ニュースレター

2009年05月19日

 

「グリーンIT」をめぐる日本の動向

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JFS ニュースレター No.77 (2009年1月号)

「グリーンIT」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか? 米国の環境保護庁が最初に使ったと言われていますが、従来は「IT機器に含まれる有害物質を減らす、使用済みIT機器をリサイクルする」などの取り組みを指していました。

最近、この「グリーンIT」という言葉や広告を、毎日のように新聞などで見聞きするようになりました。このテーマのシンポジウムが開催されたり、書籍もいくつも出ています。その理由は、地球温暖化問題です。

近年ITの利用が非常に増えているので、IT関連から排出される二酸化炭素(CO2)が非常に増えています。特に大きなエネルギーを使ってCO2をたくさん出しているのは、データセンターです。こういったIT関連のCO2排出量がどんどんと増えていることは、温暖化を加速させる困った問題だという認識が広がりつつあります。

同時に、「ITは社会のCO2を減らせる」という側面もあります。たとえば、ITの力を借りてテレビ会議やテレワーク、ペーパーレス化を行えば、その分、人の移動や紙の使用などから排出されるCO2を減らすことができます。

つまり、「グリーンIT」といったときには、2つの面があるのです。ITは便利ですし、これからもおそらくどんどん利用が増えていくでしょう。では、「ITを利用することから出るCO2を減らすにはどうしたらいいか?」――これを「ITのグリーン化」と呼びます。それに対して、「ITを活用して社会のCO2をどうやって減らせるか?」――これを「ITによるグリーン化」と呼ぶことができます。

実際、IT機器の使用に伴う電力消費量は急増しています。経済産業省の資料(2008)によると、このままIT利用がどんどん現在の伸び率で増えていくと、2025年には、2006年の5.2倍もの電力を消費するようになり、日本の総発電量の5分の1はIT用になってしまいます。世界全体でいえば、2025年には2006年の9.4倍の電力を消費するようになり、世界の総発電量の15%をIT機器が使うことになると予測されています。

JFS/green IT
日本・世界におけるITの電力消費予測:出典 経済産業省

http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80520c03j.pdf

一方、同じ資料の中では、グリーンITを推進することによって、「ITによる社会の省エネ」量がIT機器のエネルギー消費量を上回り、ネットで社会全体の省エネに役立つともしています。ITを使うことによって、家電、産業用機器、輸送機器等さまざまな機械の省エネができ、オフィスビルや住宅でも自動点灯・消灯、暖房温度の自動調整などができます。ITの力を借りて、燃費の良いエコドライブができ、高度道路交通システム(ITS)によって渋滞を回避できるようになります。経済産業省では、2025年時点でのグリーンITによる削減効果は、日本の全エネルギー消費量の約10%、世界では約15%と見積もっており、「グリーンITを国際的に推進していくことが重要」としています。

加えて、IT機器自体の省エネ化をはかることが重要です。日本政府では、2025年までにIT機器による消費電力を40%(日本の全エネルギー消費量の約2%)削減することをめざしています。日本のこれまでのグリーンITに関連する動きを振り返ってみましょう。

最初の動きは、米国が立ち上げた国際エネルギースタープログラムに1995年に参加したことだと考えられます。そして、2001年に、パソコンメーカーの団体である社団法人電子情報技術産業協会による「PCグリーンラベル制度」という取り組みが始まりました。これは業界団体が基準を作り、適合しているPCにはグリーンラベルを貼ることができるというもので、日本独自の業界団体による自主的な取り組みです。

PCグリーンラベル制度の基準は、以下の4つです。
1.「環境配慮型パソコン」を設計・製造できるように企業体制面での整備がなされていること
2.適切な情報提供ができる体制がとれていること
3.環境に配慮した設計・製造がなされていること
4.3R(リデュース・リユース・リサイクル)に配慮した設計・製造がなされていること

