ニュースレター

2008年02月01日

 

社会的責任投資(SRI)で若者が未来に夢や希望を持てるサステナブルな社会を実現 - 株式会社グッドバンカー

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.65 (2008年1月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第68回
http://www.goodbankers.co.jp/

1999年8月、日本における社会的責任投資(SRI)をコンセプトとした最初の金融商品「日興エコファンド」が誕生し、販売から2週間で当初の予想を4倍も上回る230億円を集めました。この商品を開発したのが、今回ご紹介する、日本初のSRI専門投資顧問会社「グッドバンカー」です。

環境問題の観点から積極的に評価できる企業にのみ投資する「エコファンド」は、他社の参入もあり誕生から6カ月で市場規模は2,000億円に達し、環境と金融を結ぶ新しい市場の出現として注目されました。ITバブルの崩壊で市場規模が縮小した時期もありましたが、2006年4月、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEPFI = Finance Initiative)が主導する「責任投資原則(PRI = Principles forResponsible Investment)」の発足が契機となり、日本においても市場は再び拡大の傾向にあります。

PRIとは、国連のアナン事務総長(当時)が招請した世界12カ国20の大手金融投資家と、その他の投資団体、国際機関、学者、市民グループなどの支援によって、UNEP FI事務局が作成した、機関投資家への6つの投資原則です。その目的は、環境(E)、社会的責任(S)、ガバナンス(G)の問題を投資判断に反映させることにあります。

・ 投資決定のプロセスにESG問題を組み込む
・ 株主行動にESG問題を反映させる
・ 投資対象にESG問題に関する情報開示を求める
・ 資産運用業界としてPRIの普及に努める
・ PRI実行の効果を上げるために協働する
・ PRI実行に関する情報を自ら公開する

中でも、世界の資本市場で大きなウエイトを占める年金基金をPRIに基づいた流れに変えることは、温暖化による環境問題が深刻化する中で、世界の経済・社会をサステナブルな方向に向かわせる大きな変化を促すものとされ、発足当初50だった署名機関は約250機関、総運用資産も10兆ドル以上となっています(2007年10月現在)。
http://www.unpri.org/signatories/

日本人が待ち望んでいたSRI

「日興エコファンド」から始まった日本におけるSRIの流れは、9年近く経った今、大手機関投資家もSRI商品をラインナップするに至っています。米国では1920年代からあったSRIが、日本で始まったのは1999年。非常に遅いスタートということになります。個人の金融資産総額が1535兆円とも言われる日本。しかも、文化的にも環境と共生していく伝統のある国でありながら、なぜもっと早く、豊富な資金を環境問題などのサステナビリティと結び付けられなかったのでしょうか。

その原因を、グッドバンカー代表取締役社長の筑紫みずえさんは、金融機関の力不足と、自らの金融行動が社会に何をもたらすかについて、国民の意識が非常に低かったこと、と見ています。さらにもっと根底の部分として、海外のSRIは宗教的信念から始まっており、諸外国は現在も国家と宗教、国民と宗教が密接に結びついている一方、日本は、敗戦まで生活に深く根付いていた神道がアメリカの占領政策の中で意図的に切り離されたことによって、SRIに向かうスタンスを失ったのではないか、とも言います。

「人が宗教と結びつくということは、人間がすべてではないという意識を持つことであり、宗教心とは、人智を超えたものがあるということを心で感じることです。戦前の日本は、神道や仏教によって日本人の日常生活を規定してきました。そこには自然に対する畏敬の気持ちがありました。そこから精神的に切り離されてから、ただ経済的発展を求めるだけの国家、国民になり、これほどの環境破壊が進んだのではないでしょうか」(筑紫さん)。

SRIの定義は、「金融を使って社会的問題を解決・改善すること」です。日興エコファンドが登場し、それが予想を上回るヒットとなったのは、環境問題という当時一番の社会的課題を解決し、社会をサステナブルな方向に変える手だてとして、経済力を活用できるということを知らしめたからです。

