ニュースレター

2009年01月26日

 

エネルギーのロスを減らすベアリングで環境に貢献する - NTN株式会社

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JFS ニュースレター No.73 (2008年9月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第73回
http://www.ntn.co.jp/japan/

私たちを取り巻くさまざまな機械や装置の中で、その回転運動を支え、摩擦を少なくするために欠かせない部品があります。ベアリングです。外側の大きな「外輪」と内側の小さな「内輪」、その間に挟まれた玉などの「転動体」、玉同士がぶつからないようにする「保持器」という、4種の部品からなるベアリングの構造はとてもシンプルです。シンプルながらも、わずかな凹凸もないほどに滑らかに仕上げられたベアリングのおかげで、機械の回転部分の摩擦を減らし、エネルギーの無駄遣いを減らすことができます。

ベアリングの原点は、古代エジプトにまで遡ります。何本もの丸太を下に敷いて、ロープをつけて重い石を引っぱっている壁画が当時描かれていましたが、これはまさにベアリングの原理を示したものです。現在のベアリングの基本的な構造は、およそ500年も前に、レオナルド・ダ・ヴィンチがすでに考案していたといいます。その後、機械の発達とともにその形は進化し、19世紀後半に登場した自動車に採用されたことで、一気に進歩を遂げました。今ではどんな機械にも欠かせない部品として、見えないところで私たちの生活を支えています。

大阪に本社を構える株式会社NTNは、ベアリングメーカーとして1918年に創業。以来、基礎研究を続ける一方で、その成果やノウハウを活かし、ベアリングをはじめとした精密機器の総合メーカーへと成長してきました。

同社の売上高の6割以上を占めるベアリングは、自動車のエンジンやトランスミッション、鉄道車両、パソコンなどのハードディスク、風力発電機、建設現場を支える産業機械など、幅広い事業領域に活用されています。NTNは、省エネルギーを実現するエコ商品である、精度の高いベアリングを通して、地球環境に貢献しています。

自然エネルギーへの貢献

地球温暖化防止に向けて、風力発電をはじめとした自然エネルギーへの需要は今や高まるばかり。なかでも風力発電は、風力エネルギーの最大でおよそ4割を電気エネルギーに変換できる、比較的効率の高いシステムです。日本でも、2007年度末の総設備容量は167万kWを超え、総設置基数は1,409基と増加傾向を示しています。「地球環境との共生」を経営の最重要事項ととらえ、環境対応型製品の開発に積極的に取り組む同社でも、環境負荷削減に向けて、風力発電への貢献に力を入れています。

ベアリングは、風力発電機のさまざまな部分で活躍しています。まず風を受け止めるブレードの回転を受ける部分や、ブレードの付け根にあり、発電機などの主要装置が収められたナセルと呼ばれる部屋の角度を風向にあわせて変える駆動装置、さらにナセル内の発電機本体にもNTNで開発・製造されたベアリングが使われています。

海岸沿いや高原など、風力発電機は人里離れた地域に立てられることが多いため、できるだけメンテナンスの手間が省けるよう、長期間にわたり安定的に稼動できることが求められます。また、発電機の高出力化や大型化に伴い、より大きな負荷に耐えられる超大型で耐久性、信頼性の高い丈夫なベアリングへのニーズが高まってきました。

環境管理部長の中西清氏は、「風力をいかに効率よくエネルギーに変えるかを担っているのがベアリング。需要の増加やニーズの多様化に積極的に応えていきたい」と、意欲を見せています。

医療分野の新たな課題への挑戦

ベアリングが貢献するのは環境分野だけにとどまりません。医療機器の大手メーカーのテルモと京都大学とともに、心臓のポンプ機能が低下し、十分な血液を全身に送れなくなった患者さんの補助心臓として、NTNの技術を生かした、小型で体内に埋め込み可能なポンプを開発しました。

この開発の難しさは、血液を全身に送る羽根車を支える部分が、通常のベアリングのような輪っかと玉という構造では、血流の妨げになったり、摩擦によって赤血球の細胞を破壊する恐れがあるという点にありました。そこで電磁力で羽根車を宙に浮かせる非接触の技術を開発。3者共同でさまざまな試作品製作と動作実験を重ねました。2004年からはドイツで臨床試験が開始され、2007年には欧州市場向けに実用化。今後、日本や米国でも臨床実験が行われる予定です。

