ニュースレター

2008年03月01日

 

持続可能な農業に向けた日本政府の取組み

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JFS ニュースレター No.66 (2008年2月号)

2007年夏、農林水産省は、農業者2,500名、流通加工業者1,381名、消費情報提供協力者1,500名に対して環境保全型農業についてのアンケートを実施しました。それぞれ1,963名、1,023名、1,207名から寄せられた回答結果は、以下のようになりました。

・現在有機農業に取り組んでいないが、条件が整えば取り組みたい(49.4%)
・その条件とは、生産コストに見合う価格で取引してくれる販路の確保(69.0%)、収量・品質を確保できる技術の確立(67.5%)
・環境に配慮した農産物を現在購入している、あるいは一定の条件がそろえば購入したい(97.2%)
・その条件とは、表示が信頼できること(75.2%)、近所や買いやすい場所で販売されていること(69.1%)
・毎日-週2、3日は環境に配慮した農産物を消費したい。(82.4%)
・環境に配慮した農産物が2-3割高までなら購入したい。(38.6%)
・環境に配慮した農産物を購入することによって、豊かな生態系を育むことを期待する(65.5%)、農産物を育てる土の力の保持を期待する(44.4%)

国内農産物に占める有機JAS認定品の割合は、2006年で0.17%。この数字はここ数年ほぼ横ばいです。一方で、このアンケートの結果は、生産者・流通加工業者・消費者のあらゆる段階で、有機農産物を中心とした環境に配慮した農業と、そこから得られる農産物への関心と期待が大きく高まっていることが、如実に現れたものとなりました。

日本では、1999年10月に「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」が施行されました。これは、「肥料取締法の一部を改正する法律案」、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律案」と合わせていわゆる農業系「環境3法」として国会に提出され可決されたものです。

実際の農業の現場では、土づくりがおろそかになり、化学肥料・農薬への過度の依存による営農環境の悪化がみられるなど、環境と調和のとれた持続的な農業が立ち行かない事態も生じていました。そこで、この法律の施行により、耕種農業と畜産農業の連携を一層強化し、家畜排せつ物を有効利用して堆肥化し、それを施肥することで土の力を取り戻していくという、本来の農業のあり方、また自然循環機能を維持増進することが求められることになりました。

この法律のもと、各都道府県は地域の特性に即した、持続性の高い独自の農業生産方式の導入計画を策定しました。そして、特に「土づくり」「化学肥料の使用低減」「化学合成農薬の使用低減」の3つの技術すべてに取り組む生産者として認定を受けると、その農業者は「エコファーマー」という愛称で呼ばれることになります。

本法推進のため、金融・税制上の支援措置(貸付金の償還期間を延長するなど)だけでなく、持続性の高い農業の導入に向け、各都道府県へ普及指導センターを設置し、市町村単位で技術習得のための研修会等を積極的に実施するほか、流通者や消費者からの支持を得るための環境に配慮した生産物の表示など、さまざまな提案がなされました。

また、国が率先して環境保全型農業推進コンクールを実施するなど、数々の取組みが実を結び、施行直後の2000年3月末時点では全国でわずか12件だったエコファーマーは、その後瞬く間に数を伸ばし、2003年度末には26,233件、2006年度末には98,874件、そして2007年度末には127,266件に達し、「2009年3月末に10万件を認定する」という目標を2年も前倒しで達成したのです。

エコファーマーがこのように順調に数を伸ばしている反面、有機農業者は一向に増えませんでした。2007年9月末時点の有機農業者数は1,509件。国内の有機農産物格付け数量は、2001年度33,734トン(全農産物の0.10%)、2003年度46,192トン(同0.16%)、2006年度48,596トン(同0.17%)と、エコファーマー認定数とは対照的に伸び悩んでいます。

それは、化学肥料や化学合成農薬の使用量を従来の概ね半量以下にすれば認められるエコファーマーと違い、国際的にも通用する厳格な規定をすべて守り、年に1回以上の検査を受けて認められた農業者だけが認証を得られる有機農業は、非常にハードルが高いからです。また政府の方針も特に有機農業をクローズアップしたものではなく、有機農業者を含めつつも、エコファーマーの方に光が当たっていたからでもあります。

2006年12月、そんな状況に変化が起きました。「有機農業の推進に関する法律」が制定されたのです。翌2007年4月には、2007年度から5年間を対象とし、有機農業が総合的かつ計画的に推進されるよう、農林水産省から基本方針も公表され、目標数値も設定されています。主な取り組みは以下の4つです。