「市場からは、目から鱗だとか、こんな商品が欲しかったとの声をいただきました。証券会社の方からは、ほかのファンドだと元本割れが生じると窓口に文句を言いにくる人がいるが、どんなに成績が悪くなっても、このファンドだけは文句をいう人が現れなかった、と驚かれました。日本人はSRIを待ち望んでいたし、それを育む精神的な土壌はすでにあったといえるでしょう」(筑紫さん)。

誰にとってのサステナビリティなのか

その後2004年、少子高齢化が社会的問題として浮かび上がる中、グッドバンカーは三菱UFJ投信との共同開発による三菱UFJ SRIファンド「ファミリー・フレンドリー」を商品化。子育てや介護など、ライフステージに合わせて家庭と仕事を両立でき、多様で柔軟な働き方を選択できる企業への投資商品を開発するなど、常に日本のSRIにおけるファーストムーバーとして影響を与え続けています。

エコファンドも、ファミリー・フレンドリーも、いずれも金融を使って社会的な問題を解決するための商品であり、それらが目指すのは、人が生活し続けることができるサステナブルな社会の実現です。「『サステナブル』は、今や環境だけでなく、つながりのある全体として考えなければならないこと、と意識されるのではないでしょうか」(筑紫さん)。

「日興エコファンド」が登場したとき、このファンドに投資したのは、ほとんどが個人で、大多数が若者と女性だったといいます。そして、それは日本だけでなく各国に共通した傾向であり、その点からもサステナブルな社会を目指すには、若い世代と女性が共に協力することが有効だと筑紫さんは言います。

現在、日本社会における大きな問題、それは「格差」です。経済協力開発機構(OECD)25カ国のうち、可処分所得の分布における中央値の半分以下の人の割合「相対的貧困率」が、日本は米国に続いて2位です(2000年の統計)。中でも若い世代に格差が激しく、未来に希望を見いだせない若者が増えています。

グッドバンカーでは、SRI投資顧問会社として企業のサステナビリティを測るとき、若者と女性の置かれている状況を見るといいます。「誰のためのサステナビリティか? それは未来を生きる若者のためです。そして女性は子どもを産むことで未来に大きくかかわっています。国や企業は、若者が未来に夢や希望を持てる環境や社会を創り出してこそサステナブルな国、サステナブルな企業であり、それができなければ、自らのサステナビリティなどないのです」(筑紫さん)

若者や女性の状況に敏感かどうか、企業のそうした「感度」を測る評価基準を考えるのが、投資顧問会社の仕事です。グッドバンカーでは、その評価基準を毎年変えています。「世の中の大きな変化、インパクトの強い変化については、一年を待たずに直ちに取り入れる場合もあります。現在エコファンドには150の評価基準を設けていますが、そうした企業を測る指標に、投資顧問会社ごとの特色がありノウハウがあるのです」(筑紫さん)

SRIは運動であり運用

エコファンドから10年を待たずして、すべての大手金融機関にSRI商品がラインナップされました。SRIのスタートが早かった米国でも大手が取り組むまでに40-50年かかっていますから、「日本のSRIは、スロースターターだったが、今やクイックラーナー」だと筑紫さんは言います。

グッドバンカーとしても、実務的な格付けシステムの構築を経て、今後は情報の発信に力を注ぎたい考えです。SRIの環境は整ってきていますが、SRIという考え方の社会への浸透度はまだまだ低いのが現状だからです。

「本来、SRI=お金です。社会に働きかける運動という側面もありますが、基本的にはお金の運用方法のひとつとして、ポジティブな側面から投資すべき企業を増やすことでリスクを分散し、より多くの人を惹きつけるマーケットに育てていくべきだと考えます」(筑紫さん)

団塊の世代の退職金は、今後3年間で50兆円になるとも言われています。政治や社会への意識が高いこの世代に向け、SRIに関する情報を積極的に発信することによって、自らの資金に社会を動かす力があると意識する人が増えれば、世の中は大きく変わるでしょう。


(スタッフライター 青豆礼子)

English  

 


 

このページの先頭へ