ニュースレター

2009年03月09日

 

日本の市民共同発電所の動き

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.75 (2008年11月号)

JFS/Hamakaze-chan
市民風車「はまかぜ」ちゃん:Copyright NPO法人北海道グリーンファンド


はじめに

日本における年間発電量はおよそ1兆kWh(2006年度)で、電源別発電量は原子力(30%)、石油(10%)、石炭(24%)、天然ガス(26%)、水力(9%)、新エネルギー(1%)となっており、原子力と化石燃料の比率が圧倒的に高く、再生可能エネルギーの比率は1割です。日本政府は独自の「新エネルギー」というカテゴリーを設けており、この中にはゴミ発電や燃料電池も入ります。再生可能エネルギーとしては、太陽光発電、風力発電、中小水力発電(水路式の1000kW以下の水力発電)、地熱発電およびバイオマス発電が入ります。

国は、エネルギー・セキュリティの確保と、地球温暖化問題への対応のため、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」を1997年6月に施行しました。この法律に基づき、国が基本方針を策定することにより、新エネルギー利用の促進に向けた基本的な取り組み体制を明確化しています。そして新エネルギーの一次エネルギーに占める割合を、1999年度の約1%から2010年度までに約3%にする導入目標を設定しました。

日本の電力供給を担う電気事業者に課せられた役割は、3%の3分の1に当たる約1%の拡大です。この目標の達成に向けては発電分野における導入段階の支援が必要とのことから、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が2002年6月に公布されました。電気事業者が法律に基づき、新エネルギーの義務を果たすには、自ら発電することに加え、他から新エネルギー電気を購入することも含まれます。
http://www.japanfs.org/ja/pages/024671.html

現状の新エネルギーの導入率は発電量全体の1%台で、諸外国に比べて圧倒的に低いものです。RPS法の目標値も「2014年までに全発電量の1.63%」でしかなく、大きく再生可能エネルギーを広げる原動力にはなっていません。

こうした中で、地域に存在する自然エネルギーを地域の人たちの手で電気に変えようという、市民が自然エネルギーを促進する仕組みづくりが始まりました。そのひとつの取り組みとして、市民共同発電所建設の動きが各地で生まれています。建設資金は、市民からの拠出と国やグリーン電力基金からの補助金で賄っています。幾つかの例をご紹介しましょう。

市民風車

2008年1月現在、日本では11基の市民風車が稼働しています。最初の市民風車は北海道浜頓別町で2001年9月に運転開始した愛称「はまかぜ」ちゃん(定格出力990kW)です。その後、この運動の輪が広がり、北海道はもとより青森、秋田、千葉、茨城の各県で次々と誕生し、11基の合計出力は1万5790kWに達しています。年間約4千万kWhの発電量は1万700世帯分に相当し、CO2削減効果は約2万4千トンと算定されています。

「はまかぜ」ちゃん建設の中心になったのは、NPO法人の「北海道グリーンファンド」で、1999年からグリーン電気料金制度に取り組み成果を挙げました。同制度は、会員が月々の電気料金に5%のグリーンファンド分を加えた額を支払い、グリーンファンド分を自然エネルギーによる「市民共同発電所」の建設基金として積み立て運用するというものです。

「はまかぜ」ちゃんの総事業費は約2億円で、その約8割は寄付ではなく、市民による出資で賄われました。同ファンドではこの仕組みを発展させ、全国の市民が参加できるファンドとして「株式会社自然エネルギー市民ファンド」を2003年2月に設立しました。
http://www.japanfs.org/ja/pages/023809.html
http://www.japanfs.org/ja/pages/022915.html

同社に全額出資する中間法人「自然エネルギー市民基金」の設立には、「北海道グリーンファンド」とエネルギー政策の研究・提言を行う「環境エネルギー政策研究所(ISEP)」の2つのNPO法人が関わり、理事には各地域での市民出資による自然エネルギー事業の代表が加わって、全国ネットワークを築くとともに市民出資金の運用の監視を行う体制を構築しています。
http://www.greenfund.jp/company/c_top.html

2008年1月に北海道石狩市で運転開始した最新の市民風車かなみちゃん(1650kW)の場合、一口50万円で470口、2億3500万円を募集しました。総事業費は4億1700万円で、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)より2007年度地域新エネルギー導入促進事業補助金を得て完成しました。

