ニュースレター

2008年12月17日

 

ESDの視点でつながる社会

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JFS ニュースレター No.72 (2008年8月号)
http://www.esd-j.org/

持続可能な社会のための「人」づくり

世界中の人々が、そして将来の世代の人々が安心して暮らせる社会にするためには、環境、社会、経済をバランスよく保った「暮らし方」や「社会のしくみ」に変えていくことが必要です。その基盤となる価値観や力を育むためには「教育」が重要な役割を果たすと考えられることから、未来をつくる教育・ESD(Education for Sustainable Development)を推進する国連のキャンペーンが2005年から始まりました。ESDは、社会の課題と身近な暮らしを結びつけ、今の社会を作っている価値観を問い直し、持続可能な社会づくりに向けた行動を生み出すことを目指すものです。

2002年9月、南アフリカのヨハネスブルグにおける「持続可能な開発サミット」で、日本のNGOと政府は、ESDの10年「国連 持続可能な開発のための教育の10年」を提案し、12月の国連総会で決議されました。

提案者であったNGOメンバーが中心となり、2003年にESD-J(持続可能な開発のための教育の10年 推進会議)が発足。「政策提言」「地域でのESD活動支援、ネットワークづくり」「ESDに関する国際ネットワークの構築」「各種メディアによる情報発信」「ESDの研修及び普及啓発」を5つの柱として活動を展開しています。
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027354.html

しかしながら、当時は、持続可能な開発のための教育が目指すビジョンや育むべき知識・価値観・行動とはどのようなものか、またESDは何をどう学び、どう教えていくのかについての概念は示されたものの、具体的な活動のイメージはなかなか共有されていない状態でした。そこでESD-Jは、実践事例を広範に提供することが有効であると考え、ESD地域ミーティングやワークショップの開催に力を入れることにしました。

地域ネットワークプロジェクト

地域には、地域が抱える現実的な課題をテーマとした学習活動が、すでに数多く存在しています。ESD-Jは、その学習を構築してきたプロセスに注目し、学習や活動をつなげ、促進するものはなにかを抽出することで普遍的な方法が見出されるのではないかと考え、「既存の学習にESDを溶け込ませるプロセスの抽出」を行うワークショップに取り組んでいます。ここでは、2つの事例を紹介しましょう。

【岡山市京山地区ESD環境プロジェクト(Okayama Kyoyama ESD Environment Project=岡山KEEP)でのワークショップ】
http://www.eac-w.com/UNESCO/pages/topics/ESDJ/ESDJ-outline.html

・環境学習からESDへ

岡山市京山地区では、ヨハネスブルグ・サミットに代表が参加したことを契機に、京山公民館を拠点として、地域でESDに率先して取り組むことにしました。2003年、リーディングプロジェクトとして、これまでの「川と共に生きる暮らしと文化」をテーマにした身近な水辺を対象にした環境体験・学習活動をESDの視点からとらえなおした「子どもの水辺てんけんプロジェクト」を行い、2004年以降は岡山KEEPとしてESDを意識化した教育活動に発展させています。
http://www.eac-w.com/UNESCO/

岡山KEEPでは、かつて家のそばを当たり前に流れ、ホタルが飛び交い、水遊びができた水辺を今の暮らしの中に取り戻したいと、中学生をリーダーとして特に子どもの視点を重視しながら全世代合同・学社連携で自分たちの身近な水辺や緑を点検し、調査し、地域が持っている魅力や特性、持続性を損ねている課題などを把握して共有し、子どもから大人まで多世代・多分野の人たちが一緒になって議論し、専門家のサポートなども得ながら、包括的に解決方法を探っています。

例えば、「町中の水路にある空き缶は撤去すべきかどうか」という議論では、子どもの中から「空き缶は小魚などの大切なすみかとなっているから残してあげるべきだ」という意見も出ましたが、最終的には「空き缶をすみかにしないといけない水路の構造を変えるべきだ」という構造改善に向けた提言にまとまり、京山ESD「緑と水の道」プロジェクトなどでの具現化(持続可能な開発)へつながっています。

・「プロセス抽出ワークショップ」

2007年9月24日、ESD-Jと岡山市京山地区ESD推進協議会は「プロセス抽出ワークショップ」を実施しました。地域全体でESDに取り組んでいる岡山市京山地区が、環境を切り口に地域の実状に合わせたESDの活動へと発展したプロセスに焦点をあて、ESDプログラムをコミュニティが創出したイノベーションは何であったのかを探るのと同時に、ESDを意識化し、今後の学習の課題を明確化することが目的です。

