ニュースレター

2007年12月01日

 

日本の環境首都をつくろう - 持続可能な地域社会の創出をめざして

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JFS ニュースレター No.63 (2007年11月号)

「日本のフライブルグをつくろう」。ドイツの環境首都コンテストを見本に、日本の環境首都をつくろうと、2001年から10年間にわたり「持続可能な地域社会をめざす-日本の環境首都コンテスト」(以下、コンテスト)が実施されています。

コンテストの背景と目指すもの

主催しているのは、12のNGO/NPOと2つの協力団体で組織されている「環境首都コンテスト全国ネットワーク」です。主幹事団体はNPO法人環境市民で、同ネットワークの事務局も「環境市民」内に置かれています。

1996年、環境市民内にエコシティー研究会が結成され、このプロジェクトがスタートしました。2000年に環境市民の呼びかけにより、全国の10のNGO/NPOからなる「環境首都コンテスト全国ネットワーク」が結成され、同じ年にドイツより環境首都に選出されたハム市、エッカーンフェルデ市、首都コンテストの主催者を招いて、全国6箇所でセミナーを開催しました。2001年春には、45自治体から協力を得て実験的なプレコンテストを実施し、同年11月に第1回日本の環境首都コンテストが開催されたのです。

コンテストの目的は「持続可能な地域社会を創ること」です。コンテストはそのための手段であり、コンテスト形式により自治体間の切磋琢磨を促すことを通して「環境首都」という全国の自治体のモデルの創出を目指しています。また、波及効果としてNGOと自治体間の情報の交流、住民参画やパートナーシップの促進も期待できます。

コンテストの実際

コンテストは日本国内の全市、町、村、東京都23区が対象となります。応募する自治体は質問票にしたがって各自治体の現状、取り組み内容を回答し、必要に応じてヒアリングが行われ、これらの結果をもとに 最終的な集計を行います。

質問票は、「環境基本条例・ローカルアジェンダ21・環境基本計画」「環境マネジメントシステム、」「情報公開」「率先行動」「自治体交流」「政策能力向上・環境行政の総合化」「住民力の向上と協働」「環境まちづくり学習」「自然環境」「水循環」「景観と公園」「交通」「地球温暖化防止」「ごみ減量」「環境に配慮した産業」と15項目約80問にわたって構成され、以下の条件に当てはまる自治体に「環境首都」の称号が贈られることになっています。

1・総合で第1位であること 
2・総合点が満点の70%以上であること 
3・15項目中、3項目以上が満点の90%以上の点数を得ていること
4・15項目中、満点の50%以下の点数の項目が2項目以下であること

コンテストのプロセスは、各自治体が質問票に答えることで、全国のすぐれた取り組み事例や集計分析結果の情報などを得たり、自治体の環境行政を横断的に把握したりできるよう工夫されています。コンテスト後には、各参加自治体に得点、順位、コンテスト分析結果をまとめた「報告書」と、先進的な事例をまとめた「先進事例集」を送るほか、優れた自治体や先進的な事例などを表彰します。

参加自治体にとっては、他の自治体の取り組み情報を得られるほか、自らのすぐれた事例や取り組みが評価されることによる住民へのアピール効果、地域内のNGOと意見交換の場を得るなどのメリットがあります。環境首都コンテストで得られた情報の共有化、自治体における効果的な施策検討、自治体とのより深いパートナーシップを築いていくことを目的として、各地で「地域交流会」も開催されています。

多治見市の取り組み

多治見市は、岐阜県の南端に位置する人口約11万人の市です。第1回からコンテストに参加し、常に上位の成績を収め、第3回では1位を獲得している多治見市の取り組みを紹介しましょう。

コンテストでは同市の「政策形成ヒアリング」というシステムが高い評価を受けています。これは、翌年度に予定している総合計画にある事業について、事業の担当課、企画・人事・財政・環境の担当課が予算化する前に話し合うものです。

環境面では、各課に事業ごとに環境影響を点数で評価するチェックシートを作成してもらい、それに基づき、「漏れている環境配慮事項はないか」「環境により配慮した内容とならないか」「このような事業はできないか」などのヒアリングを行います。チェックシートは、環境基本計画にある16のチェック項目(森林保全、廃棄物削減、文化資産保存、温暖化防止、環境教育など)を基本としています。また、環境影響に関するチェックのみではなく、より環境に配慮するべく、助言や提案も行っています。

このように、主な事業について、環境や人事部署も入った会議で部局横断的にチェックをします。ほとんどの日本の自治体では、「環境は環境部局の仕事」となっていますが、それを自治体全体の課題と位置づけ、全部局が日常の事業において環境行政を推進する仕組みとなっているのです。コンテストではこの仕組みが高い評価を受けているのです。

現在では、この「政策形成ヒアリング」の制度を通して、事業を行う際には、ワークショップという形式で、市民との共同事業や環境配慮が当然のこととして行われるようになりました。

具体的な例として、「メダカの学校構想」を紹介しましょう。市内の水辺環境の保全を目的に1999年に職員グループが提言したもので、市民と協働で、市内の様々な地域を対象にメダカを指標としたビオトープ整備を実践しています。2000-2002年度にモデル事業として実施した池田地区では、近年、急速に市街化が促進され、ゴミが捨てられ草に覆われ放置されたままの農業用水路を市民と協働で復活させました。この水路を改修する際に、「政策形成ヒアリング」によって、親水性やビオトープ的な要素、住民参画プロセスなどが加味されました。現在、「メダカ通り」と名づけられたこの水路は多くの市民に親しまれています。

他にも「政策形成ヒアリング」により、設計段階から環境基本計画の考え方に配慮し、住民参画による設計、太陽光パネルの設置、屋上緑化、雨水利用、シックハウス対策など9つの環境配慮が取り入れられた「池田保育園」の例や、校舎建て替えに際して、地元住民、生徒の声を聞いて、太陽光パネルの設置、屋上緑化、ビオトープなどを取り入れた「多治見中学校」の例などがあります。

現在、多治見市は、環境市民が2004年度から5ヶ年計画で実施している「持続可能な地域社会づくり モデル自治体共同調査研究プロジェクト」に参加し、共同研究を進めています。このプロジェクトは「持続可能な地域社会づくり」のための自治体の課題とそこへ至る具体的な道筋(戦略)を提言することを目的としています。スタート時にパートナー自治体の募集があり、多治見市はトップの強力なリーダーシップと「政策形成ヒアリング」という仕組みなどが評価され、このプロジェクトのパートナーに選定されました。

コンテストの今後の展望

環境市民の風岡さんは「第7回を迎える現在、そろそろ成果を総括して、次の活動に活かしていくことも考えなければなりません。コンテストの成果をどのように評価し、活用していくのかが課題となってきます」と語ってくれました。

2007年度から、国内有数の専門家を交えて、コンテストや他のプロジェクトの成果を総括し、持続可能な社会のビジョンや、具体的な提言を行う「持続可能な社会を創るための提言づくり」プロジェクトもスタートしました。

2001年より2006年まで6回開催された環境首都コンテストでは、残念ながら「環境首都」に選出される自治体はありませんでした。しかし回を重ねるごとに平均点の上昇が見られ、参加自治体の環境施策の底上げという成果が得られています。

「持続可能な地域社会」を作るためのさまざまなプロジェクトや、参加する自治体の努力によって、近い将来「日本の環境首都」の称号を得る自治体が続々と現れることが楽しみです。


(スタッフライター 米田由利子)

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