ニュースレター

2007年12月01日

 

セールスプロモーションから持続可能性を追求する - 有限会社パンズ

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JFS ニュースレター No.63 (2007年11月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第66回
http://www.pans.co.jp/

パンズは、企業や団体向けのセールスプロモーション(以下SP)のプランニングとプロモーションを行っている企業です。2001年に創業。現在SPクリエイティブ事業、什器輸入・販売事業、サスティナブル事業の3つの柱で事業運営し、クライアントの販売促進をサポートしています。

SPクリエイティブ事業の1つである「展示会」は、日本の場合、「造って壊す」ことが宿命づけられています。パンズではクライアント企業が企画・出展する展示会の仕事を年間5、6本受注しています。数日間のイベントのためにデザインからブースのディスプレイ、会場で配付するカタログ類の制作、ノベルティを考案、制作するなど、そのとき、その場に人を集め、注目を集め、興味を持続させるためのツールを、展示会ごとに製品ごとにつくりだす創造的な仕事です。

国内最大の総合コンベンション施設である東京ビッグサイトの2006年度の展示会件数は334件といい、出展するブース件数たるや膨大なものとなります。展示会自体は数日間で終了し、それと同時に大量の廃棄物が発生します。創造と廃棄。それがSPの宿命とするならば、いかにその間で環境に害を及ぼさない状態にできるか、いかに量を減らすことができるのか、さらには廃棄という宿命を変える、つまり再利用できるものにチェンジできるか。そこに持ち前の創造性を発揮しようと挑戦しているのが、パンズです。

使い捨てから使い回しへ

日本と欧米を中心とした海外のSPを比較するとき、デザイン面ではクオリティも傾向も大差はないといいますが、一番違いが顕著なのが展示会で出るゴミの量、つまり「ブースの作り方、什器というものへの考え方に大きな違いを感じる」と、パンズ代表取締役の犬飼俊介氏はいいます。

メーカー勤務を経てSPの世界に入った犬飼氏にとって、展示会の企画運営に携わる中で海外企業、中でもヨーロッパの企業のブースの考え方に触れたことが、仕事観を大きく変えていくきっかけになりました。「今は日本も意識が変わってきましたが、10年以上前は、時間をかけて作り上げたブースも展示会が終わればあっという間に壊され、捨てられていました。それがヨーロッパでは、ブースを解体、パッキングし、ほとんどゴミを出さずに持ち帰っていたのです。日本各地で年間に行われる展示会の数を想像したとき、自分がゴミを出しているんじゃないか、と虚しくなったんです」(犬飼氏)

日本では、ブース設備を保管しておく土地代が高く、その保管代を考えると捨てる方が安いという計算になってしまいます。捨てることが前提ならば、再生可能な段ボールなどの紙製品の利用をと考えるのですが、消防法のもとでは紙製品も使いづらいのが現状です。

そうした状況に対応するものとして、パンズではオーストリア製の広告ディスプレイシステム『ペンギン(penguin)』を導入しています。世界約40カ国以上に普及しているこのシステムは、軽くて丈夫なカーボンファイバーフレームでできており、工具なしで短時間で組み立てられ、持ち運び可能。メディア部分だけを交換すれば何度でも使い回せる実用的なディスプレイです。パンズは『ペンギン』の日本における総輸入代理店となって、使い回せる広告ディスプレイの普及を図っています。
http://www.penguin.ad/

セールスプロモーションが繋ぐもの

SPの什器としてアクリルが広く利用されていますが、「利用後、廃棄するしかないアクリルを使うことにはストレスを感じる」と、犬飼氏はいいます。容器利用が増えているバイオプラスチックに着目しSP什器への利用を検討したそうですが、バイオプラスチックのコストが高く採算が合わないため、現時点でのパンズとしての導入は見送っているそうです。日本国内でのプラスチック需要は年間約1400-1500万トンですが、そのうちバイオプラスチックが3万トン前後にとどまっている一番の要因は、やはりコスト高なのでしょう。

