ニュースレター

2008年05月01日

 

市民と行政の協働による計画づくり - 東京都三鷹市

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JFS ニュースレター No.68 (2008年4月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第20回
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/index.html

地方分権改革が進められている現在、個性ある自立的な地域社会を実現するうえで、地域の課題は市民が自主的に解決するという住民自治に基づく自治体運営が求められています。特に、地域の環境をどのように守り、継承していくかという問題は、行政が一方的に決定するのではなく、情報公開や市民参加を通じた民主的な手法で合意形成を図ることが重要となっています。

2000年の地方分権一括法の施行をきっかけに、全国各地の自治体で環境保全やまちづくりに関する条例が制定され、環境基本計画やまちづくり計画の策定に、市民参加が取り入れられるようになりました。今や、当たり前のものとなりつつある市民参加ですが、今回は、30年以上も前から市民と協働のまちづくりを実践してきたコミュニティ行政の先進都市、東京都三鷹市の取り組みを紹介したいと思います。

コミュニティ行政の歴史

三鷹市は、都心から西へ約18km、東京都のほぼ中央に位置する、人口約17万5千人の典型的な住宅都市です。「緑と水の公園都市」と呼ぶにふさわしく、市の北東に位置する都立井の頭恩賜公園は、桜の名所として知られ、公園内の井の頭池は、東南方向に流れる神田川の源流となっています。2001年秋には、三鷹市立アニメーション美術館(三鷹の森ジブリ美術館)がオープンし、世界中から多くの観光客が訪れるようになりました。

三鷹市のコミュニティ行政の歴史は、1970年代にさかのぼります。当時三鷹市では、高度経済成長とともに人口が急増していたため、地域コミュニティのあり方について模索していました。そこで、市内に7つあるコミュニティ住区ごとに、体育館や図書室などを備えたコミュニティセンターを建設し、地域の住民自治組織である「住民協議会」に管理を委ねることで、地域のコミュニティづくりを進めることにしました。

最初は市の提案に戸惑っていた住民も、自分たちが利用する施設を、自分たちで設計・管理・運営することにより、連帯意識を深めていったといいます。1980年代になると、住民協議会はコミュニティ住区内の点検や要望を「コミュニティ・カルテ」として作成し、やがて、住区内の「まちづくりプラン」も作成するようになります。1990年代には、住民協議会のメンバーだけでなく、子どもから大人まであらゆる階層が参加する「ワークショップ」の手法を用いて、公園づくりや小学校の建て替えを行いました。

「みたか市民プラン21会議」の発足から「三鷹市自治基本条例」の制定へ

このような活動を経て、三鷹市は1999年、基本構想・第3次基本計画策定にあたり、市民による白紙からの素案づくりを実践することにしました。このときに発足したのが、「みたか市民プラン21会議(以下市民21会議)」です。三鷹市と市民21会議は、それぞれの役割と責務を明記した「パートナーシップ協定」を締結し、相互の対等・協力関係を約束したうえで活動を開始しました。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/003/003032.html

市民21会議では、公募で集まった375人の市民が10の分科会を形成し、延べ400回以上にわたる討議を重ねました。この分科会で特徴的なのは、環境・福祉といった行政の縦割りで検討するのではなく、「市民参加のあり方」「地域のまちづくり」など、総合的な観点で議論を行った点です。2000年10月に市長に提出された、A4版138ページに及ぶ最終提言書は、「地球」「協働」「循環」「共生」という4つのキーワードでまとめられ、さらに、市民参加を制度として保障するための「自治基本条例」の制定についても提言されていました。

これを受け、三鷹市は2001年に策定した第3次基本計画のなかで、自治基本条例の制定を目標に掲げました。自治基本条例は、住民自治の確立を目指すための基本理念や自治体経営の基本原則などとともに、市民・議会・行政のそれぞれの責務、役割を明文化したものです。市が策定する基本構想や基本計画、各種条例よりも上位に位置する、いわば自治体の憲法です。各自治体で実施されている市民参加や情報公開も、この条例を根拠規定とすれば、より安定的な制度として保障されるのです。

