ニュースレター

2007年11月01日

 

住まいのハードとソフト、両面からの環境対策 - 独立行政法人 都市再生機構(UR都市機構)

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JFS ニュースレター No.62 (2007年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第64回
http://www.ur-net.go.jp/

日本では、1950年代から都市へ人口が集中し、住宅不足が社会問題となっていました。そのため、まだ「団地」が存在しなかった1955年に、都市部に住宅を大量に建設するため日本住宅公団が設立されました。それから約50年、その時代時代の住宅や地域開発の需要に応じて組織は変遷し、2004年に都市基盤整備公団と地域振興整備公団の地方都市開発整備部門が一緒になり、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)は設立されました。UR都市機構は現在、全国に約77万戸(日本の住宅数の約1.4%)の賃貸住宅(UR賃貸住宅)を所有し、約170万人(人口の約1.3%)に住宅を供給しています。

住居の温暖化対策

地球温暖化の原因とされるCO2の、日本の一世帯当たりの平均排出量は年間約5.5トンです。そしてマイカーの燃料などを除く家庭からの排出量の60%以上は、冷暖房、お風呂、家電製品などで使用するエネルギーが原因です。そこで、UR賃貸住宅では、先進的な技術を投入し省エネルギー化を進めています。

その最たるものは断熱性の向上です。断熱性を上げることで、冷暖房の効率が上がり、冬の結露や部屋のカビくささが軽減されます。新規建設住宅の断熱性能は、「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」で定められた次世代省エネルギー基準を満たしており、2006年度末までに供給した次世代省エネ基準による住宅約1万戸で、冷暖房に使用するエネルギー消費量が削減され、年間約350トンのCO2削減効果があったものと推定しています。「UR賃貸住宅の断熱性は、国内でトップクラスにあるものと思います。」と、都市環境企画室の野村聡氏は説明します。

UR賃貸住宅における対策のもうひとつの柱は、効率的な機器の導入です。排熱を再利用する潜熱回収型給湯暖房機や、エネルギー効率のよい設備などを設置し、資源消費を減らしています。新築ばかりではなく古い団地でも、リフォーム時にエネルギー効率のよい機器に交換したり、断熱性の改善などの工夫が随所に施されています。

「住居の環境をよくする取り組みは、これまでの50年の歴史の中でもずっと行ってきています。『結露してカビが生えやすい』などの居住者からの声もあり、こうした問題を改善するために私たちが他の民間企業と共に開発してきたものが、温暖化防止にもつながっています」と野村氏は語ります。

超節水型便器、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム、生ゴミコンポスト、電気の使いすぎを音で知らせるピークアラーム機能付分電盤など、住居には数々の環境負荷を軽くする工夫があります。これらの技術はUR都市機構が先鞭をつけたものです。

ロングライフを見据えた建築物

住宅の設備についてだけではなく、新築の建物構造も環境について配慮されています。その1つがUR都市機構版SI(スケルトン・インフィル)住宅として登場したKSI住宅です。SI住宅とは、構造物の骨格(スケルトン)部分と間取りや内装などの内部構造(インフィル)部分が分離した住宅です。

KSI住宅では、柱や梁の鉄筋を覆っているコンクリートを通常よりも1センチ厚くするなど、高耐久躯体のスケルトンを採用し、耐久性をこれまで以上に高めています。これによって、約100年の耐久性を持たせることができるのです。

インフィルを完全に床版と分離させ、床を先に施工し、その上に間仕切り壁を立てる工法を用いるため、建物ができ上がった後でも壁の移動や追加が自由にできます。さらに、間取りだけではなく、2戸以上を合併するなどして部屋の規模までも変更しやすい設計となっています。そのためライフスタイルが時代とともに変わり、需要が変わっても建物を壊さずリフォームで対応できるため、長期耐用型の住宅になります。

「建設コストは割高になりますが、長い目で見るとライフサイクルコストも、ライフサイクルCO2も有利になると思います。全体的に見て、UR賃貸はハードとしてかなりよいものをつくっています」と野村氏は語ります。