再生できないもの、廃棄以外にないものを使い続けることに抵抗があっても、SPコストを抑えたいクライアントが首をタテに振らなければ使うことはできません。「多少コストはかかっても、それがいい、それが必要だという意識を持っていただけるような働きかけが日本ではもっと必要なのだと感じます」(犬飼氏)。日本ではコストの問題で実現困難なSP什器へのバイオプラスチック導入を、現実に行っている米国企業が、どういうSP会社と組んで、どのようなコンセプトで展開しているのかには、非常に興味があるといいます。

賢く、健やかに、建て直す、「ケン・ケン・ケン」プロジェクト

トップの意識、姿勢で企業が変わる。そのことを日々仕事の中で実感している犬飼氏は、子どもの見ている前で、聞いている傍で、堂々と話せる仕事、大人として恥ずかしくない仕事をしているか、を自身への問いとしていつも意識しているといいます。サスティナブル事業は、そうした思いから生まれた新事業です。キーワードは、賢く、健やかに、建て直す。建て直すものは、世の中の仕組みや自身の生活習慣など人によってさまざまですが、この「ケン・ケン・ケン(賢・健・建)」というワードが求心力となって、「次の世代へ胸を張って繋ぐことができる生き方やライフスタイル」を追求しようと考える人々の集まるコミュニティをつくるのが主たる目的であり、2007年までの準備段階を経て、2008年より体制を整えスタートしていく事業です。

新製品を効果的に人々に伝えるのがSPですが、その根本は「これまで知らなかったことを伝える」ということです。市場が求めている潜在的なニーズに気づき、必要な情報を市場の受け取りやすいカタチで提供し、ときには教育する。それは何も新製品に限りません。すでにあるモノゴトであっても、人々にとって今必要なことであれば、それは新しい情報です。それを「知らない」がために環境悪化を招いているとしたら、日本の風土で培われた生活の知恵を知りたいと考える若い世代がいるとしたら、知っている誰かの声を伝える必要があります。SP技術をそうした場面で活用すれば、効果的に情報を伝えることができます。

商品と生活者を繋ぐモノ・コトづくりのSP企業が、今、企業と社会、地域の人々、地球上の人々を繋ぐモノ・コトづくりに取り組み始めた。それがパンズのケン・ケン・ケンプロジェクトです。「前に進むだけでなく一度立ち止まって考えよう、そのためのきっかけとして、例えばドキュメンタリー映画の上映会や、実際に安全な野菜や卵を提供してくれている農家の方の話を聞くサミットなどを開催しています」(犬飼氏)

箸が橋渡す、人と人、地域、文化、そして未来

サスティナブル事業の中で、現在反響の大きいものが、パンズオリジナルの携帯箸「懐箸=KAIHASHI」と関連グッズです。6月から販売開始しましたが、夏から名入れサービスをスタートしたことでノベルティグッズとして国際的な会議で参加者に配られたり、商工会議所が役員に配付するなど、オフィシャルな場面での利用のほか、一般市民からの注文も増え、11月からはYahooでのショッピングサイトもオープンし、SPで培ったデザイン力、訴求力で、「マイ箸」を持つ人の裾野を広げています。

箸を入れる袋も制作していますが、日本の伝統的な染物を用いたことで地方ともつながりが生まれてきました。日本各地にはその地域で育まれてきた伝統産業がありますが、素晴らしい技術や文化的価値を有しながらも、後継者不足などで存続が危ぶまれるもの、人知れず消えていく文化が多々あります。「良いものが売れないのだとしたら、SPのプロフェッショナルとして、私たちが時代にあったデザイン力やSPの手法という『息』を吹き込んで、元気になってほしいです。地域のものを使ったバリエーションを増やし、地域の活性化にも役に立てたら嬉しいですね」(犬飼氏)

スモール イズ ビューティフル。会社を大きくはせず、上場を目的とせず、利益を社会に還元していくことを目的とするパンズ。「持続可能性に徹したエージェンシーは日本ではまだ少ないので、私たちの考え方がイコール、日本のSP業界のベースになるチャンスでもあります」。


(スタッフライター 青豆礼子)

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