ニュースレター

2010年02月09日

 

養蜂から広がる街つくり 銀座ミツバチプロジェクト

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JFS ニュースレター No.86 (2009年10月号)


ニューヨークのFifth Avenueと並び称され、高級デパートやブランドショップが立ち並ぶ世界有数の繁華街、銀座。今、この銀座で採れたハチミツが注目を集めています。銀座のミツバチたちは「銀ぱち」と名づけられ、今や銀座の新しいシンボル、マスコットとなってきています。

銀座4丁目交差点から5分ほど歩いたところにあるビルの屋上45メートルの高さにミツバチたちの巣箱が置かれ、そこで養蜂が行われているのです。銀座で採れたものは銀座の技で商品にしようと、採取されたハチミツは銀座の菓子職人さんたちによって美味しいお菓子となって銀座の店頭に置かれ、蜜蝋もキャンドルとなって銀座教会のクリスマスのミサに使われています。


銀座ミツバチプロジェクト誕生

このユニークな取り組みを行っているのは、「NPO法人銀座ミツバチプロジェクト」です。食についてのシンポジウムを開催してきた「銀座食学塾」と、銀座の街の歴史や文化を学んできた「銀座の街研究会」の有志を中心に組織されました。
http://www.gin-pachi.jp/

このプロジェクトは、ミツバチの飼育を通じて、銀座の環境と生態系を感じることを目的としています。緑の少ない都心の銀座ですが、ミツバチと彼らが銀座の街の環境資源から運んでくるハチミツを通じて、サステナブルな社会と環境を考えようというものです。

プロジェクトが動き出したのは2005年の末。当初は人の多い銀座でミツバチを飼うと、人が刺されて危険ではないのかという不安の声も聞かれました。しかし、元来ミツバチはおとなしい虫で、人間がよほど驚かさないかぎり刺すことはありません。プロジェクトのメンバーは巣箱が置かれるビルのテナントの方々に丁寧に説明を行い、2006年3月、ビルの屋上に3つの巣箱が置かれ、ミツバチたちが銀座の空に飛び立ちました。

銀座という大都会で養蜂? こんな都会で蜜は取れるの? と、この話題を聞いた人の多くが耳を疑います。ミツバチが花蜜を取るために飛ぶ距離は3から4キロ四方と言われています。銀座のミツバチがいるビルから2キロ以内に、皇居や日比谷公園、浜離宮などの緑豊かな公園があり、さらに銀座の街路樹なども良い蜜源になっています。ハチミツの採取量は、初年度は160キロ、2年目は290キロ、3年目は440キロと徐々に増えていき、4年目の2009年は700キロを超えました。

ミツバチは大変農薬に弱く、環境指標生物とも言われています。日本国内の多くの農地では農薬が使われ、ミツバチたちが生息しにくい状態になっているところもありますが、大都会銀座ではアレルギーの人が増えているので、出来るだけ農薬は使わないようにしているため、結果的にミツバチが安心して活動できる環境になっています。銀座のミツバチが多くの質の良いハチミツを集めてくることで、銀座周辺には豊かな自然環境があることに気づいたのでした。

また、銀座にミツバチが来たことで、今まで受粉しなかった銀座周辺の桜が実をつけるようになりました。さらにはその実を鳥が食べる様子が見られるようになったのです。小さな昆虫が、銀座周辺の環境を動かし始めたのでした。

銀座でミツバチという意外な組み合わせが話題を呼び、プロジェクトスタート時よりメディアの注目を浴びながら、銀座で採れたハチミツを楽しむ人々は増えていきました。さらには銀座のハチミツだけでなく、周辺の自然環境にまで思いをめぐらせるようになってきました。


銀座で地産地消を「銀座グリーンプロジェクト」

銀座のミツバチの存在が徐々に知られるようになり、当初はハチミツが目的だった銀座の人々も次第に近隣の環境に目を向けるようになり、ミツバチたちが生活しやすい環境を作ろうと、2007年より、蜜源となる緑を増やすためビルの屋上に花壇や菜園を作る「銀座グリーンプロジェクト」が企画され、屋上緑化メーカーの(株)マサキ・エンヴェックの協力を得て、銀座のデパート松屋の屋上にてプロジェクトがスタートしました。