プロセス抽出ワークショップでは、ESDに取り組む以前と以後の活動を振り返り、タイムラインを作成するという共有作業が行われました。さらに、今後取り組みたい課題をカードに書きだし、人材育成・後継者問題など今抱えている課題や気になっていたことを明らかにしました。また、活動を持続可能にするには、ジュニアリーダーの養成やPTA組織の参加を促すことが必要であるなど、解決に向けての意見交換が行われました。

ESD-Jの地域ネットワークプロジェクト・リーダーの森 良氏は、同ワークショップの結果を分析し、(1)コミュニティ組織や多様な住民が、既存の地域の環境調査、社会調査などを行い、社会の課題や原因、矛盾などを掘り下げること、(2)持続可能な開発(社会)のための基準を自分たちで明確にすることの2点が、ESDのイノベーションを生み出し、社会の一員としての認識や行動力を育むことにつながると述べています。

【NGOと教員でESD多文化教育教材を共同開発 ~チョコレートから世界が見える~ヒューライツ大阪と大阪府立人権教育研究会の取り組み】
http://www.hurights.or.jp/index_j.html

ESDの視点から見れば、環境、開発、人権、平和などのグローバルな課題は、すべて私たちの足元に具体的に存在することに気づき、身近なことを世界の問題につなげることができます。ヒューライツ大阪と大阪府立学校人権教育研究会は2007年8月17、18日、ESD&多文化教育教材づくり共同セミナーを開催し、「チョコレート&カカオを題材にした参加型のESD教材」を開発しました。このプロジェクトは、4年間にわたり人権をベースにしたESD多文化教育教材の開発を試みているものです。
http://www.hurights.or.jp/event/rpt07/e17.html

・ワークショップで教材づくり

「チョコレートから世界が見える」の教材は、チョコレートという身近だが学習教材としてはあまり開発されていない素材を取り上げ、原産地、生産者、流通、加工、販売、消費を探ることで、途上国とのつながりに気づき、社会との関係性や自然との関係性を体験的に自ら学ぶことを目指しています。

同教材づくりは2007年5月、高校の教員、NGO職員や民間企業に勤務する人などによるプロジェクトメンバーで資料収集・製菓メーカーやフェアトレードショップへの現地取材などの準備を行い、その後、3回にわたる教材づくりワークショップによって、改良が重ねられて完成しました。

第1回のワークショップでは、1部で「パーム油を取り巻く課題」のワークショップにより、課題と解決策を考えるための手法、それぞれの主張を調整していくロールプレイによるプロセス体験により、問題解決に向けた合意形式の手法を学びました。

2部では、「チョコレートから見える世界」と題したカカオ豆にまつわる諸課題、ガーナのカカオ農園で働く子どもたちの現状を知り、児童労働の問題への気づきを行いました。次に、参加者から出された「経済」「消費者・健康・生産者」「プランテーション」の3つのキーワードによりグループに分かれ、教材作りに着手しました。その後、プロジェクト会議で議論を重ね、2時間バージョンのワークショップ教材「チョコレートから世界が見える」が完成されました。

2008年2月2日、大阪市で同教材の参加型のワークショップが行われ、より正確な情報を伝えることが、グローバルな問題に気づき、自ら考え、行動を起こすきっかけとして大きな役割を果たしていくことが実感されました。今回開発された教材はさらに改良され、完全版「チョコレートから世界が見える-環境・開発・人権をつなぐESD教材」として刊行され、高校を中心に活用されています。

目に見える形でのESDへ向けて

その他、ESD-Jは政策提言プロジェクトとして、政府のESD推進体制の強化や学習指導要領へのESDの反映を働きかける政策提言アクションを行っています。2008年3月の同要領改訂では、中学校の理科と社会の学習内容に「持続可能な社会をつくる」という視点が明記されたものの、教育全体の目標である総則には、残念ながら盛り込むことができませんでした。また、国際ネットワークプロジェクトとして、AGEPP(Asia Good ESD Practice Project:アジアESD推進事業)に取り組み、アジア7カ国の事例を7カ国語で共有するウェブサイトを構築中、国際的なESDの実践の交流を行っています。
http://www.agepp.net/top.php?lang=ja

ESD-Jは、ESDの10年の中間年に向けて、「ESDの具体的な姿」や「ESDを推進するしくみ」について理論化し、政策化し、提言する目に見える形での展開により、ESDの広まりをより加速したいと考えています。

参考:「個をつなぎ、アジアをつないで 未来をつくる―「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議・ESD-J―」JFSニュースレター2006年8月号
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027354.html

(スタッフライター 湯川英子)

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