ニュースレター

2009年06月16日

 

セラミック技術で、2050年のCO2排出量80%削減を目指す 株式会社 INAX

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JFS ニュースレター No.78 (2009年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第76回
http://www.inax.co.jp/

私たちが毎日使うトイレ、洗面所、バス、キッチンなど、生活に欠かせない水まわり部分の製品。その衛生陶器やタイルなどを製造しているのがINAXです。洗練されたデザインが目を引くばかりでなく、超節水トイレや、空気をきれいにするデザインタイルなど、環境面でも優れた多くの製品を開発しています。

同社は1924年、常滑焼でよく知られる愛知県常滑市に、タイル、テラコッタなどを製造する伊奈製陶として創業しました。同社の礎になったのは、著名な建築家フランク・ロイド・ライトによって設計され、1923年に落成された帝国ホテル旧本館の外壁に使われた装飾タイルでした。常滑市の「INAXライブミュージアム」や、東京・銀座の「INAXギャラリー」などで、その歴史の変遷や、多彩な美しいタイルの展示を見ることができます。

1985年にINAXと社名を改め、文化活動、環境活動、ダイバーシティの推進などにも力を入れてきました。2008年4月には、環境への取り組みを加速させるために組織変革を行いました。新設されたサステナブル・イノベーション部部長の水野治幸さんに、持続可能な社会へ向けての環境経営ビジョンを伺いました。

積み上げ型ではない長期のビジョンを見据えて

「企業経営そのものが環境活動なのです」という水野さんの言葉に象徴されるように、大きな転換期を迎えたのは2008年。事業計画と密接に連携した「第10次環境宣言」の中で、「2050年に1990年比でCO2総排出量を80%削減します」と宣言しています。このような大きな目標を掲げたのは、2010年までの中期経営計画を立てるにあたり、2050年を見据えるという長期ビジョンが必須だと考えたからです。

約40年後も企業が持続可能であるためには、目先のことだけに主眼を置く「積み上げ型」であってはならないわけです。そして、どれだけ革新的な取り組みができるかというトライアル期間として、まずは2010年時点に19.1%のCO2排出削減を目指しています。

2008年6月には、「環境宣言」に基づいた具体的な取り組みと目標が業界トップランナーとしての先進性・独自性があるとして、環境大臣から「エコ・ファースト企業」として認められました。そこで掲げているのは「低炭素社会の構築」「省エネ社会の構築」「循環型社会の構築」「環境マネジメントシステムの進化」「生物多様性維持の活動」という5つの活動です。

「つくる」―― 低炭素社会の実現

同社では、「つくる」「つかう」「もどす」というサイクルで低炭素社会、省エネ社会、循環型社会の実現を考えています。

まず「つくる」場面では、窯業(セラミック)技術を根本から変えること。90年当時、同社が排出するCO2全体の89%が、タイルや衛生陶器などの窯業製品の生産で発生していました。化石燃料での加熱は、窯全体を暖めても、実際の焼き物部分で使われるエネルギーはわずか10%ほどという非効率的なもの。それを、今後は熱の伝達効率を極端に高め、製品部分だけを集中的に加熱できる方式に変えていこうと、現在研究開発が行われています。

そして、2050年に80%削減を達成するためには、このような高効率炉導入で33%、自然エネルギー導入で47%を実現する必要があるとシミュレーションしています。

「つかう」―― 省エネ社会の実現

日本全体のCO2総排出量は、京都議定書で約束した1990年比6%排出削減には遠く及ばず、今も増加し続けています。産業部門からの排出量は減少傾向にあるものの、一般家庭からは増え続けているというのが現状です。私たち消費者が「つかう」という立場で、省エネ商品などを賢く選んでいかなければなりません。

同社が2006年に発売した超節水「ECO6」トイレは、1回の洗浄量を6リットルとし、13リットルも必要だった従来のトイレと比べて、約60%の節水を実現しました。このようなトイレやユニットバスなど同社のエコ推奨商品の売り上げ比率は、2007年度末時点で、全商品の86.8%に達しています。

しかし家庭では、実際にどのくらいCO2排出量の削減になっているのか分からないという問題がありました。そこで2009年の春からは、カタログやホームページなどで「暮らし、マイナスCO2」というキャンペーンとともに、具体的なCO2排出削減量の目安を表示します。この数値は、1990年ごろに一般的だった製品と最新のINAX製品のCO2排出量を比較したもので、例えば2009年4月に発売される洗浄水量5リットルを実現する最新のシャワートイレは「-127kg/年」、サーモバスライトと高級スプレーシャワー搭載のシステムバスは「-134kg/年」などと表示されます。

「もどす」―― 循環型社会の実現

住宅リフォームなどで発生した使用済み廃材を回収して、分別再資源化するINAX直営の施設「INAXエコセンター常滑」が、2007年5月に開設しました。住宅設備機器類は、あらゆる複合物のため、通常は再資源化が難しいとされ、埋め立て処分されることも多いのです。しかしこの施設は、これまでの製造場面で培ったノウハウを生かして、職人による分解、分別の手作業を徹底して行い、最大限のリサイクルに取り組んでいます。今後は、三重県や茨城県でも同じ仕組みを展開していく予定です。

基盤となる環境コミュニケーション

同社は社会との環境コミュニケーションとして、子どもたちを対象として「土と水」をテーマにした環境教育を国内外で行っています。同社社員が子どもたちの柔軟な発想から学ぶという側面も大きく、いわば双方向からの環境教育といえるでしょう。

国内では山間部の小学校での授業や、INAXショールームなどでワークショップが行われました。2007年4月からは、国際NGOと協働し、ベトナムで水に関する環境教育活動を年に2回行っています。オリジナルの教材を作って、同社社員が現地へ出向き、小学校で水の循環について話をします。子どもたちは、そこから自然に水の大切さや役割を学んでいます。

また、2008年6月より三重県や愛知県の行政と連携して、同社の社員とその家族が森林保全活動のボランティアに参加しています。どの回も60から100人ほども集まる大盛況。大人も子どもも、間伐などの作業を通して、実際に木に触れることで、生物多様性の現場を体感できるのです。

「こうした活動は、一見すると企業経営や事業計画に関係のないことのように思われるかもしれませんが、実はイノベーションを引き起こす原動力として必要不可欠なものです。理詰めによる技術革新ではなく、社会の現実から体得する意識改革が、じんわりと事業活動に反映されてくるのでは」と、水野さんはその環境コミュニケーションの大切さについて強調します。

環境宣言のトップに掲げた「2050年にCO2排出量を80%削減」という目標については、「CO2排出だけが環境問題ではないことは承知の上で、これは環境宣言全体を象徴する記述なのです」と補足しています。「2050年のあるべき姿を具体的な数値目標にする。遠い将来のことのように感じますが、ちょうど今の新入社員が定年になるころです。そのころにも持続可能な企業であり続けようと、新入社員研修で話しました」。

暮らしも企業経営も、もはや環境抜きには考えられない時代。長期ビジョンへと進んでいくINAXの新たな挑戦は既にスタートし、本格的なイノベーション(革新)が始まりつつあります。

(スタッフライター 大野多恵子)

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