ニュースレター

2009年10月27日

 

さらなる生物多様性保全に乗り出すリコー ~ 株式会社リコー

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JFS ニュースレター No.82 (2009年6月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第80回
http://www.ricoh.co.jp/

自らに課す「生物多様性方針」

2010年、名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催されます。これもきっかけの一つとなり、多くの日本の企業は、生物多様性保全についての取り組みを始めています。複写機やプリンターなどの事務機器・情報機器を中心に、光学機器やデバイス製品などを取り扱うリコーグループも、生物多様性に積極的に取り組んでいる企業の一つです。

同社はもともと、環境経営に積極的でした。生物多様性保全の取り組みも99年からと早く、その皮切りは、社会貢献活動の一環として開始した森林保全プロジェクトでした。そして、それまでの活動を飛躍させたきっかけが、2008年5月にドイツのボンで発案された「ビジネスと生物多様性に関するイニシアティブ」です。これはCOP9で議長国のドイツ政府が立ち上げたものですが、企業はこのリーダーシップ宣言に署名することで、生物多様性保全に大きな努力を求められます。

同社は、ほかの日本企業9社と共に署名し、これを受け、2009年3月31日には「生物多様性方針」を制定しました。この制定にあたっては、世界自然保護基金(WWF)やコンサベーション・インターナショナル(CI)からも多くの助言を得たと、社会環境本部環境コミュニケーション推進室室長・益子晴光さんは説明します。

では、ここで同社の生物多様性方針を紹介しましょう。

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リコー生物多様性方針

1.(経営の課題)
生物多様性保全を企業存続のための重要課題のひとつと捉え、環境経営に組み込む。

2.(影響の把握と削減)
原材料調達を含む事業活動全体における生物多様性への影響の評価、把握、分析、数値目標化を行い、その影響の継続的な削減に努める。

3.(進め方)
生物多様性と、事業の視点により、影響・効果の高い施策から優先して取り組む。

4.(技術開発の促進)
持続可能な社会の実現を目指して、生物資源を利用する技術開発、生態系の仕組みや生物の成り立ちに学び、その知恵をいかした技術開発・生産プロセス革新を推進する。

5.(地域との連携)
世界に残る貴重な生態系と、事業を行う国・地域の生物多様性を保全する活動を、行政機関のみならず、地域住民、NGOなどステークホルダーとともに持続可能な発展の視点をもって推進する。

6.(全員参加の活動)
経営者の率先した行動と全社的な啓発施策により、すべての社員の生物多様性への理解と認識を高め、自主的な保全活動につなぐ。

7.(環の拡大)
お客様、仕入先様、他の企業、NGO、国際組織などと連携した活動により、生物多様性についての情報・知見・経験を共有し、生物多様性保全活動の環を拡げる。

8.(コミュニケーション)
自らの活動、成果の具体的内容を積極的に開示することにより社会の生物多様性保全活動の気運向上に貢献する。

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1の「経営の課題」として定められたものは、同社の環境についての取り組みの絶対的な基本となっている「環境綱領」にも、2年後の改定時に組み込まれる予定です。

2の「影響の把握と削減」については、「これまで取り組みができていなかったから、方針として入れたもの。この仕組みづくりが最も大変です」と益子さんは語ります。リコーに限らず、今、日本の多くの企業が生物多様性を評価する指標づくりに頭を痛めています。リコーは、毎年、グループ内で生物多様性に寄与する活動を奨励し、定性的なチェックを行っていますが、益子さんはさらに「負の影響を削減するためのアクションプランの目標として数値化を目指します。今年度は、そのためのビジョンづくりです」と語ります。

3の「進め方」についても、新たな仕組みづくりが考えられています。これまでは各事業所には生物多様性への配慮を定めていませんでしたが、これからはそれも求めることにしています。また、用紙の調達にも生物多様性に配慮するなどの身近な取り組みや、さらにこういった意識を高める社員教育にも力を入れていきます。