このプロジェクトの目的は単にミツバチの蜜源を作ることのみならず、屋上緑化によるヒートアイランド現象の緩和を目指しています。また、銀座のミツバチが銀座内の蜜源から作ったハチミツを採取すること、銀座のビルの屋上で採れた産物を利用して料理やスイーツなどを作ることで、真の意味での地産池消と、今まで出会うことの無かった人々と顔と顔の見える関係作りも目指しています。

現在、松屋では、社員や取引先などを含めて30名ほどのメンバーが屋上菜園の活動に参加しており、勤務時間外のボランティアで菜園の整備を行っています。松屋広報課の大木さんによると、メンバー以外の社員も野菜の様子が気になっているようで「確実に社内の環境への意識は高まっている」とのこと。また、松屋の屋上は一般にも開放されおり、お客さんから励ましの声を聞く事もあるそうです。今後は、育てた野菜・ハーブを一般のお客さんが楽しめるよう"銀座から発信する地産地消"の実現を目指し、屋上ハーブを使用したスイーツやパンも販売する予定だそうです。

最近では、多くの人々がグリーンプロジェクトに興味を持ち、学生や農林水産省の職員など、さまざまな人々の見学も頻繁になってきています。グリーンプロジェクトは、松屋デパートの他にも結婚式場の銀座ブロッサム、商業施設や画廊などのさまざまな施設に広がっていて、屋上でハーブを栽培して料理に利用したり、酒米の栽培を行っての日本酒作り、果樹栽培でスイーツ作り、栽培した枝豆を銀座のクラブで提供するなど、銀座のさまざまな人々を巻き込みながら、さらなる展開を見せています。


日本ミツバチ

2006年の3月に銀座にやってきたのは西洋ミツバチでした。明治時代に日本に移入された西洋ミツバチは、その蜜を集める能力の高さから日本における養蜂の中心となり、現在も多くの日本国内の養蜂は西洋ミツバチを飼育して行われています。

しかし、日本には固有の在来種、日本ミツバチがいます。西洋ミツバチと比べて、採取できるハチミツの量も少なく、飼育しにくいなど、養蜂を行う上では西洋ミツバチに劣ると思われていましたが、しかし、西洋ミツバチの天敵であるスズメバチと戦う術を持っていたり、病害に強い、暑さ寒さに強いなど、日本の風土に適した性質を持っていることが最近理解されるようになってきました。

銀座ミツバチプロジェクトでは2007年より、街路樹や住宅地などに巣を作り、害虫として駆除されていた日本ミツバチを救出し、飼育することで、在来種の日本ミツバチを守る活動もスタートさせました。


銀座を里山に

日本の首都であった江戸が東京と名を変えてから、レンガ造りの街並みやガス燈などの西洋文化を日本国内でいち早く取り入れ、歴史と文化を守りながら、常に時代を牽引してきた銀座の街。再開発の名の下に東京都内各地で高層ビルの建設が進められるなか、2006年、銀座は中央区と協議を重ね、建築物の高さは56メートルを超えないというルールを条例化しました。

銀座ミツバチプロジェクトの田中副理事長は「私たちが考える銀座の街の未来の姿は、高さを競うのでなく、人間だけでなく、小さな昆虫も共に自然と共生する街の姿なのです。ミツバチと、それを見守る人々のやさしい眼差しが作る緑豊かな都会の里山が、これからの日本のまちづくりの参考になれば幸いです。」と、プロジェクトの目指す銀座を語ってくれました。

ミツバチが飛び交う都会の里山銀座で、「銀座ミツバチプロジェクト」が今後どんな広がりを見せてくれるのか、楽しみです。


(スタッフライター 米田由利子)

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