2006年3月には、情報通信技術(ICT)の環境効率評価ガイドラインが策定されました。それまで統一化された客観的基準がなかったため、各企業ではバラバラに効果を提示していたのですが、ITシステムの導入が温暖化防止にどの程度有効かを定量的に示す手法を開発し、基準の統一化を進めるものとなりました。
http://www.jemai.or.jp/japanese/eco-efficiency/pdf/guideline.pdf

2007年12月には、経済産業省とIT関連分野の業界5団体などが「グリーンITイニシアティブ」を立ち上げました。環境負荷の低減に貢献する電子・情報技術の開発や普及を推進することを通して、「グリーンITを利用して環境保護と経済成長を両立させる」ことをめざしています。「産学官の連携強化」「政府のイニシアティブ」「国際的リーダーシップ」という3つの柱のもと、「ITによる省エネ」と「ITの省エネ」を推進しています。

2008年1月には、この3本の柱のひとつの「産学官の連携強化」として、「グリーンIT推進協議会」が設立されました。産官学のパートナーシップによる非営利団体で、参加企業は2008年5月現在で170社に及んでいます。ITベンダーや研究機関、大学が連携する場を作り、(1)省エネなどの効果が高い技術のロードマップ作成、(2)IT活用による環境負荷低減の長期予測・評価、(3)新技術の社会への導入や啓蒙普及、(4)国際連携や情報発信による国際的リーダーシップの発揮、などの活動を行っています。
http://www.greenit-pc.jp/

また、「政府のイニシアティブ」としては、経済産業省がIT機器の省エネ化や、ITシステム全体を省エネ化する新技術の開発を進めています。2008年度から、新エネルギーおよび省エネルギー技術などの開発をおこなう経済産業省所管の独立行政法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、初年度予算30億円で始めた革新技術開発「グリーンITプロジェクト」です。データセンター(サーバ、ストレージ)の消費電力を30%以上削減し、ネットワーク部分(ルータ)で30%の省エネ化をし、さらにディスプレイの消費電力を半分以下に減らすことを目指しています。

こういった動きを受け、また、顧客企業の温暖化対策や意識の高まりに応ずるべく、IT企業は「グリーンIT」製品の開発や、顧客への「グリーンITソリューション」の提供にしのぎを削っています。ですから、新聞に「グリーンIT」の記事や広告がよく出ているのです。

各社ともIT機器の省エネ化を競い合っていますが、これは消費電力を減らすという「エネルギーの量」に関わる取り組みです。CO2を減らすには、エネルギーの量を減らす取り組みの他に、「エネルギー源を替える」(化石燃料→自然エネルギー)取り組みも重要です。

この点でも、興味深い動きが出てきました。たとえば、2008年6月に発足した「北海道グリーンエナジーデータセンター研究会」です。富士通やリコー、室蘭工大など十企業・団体に、北海道と北海道総合通信局もオブザーバーとして加わっています。ITの普及で急増するデータセンターを冷涼な北海道内に置くことで、電力消費量の大幅削減を目指します。

一般的なデータセンターの電力消費量の44%は、コンピュータ・サーバを冷やす空調用だそうです。同研究会では、IT機器を冷却するために冬の低温と夏は雪氷冷房を活用し、夏は冬季に蓄積した雪や氷を冷房用に使うことで電力消費を軽減しようと考えています。冬はデータセンターの排熱を活用した温水供給なども検討します。数万台のサーバを収容する大規模なデータセンターの場合、冷却用の電力消費を半分以下に減らせるとみているそうです。

社会や暮らしのあらゆるところで、ITの利用は今後ますます増えていくことでしょう。ITが大量のエネルギーを消費し、大量のCO2を排出するのではなく、逆に社会全体のエネルギー消費量やCO2排出量を減らすために役立つよう、「ITのグリーン化」と「ITによるグリーン化」を進められるかどうか――エネルギー問題や温暖化問題にとって、目の離せない分野の1つです。

(枝廣淳子)

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