この方針のもとに、リコーは具体的な行動として新たな一歩を、まさに今踏み出したところです。

生き物と地域住民を守る社会貢献

方針の5から8は、これまでも環境経営の一環として行われてきました。具体的な活動の一つの例として、前述した99年からの森林生態系を保全するプロジェクトを紹介しましょう。これは多様な生態系や地域固有種などの生き物ばかりではなく、住民の生活を守ることにも主眼が置かれたものとなっています。

プロジェクトの実施地域は広範にわたり、各地で地域のグループや国際的なNGOへの支援・協働を通した取り組みを展開しています。国内では、多様な生き物がいる「アファンの森保全」活動(長野県)や、固有種であるヤンバルクイナが生息する地域を保全する「やんばる森林保全」活動(沖縄県)を、海外では、絶滅が危惧されるオランウータンのいるボルネオの熱帯林回復(マレーシア)や寒冷な高山に生息するサル・キンシコウのいる三江併流世界遺産(中国)の森林保全などを支援しています。

森林と密接につながる人々の生活保全活動として特徴的なものの一つが、カカオの主要な産地であるガーナ共和国の活動です。カカオは森林を伐採した跡地に栽培されますが、同じ場所で連作していると収穫量が減ってくるために、ほかの土地へ移動しなくてはいけません。こうして、次々と森林が伐採される状況が出来上がってしまいました。そこでCIは、森林を伐採せずにすむアグロフォレストリーの普及を開始し、リコーはその活動を2002年から支援してきました。木陰で育てられる品種のカカオを森林の周辺に植えます。この農法のおかげで収穫量が最大で以前の8倍も増えた大成功の例として、益子さんは嬉しそうに紹介します。

リコーではほかにも生物多様性保全に関する環境社会貢献として、社員の環境ボランティアなどの「自主活動の推進」や、社会全体の意識向上のためにシンポジウムを開催するといった「環を広げる活動」も行っています。

2050年までに環境負荷を1/8に

同社は将来のビジョンを策定した際、2050年の社会を想定しました。そのころ、世界の人口は90億人に達すると予想され、当然ながら資源や土地利用への制限や、事業への影響が出てきます。そこで、先進国は環境負荷を現在の1/8にする必要があるという結論に達し、これを超長期目標としました。

リコーでは、持続可能な社会を「コメットサークル」と呼ぶ独自の模式図に表しています。
http://www.ricoh.co.jp/ecology/comet/index.html

ここでは製品にかかわるステークホルダーが、循環するシステムの一員となって表されています。この中でいかに資源循環を高めるかということが、これまで環境への取り組みの大きな柱の一つでした。しかし「2050年の社会を考えたときに、それだけでは足りません。製品となる前の段階、原材料の新規投入資源量も減らす方向へ、事業全体の見直しが必要です」(益子さん)。

この環境負荷を測るものさしとして、多種多様な環境への影響を把握し、統合的に評価する「統合環境影響」を指標としています。これは、リコーグループにおける製造工程や輸送、保守といった活動だけではなく、原材料の調達から、顧客の使用時における環境影響までをも見る、積極的なものになっています。

さらに、持続可能な社会実現のためには、環境負荷の低減だけではなく、地球の回復力を維持し高めるために、生物多様性への取り組みが必要と位置づけています。

リコーが生物多様性について熱心に取り組むようになったきっかけは、「熱心な社員の存在だった」と益子さんは明かします。一人の熱意が社を動かし、NGOからも適切なアドバイスを得られるような良好な関係を築けてきたことが、今の姿に大きく貢献しているのです。

これまで、多くの熱心な取り組みをしてきたリコーですが、環境ポータルサイト「Gaiaia(ガイアイア)」を構築するなど、さらなる社内の意識啓発への意欲を見せます。このサイトは主に社員向けですが、外部のステークホルダーもアクセスできるようにつくられています。
http://www.gaiaia.jp/

「まず、リコーの社員は環境への意識を高く持ってもらいます。しかし、リコー社員の活動だけでは限界がありますので、それをさらに社会へ広めていきたいのです」(益子さん)。

(スタッフライター 岸上祐子)

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