三鷹市は、自治基本条例制定に向けて、2002年より大学教授や市民委員などで構成する研究会を設置し、条例案の検討を進めました。市民も傍聴することができたこの研究会は、2003年10月までに12回開催され、その議論の内容を市民に広く伝えるためのフォーラムも開催されました。こうして検討された条例案は、市民の意見を反映してさらに修正が加えられ、2006年4月、約3年間の取り組みを経て「三鷹市自治基本条例」が施行されました。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/003/003885.html

三鷹市環境基本計画(改定)

行政計画の策定における市民参加が、自治基本条例によって保障されている三鷹市では、2007年3月、市民参加による「三鷹市環境基本計画」の改定を行いました。この改定は、一般公募による市民や事業者などで構成する「三鷹市環境基本計画改定に係る市民検討会議(以下市民会議)」との協働で素案を検討し、三鷹市環境保全審議会での審議とパブリックコメントを経て確定しました。

市民会議では活発な議論が行われ、当初は8回の予定だった会議が9回開催されました。全7章83ページで構成された改定計画では、2002年度から2006年度までの5年間の取り組みに対する評価を行うとともに、新たな目標期間である2007年度から2010年度までの4年間に取り組む重点課題として、市民・事業者・市が「協働で取り組む3大プロジェクト」を掲げました。

第一が市民参加と各主体の学ぶ意欲の増大のための「環境保全意欲増進・拡大プロジェクト」、第二は地球温暖化対策のための「温室効果ガス排出量徹底削減プロジェクト」、第三は文化的環境が確保され自然環境と共生する「快適環境空間創造プロジェクト」です。

これらは主に、市民のライフスタイルや事業活動の見直しを図るものであるため、市民や事業者が主体的に計画策定に参加することで、より実効性が高まるといえるでしょう。また、市民会議に参加した商工会や農協関係者との連携により、子どもの環境学習のための工場見学や農業体験の受入れも可能になりました。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/c_service/003/003325.html

省エネルギー対策事業

もちろん、市が積極的に取り組むべき対策もあります。「温室効果ガス排出量徹底削減プロジェクト」には、「公共施設の省エネルギー対策の実施」という項目があり、三鷹市では独自に、ESCO事業を活用した公共施設の省エネルギー対策に取り組んでいます。

ESCO(Energy Service Company)事業とは、工場やビルの省エネルギー化に関する包括的なサービスを提供する事業です。事業にかかわる経費は、削減された省エネルギーメリット(電気料金など)の一部から支払われるため、市は財政的な負担をせずに省エネルギー対策を実施できます。また、ESCO事業者によって省エネルギー効果が保証されるため、確実に二酸化炭素の排出量削減を進めることができます。

三鷹市では、1998年度より市役所本庁舎にESCO事業を導入していましたが、2004年度より新たに、芸術文化センター、東部下水処理場、環境センター(可燃ごみ焼却場)の3施設にESCO事業を導入しました。ESCO事業のサービスが開始された2005年4月から2007年12月までの累積削減電力量は、5,144,680kWh(3施設の合計)、ガス量は49,749m3(芸術文化センターのみ)、水道量は3,990m3(芸術文化センターのみ)となっています。これらを二酸化炭素の排出量に換算すると、2,042トンに相当します。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/esco/index.html

さらに、2007年8月には、このような環境基本計画に基づく事業を推進する機関として、市民・事業者・市で構成する「みたか環境活動推進会議」が設置されました。市民との協働で策定した環境計画を、単なる計画として終わらせないためにも、目標の達成状況を評価する仕組みづくりはとても重要です。

地方自治体が、地域の特性や生活文化に応じた環境政策を進める上で、最も考慮しなければならないのは、「こんなまちに暮らしたい」という市民の意見です。したがって、三鷹市のように、市民参加制度の下で、多様な主体が率直な議論を重ね、理想とする環境目標を民主的に決定することが大切なのです。同時に、市民一人ひとりは、地域の総意として決定した環境目標を確実に達成するため、自らに課せられた役割をしっかりと果たす責任があるのです。


(スタッフライター 角田一恵)

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