これまで建築された、古い団地を建替えるときはどうでしょう。建物を壊すときに大量に出てくるのが、コンクリートの塊です。2DKのRC構造の住宅では、1戸当たり約33立方メートルのコンクリートが発生します。1992年からは、可能な限り現地で粉砕機にかけ、その場所で再利用しています。また、ここで得られるコンクリート塊の粉砕物(再生砕石)は、粒の大きさによって地盤改良材、建築物基礎材、コンクリート舗装などに利用されます。そのリサイクル率はリサイクルを始めた当初から高いもので、99%にもなります。

従来の建物は、コンクリートの劣化により構造強度が低下したり、設備機器が生活水準の変化に対応できなくなったりすることから、建替が必要となります。UR都市機構の建替で解体される住宅戸数は、相当数に上ることから、建築廃棄物のリサイクル率が向上することは、省資源に大きく貢献できます。

都市空間の再生で生まれる自然

UR都市機構が、開発する宅地は広大です。大規模開発は、環境に多大な負荷を与えてしまうため、今までも地形の改変を少なくする取り組みを進めてきましたが、さらに、緑を大切にするまちづくりへの貢献も始まっています。その1つが、ビオトープづくりです。

「ビオトープをつくるときに、一番難しいのが住環境と自然環境のバランスです」と明かすのは、都市環境企画室の池田今日子氏です。虫が苦手な人も多く、虫が多すぎると苦情に結びついてしまうからです。そこで、UR都市機構の事業地にビオトープをつくるにあたっては、団地の居住者や自治体、地元のNPO、学識経験者などを交えた勉強会やワークショップを開催し、ビオトープの重要性や保全、活用についての合意を形成します。そうした段階を踏んでつくられた場所は、住民にとっても大切な場所となります。ビオトープを管理するためにNPOが立ち上がった地域もあります。「ハコ」だけではなく、よりよい住環境へ、居住者が置き去りにされないソフトの取り組みが行われているのです。

ここで、1つ代表的な例を見てみましょう。東京から電車で約40分の武蔵野市にあるUR賃貸住宅の1つ、サンヴェリエ桜堤(敷地面積約4,4000平方メートル・約1,500戸)は、建てられてから40年を経て、1999年に建替えられました。周辺は、1654年に江戸の街に飲み水を提供するために掘られた玉川上水や一級河川の仙川(全長約21キロ)、東京都立小金井公園(面積78ヘクタール)などがあり、生態的ポテンシャルが高い場所です。

しかし、武蔵野市は市街地化が進み、生きものがすむ緑地が連続せず、飛び石的にしか存在していませんでした。そこで、この地域において緑地を保全し緑化を推進するために、1996年に策定された市の「緑の基本計画」に基づき、サンヴェリエ桜堤の建替事業の際に、敷地内を流れる仙川や成長した樹木を活かし、みどりのネットワーク形成にUR都市機構が一役かったのです。

コンクリート三面張りの川は自然石や木杭などを配し、自然の川のようにつくり変えました。周辺の自然の植生にあわせて新たに植林した雑木林や草地、池なども造成したのです。こうしてできあがったビオトープは、この地域における水と緑のネットワークを形成する上で欠かせない拠点となり、現在は多くの生きものがすみ、居住者や周辺の人々が憩う場となっています。

住居には時代とともに新たなニーズが生まれてきます。特に、環境へのニーズは1997年の京都議定書採択以降、あらゆる方面で生まれています。

野村氏は次のように言います。「限られた予算の中で、何をどうやるのが環境によいのかをトータルに見ていかなくてはいけません。また、民間事業者と連携して事業を行う場合、お互いの要望にくい違いが出ることもありますが、自治体や民間住宅業者などのステークホルダーにも私たちが考えていることをしっかりと話し、理解しあって進めていかなくてはいけません。全てが環境にいいというわけにはいかないかもしれませんが、少しでも改善することで、住宅における時代の『標準仕様』を変えていけないかと考えています。」

時代が反映されるからこそ、UR都市機構の環境の取り組みは、これからの住宅を見る意味での大きなポイントとなっていくでしょう。


(スタッフライター 岸上祐子)

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