CSR部長の才木隆稔氏は、「機械を体内に入れるということで当初は抵抗もありましたが、さまざまな失敗も重ねてここまで来ました。心臓以外の医療機器にも貢献していければ」と今後の抱負を語ります。

業界全体のゼロエミッションをめざして

NTNではゼロエミッションにも積極的に取り組んでいます。さまざまな機械の摩擦を少なくするベアリングは、仕上げの工程で、砥石で表面を削り取り、鏡のように滑らかにする高精度な加工技術が求められます。その際、削り取られた鉄粉は研削液と混ざって汚泥となるため、以前は産業廃棄物としてお金を出して処分していました。

それを何とか有効活用できないかと開発されたのが「研削スラッジ固形化装置」です。これはベアリングの製造工程で発生する、研削粉と研削液からなる研削スラッジ(汚泥)を金属と液体に分離する装置で、アイスホッケーのパックほどの大きさに固形化した金属は、製鋼原料として再資源化。搾り出した液体は、研削ラインで再利用できるようになりました。2002年の開発以来、同社グループ内に順次導入し、2001年には最終処分の廃棄物が年間5,465トン、リサイクル率が87%だったのに対し、2007年度の最終処分量は923トン、リサイクル率は98.5%と、ゼロエミッションの推進に大きな役割を果たしました。同時に、コスト削減にも寄与しています。

さらにこの装置は、競合他社を含めた社外へも販売し、機械部品メーカーや自動車メーカーなど、すでに多くの製造現場に導入され、業界全体のゼロエミッションにも貢献しています。

サプライチェーンからグローバルまで

こうしたゼロエミッション以外にも、グリーン調達などの環境経営にもNTNは熱心に取り組んでいます。ただし、サプライチェーン全体でのマネジメントには、部品などを納入する協力会社と一緒に取り組む必要があります。そこで、主要な協力会社に対し、ISO14001をはじめとする環境マネジメントシステムの認証を2010年までに取得するよう薦めています。

とはいえ、協力会社の中には、小規模な家族経営的な事業者も少なくありません。そうした場合は、簡易版の「エコステージ」や、さらに簡略化した「エコステージ入門編」を紹介し推進しています。エコステージ入門編は、同社が独自にエコステージ協会に企画提案し、2004年にトライアル認証レベルとして採用された環境マネジメントシステムで、エコステージでも敷居が高いと感じる事業者向けに開発されました。マンパワーや費用の面から取り組みが難しい事業者には、個別に訪問し、現場に応じた支援を行いながら取得を進めています。

「サプライチェーン全体での取り組みは他社もやっているでしょうが、現場に応じて細かいところまでサポートするのが私たちのやり方。手間がかかるのは確かですが、小規模な協力会社にまで環境経営の裾野を広げるのが大切」と、中西氏は言います。

サプライチェーン全体のモチベーションを高めるために、認証取得に積極的に取り組んだり、顕著な成果を上げた協力会社を表彰する「NTN環境大賞」を設けるなどの工夫もしています。これまで主要な協力会社281社のうち86%が取得を完了し、サプライチェーン全体での環境負荷低減に取り組んでいます。

今後の課題の一つは、ベアリング産業の環境貢献をグローバルに広めていくことです。ベアリングそのものが、いかに環境に貢献するエコ商品かということが、世の中にまだ伝わっていないのです。そこで同社では、今年5月に世界ベアリング協会(WBA)が発行したBearing is Ecological.という小冊子の制作・発行にも協力しました。WBAは、NTNも所属する社団法人日本ベアリング工業会と、米国ベアリング製造業者協会、欧州ベアリング製造業者協会連合会によって2006年9月に設立され、環境問題など世界共有の課題に取り組むことを目的として結成されました。

Bearing is Ecological.(PDF)
http://www.jbia.or.jp/nbi/bearing-japanesehomepage.pdf

「この冊子は、環境問題に取り組もうと日米欧三極が集まった最初の成果。ぜひグローバルにベアリング産業を理解してもらえれば」(中西氏)と、NTNでは足元のローカルなサプライチェーンから業界全体のグローバルな展開までを見据えています。


(スタッフライター 小島和子)

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