1.農業者が有機農業に容易に従事できるようにするための取組みの推進

有機農業は、多くの場合、労働時間や生産コストの大幅な増加を伴います。その課題を少しでも軽減できるよう、有機農業に関する技術体系の確立・普及の取組みを強化するとともに、現在既に有機農業を実践している者、これから新たに有機農業を行おうとする者双方に対し、交付金や支援金制度を設け、有機農業に取り組む人を増やし、支援します。2011年度までに、全都道府県がそれぞれ普及指導員による有機農業の指導体制を整備していること、また有機農業の推進計画の策定、実施を行っている都道府県が100%であることを目標として掲げています。

2.農業者及び関係者が積極的に有機農産物の生産、流通、販売を行えるようにするための取組みの推進

有機農業者数は少ないものの、有機農産物に対する需要は確実に高まっています。有機農業による経営を安定して展開できるよう、需要を的確に捉えた販路の開拓がポイントとなります。そこで、交付金・制度資金などを活用した農産物直売施設等の整備や、流通・販売事業者、外食事業者への情報提供、制度の変更・弾力化により、卸売り業者等が中間組織を通さずに、自由に直接有機農業者から生産物を買い付け集荷することにより、流通がより活性化することを支援します。

3.消費者が容易に有機農業で生産される農産物を入手できるようにするための取組みの推進

消費者のニーズに応えるため、生産の拡大はもとより、生産・流通・販売・消費にいたる正しい情報、また表示の信頼性を追及することが重要になります。そこで、インターネットやメディアの活用、シンポジウム等の開催により、消費者との情報の受発信を推進するほか、有機農産物JAS規格等に関する情報提供、消費者を対象とした研修会等を実施します。

4.有機農業者及び関係者と消費者との連携の促進

有機農業の推進に欠かせないのが消費者の理解です。そこで近年注目を集めている食育を始め、都市農村交流拠点等の整備を支援し、農業体験学習や都市農村交流を図り、農業者と消費者の相互理解を深めていきます。この3と4の取組みにより、有機農業が化学肥料や化学合成農薬を使用せず、環境と調和の取れた農業の実践であることを知る消費者の割合を、2011年までに50%以上にするという目標を掲げています。

これ以外にも、農林水産省は有機農業の推進に必要な情報を把握するための調査の実施、国および地方公共団体以外の者が行う有機農業推進のための活動の支援、有機農業に関する技術の研究開発の推進など、総力を挙げて有機農業を推進するための方針を掲げ、工程表を作成して始動しました。初年度の2007年度は5400万円だった有機農業総合支援対策予算も、2008年度は10倍近い4億5700万円が割り当てられています。1月31日より有機農業総合支援対策事業の公募も始まりました。

もう一つ重要なのが農地政策の転換です。現在の農地法においては、原則として農家でない者は農地の取得ができないなど、新規就農者への門戸が狭く、慣行農業と比較して労働力を要する有機農業を、高齢化が深刻となっている現在の日本の農業の枠組みの中で展開するには限界があります。それについても2007年11月に、ようやく見直しが始まりました。例えば農地を所有から利用へと転換する有効利用の促進など、抜本的な見直しが期待されます。早ければ2008年度中、遅くとも2009年度には、農地について新しい仕組みがスタートする予定です。

現在、日本の農業は耕作放棄地が増大し、この15年間で耕地面積が55万ヘクタールも減少、農村の高齢化や過疎化がさらに進展、地方と都市との雇用機会や賃金の格差がますます広がるなど、深刻な問題を抱えています。エネルギー自給率4%、食料自給率39%の現状では、国としての未来は絶望的です。

有機農業を始めとする環境保全型農業は労働力を要するため、雇用が増えることにより、農村の高齢化・過疎化を食い止め、地方の活性化に役立ちます。石油を原料とする化学肥料や化学合成農薬を使用せず、原則として地元の資源を循環させて行う農業なので、エネルギー使用量も少なくて済みます。また水の使用量も慣行農業の5分の1程度と言われています。幾世代にもわたって農業が、ひいては国の基盤が守られていくための大きなカギを握っているのです。

2007年度は、「食料の未来を描く戦略会議」も発足しました。世界のエネルギー・食料事情が大きく転換しようとしている中、日本の農業はどのように持続可能な方向へと着実に歩を進められるでしょうか。着手されたばかりですが、やると決めたらばく進する日本というお国柄が、今こそ発揮されるべき時です。


(スタッフライター・長谷川浩代)

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