おひさまファンド

太陽の光、熱、風、森林の恵みなど、地域にある資源を活用して、温暖化防止と持続可能な地域社会の実現を目指す「おひさま進歩エネルギー株式会社」は、NPO法人の南信州おひさま進歩が母体となり環境エネルギー政策研究所が協力して、2004年12月に長野県飯田市に設立されました。
http://www.ohisama-energy.co.jp/

同社は南信州おひさまファンドを募集し、2005年5月に460名から満額の2億150万円の出資を得て、飯田市内の幼稚園・公民館などの38の施設に発電容量合計208kWの太陽光パネルを設置するとともに、公共・民間施設の省エネルギー事業を行いました。総事業費の3億6000万円は、出資金と環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」助成金1億6000万円で賄いました。2007年6月には当初計画した通りの利回りの配当を行っています。

このファンドの特徴のひとつとして、申し込み単位が一口10万円と50万円になっていることで、10万円から参加できることです。2007年11月から新たに「おひさまエネルギーファンド株式会社」を設立し、対象地域を拡大した「温暖化防止おひさまファンド」を2008年12月末まで4億6200万円を募集中ですが、11月7日現在で出資額合計が3億3780万円に達したと発表しています。
http://www.japanfs.org/ja/pages/024729.html

出資金は、長野県と岡山県県内で、合計するとサッカーコート1面分になる太陽光発電(約1108kW)を合計110カ所に導入するほか、省エネルギー事業など、事業費総額が17億3000万円の事業に投資を予定しているとのことです。

川崎市の市民共同おひさま発電所

JFS/Kawasaki solar system
川崎市の太陽光発電システム
Copyright NPO法人 アクト川崎

個人で太陽光発電システムを設置したいと思っても、費用や場所の関係でできない場合があります。そこで、みんなが一緒に使う建物に、地域住民が協働で共同発電所を作ろうという発想が生まれた例です。ここを拠点に、みんなで地球温暖化問題やライフスタイルなどについて学びあうこともできます。

市民共同おひさま発電所は、2008年8月、川崎市国際交流センターに設置された出力6.25kWの太陽光発電施設です。2007年11月にかわさき地球温暖化対策推進協議会、NPOアクト川崎、地元商店街などが中心となって立ち上げた「市民共同発電所プロジェクト」が市民、事業者から一口千円で集めた寄付金とグリーン電力基金からの補助金および自然エネルギーをはじめ、環境に関するさまざまなプロジェクトに融資を行う非営利組織であるap bankからのつなぎ融資によって、川崎市の助成によらず、市民自らの手によって設置されました。事業費850万円は、寄付金150万円、グリーン電力基金助成金700万円で賄われました。
http://www.cckawasaki.jp/report/ohisama2008
http://www.japanfs.org/ja/pages/023431.html

JFS/Countdown to start
点灯式カウントダウンの様子
Copyright NPO法人 アクト川崎

8月24日の完成記念式典では、「点灯式カウントダウン」をはじめ、「なかはら打ち水大作戦」「講演会&パネルディスカッション」「夏の温暖化対策キャンペーン」などのイベントを行い、温暖化防止意識向上の機会としました。

グリーン電力基金とは、新エネルギーの普及に賛同する個人・企業から、電気料金に上乗せするかたちで毎月一定額を集め、それと同額を電力会社も拠出し基金とします。集められた基金は、各地域にある財団法人「産業活性化センター」が運営主体となって管理し、自然エネルギー発電設備の建設・運営を行う事業者に対して補助金として配分されます。2006年度末時点で補助金累計額は約29億円でした。

おわりに

日本は世界でも先進的な太陽光発電技術を有し、太陽光パネルの生産量も世界のトップクラスですが、太陽光発電設備の設置容量ではドイツなどに抜かれてしまいました。ドイツなどでは固定価格買取制度(FIT)が大きく普及を後押ししているのに対して、日本ではそういった市場を形成するための制度の整備ができていない上、個人住宅向けの補助金も廃止されたことなどが「技術や生産力はあるのに、普及していない」原因です。

そのような社会を地域から変えるべく、地域の人々の思いとお金を集めて再生可能エネルギーを広げていこうという市民共同発電所の動きにますます期待するとともに、低炭素社会へ向かうため新エネルギー源のさらなる普及を推進する制度的対応も進めていくべきだと考えています。

(スタッフライター 小柴禧悦)

English  

 


 

このページの先頭へ