高い、というモデルだ」と反論し、環境投資や技術革新による経済効果も考慮すべきだとしており、麻生前政権の試算を白紙から見直すことにしました。

10月はじめには、政府が掲げる25%削減という中期目標の達成に向け、国民生活への影響や排出削減の具体的な方法を含めた計画の全体像と具体的な制度設計を、来春までに固める方針が明らかにされました。

民主党の推進する政策は、これから具体的な制度設計に入ります。また、高速道路の無料化など、温暖化対策に逆行するのではないかと批判されている政策もあり、これからどのように内外に対してリーダーシップをとりながら進んでいくのかを見守り、批判すべきことは批判し、正しい方向への動きは応援して加速させていきたいと思っています。

今後も、民主党政権の進める具体的な政策や、環境行政に関わる民主党議員へのインタビューをお届けしていきたいと思っています。お楽しみに!

(枝廣淳子)

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