ニュースレター

2007年09月01日

 

持続可能な森林経営、自然との共生を追求し続ける - 住友林業株式会社

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JFS ニュースレター No.60 (2007年8月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第62回
http://sfc.jp/

住友林業は、自然の恵みである「木」を軸に事業を行っている企業です。森林の育成から木材・建材の製造・流通、木造住宅の建築・販売、中古住宅の流通やリフォームなど、木と住まいに関するあらゆる分野で事業を展開、その領域を拡大しています。

住友林業「らしさ」について、総務部CSR推進室長の新井紀範氏は、「とことん木にこだわるところ」だと言います。その理由は、住友林業の歩んできた歴史の中にありました。

1691年、銅の精錬と輸出を手がけていた住友家は、伊予国(現在の愛媛県)宇摩郡別子山村に別子銅山を開坑。周辺山林の立木を、銅山事業に必要な資材(建築用材・坑木・薪炭)として伐採しました。それから約200年後、長年にわたる伐採と煙害によって、別子の森は再生力を失い、岩肌が見えるまでに荒廃。別子銅山2代目支配人であった伊庭貞剛は、「別子全山をあをあをとした旧の姿にして、之を大自然にかへさねばならない」との方針を示し、1894年、「国土報恩」の精神のもと、「大造林計画」を策定。植林による大規模な森林再生に着手しました。毎年100万本以上のスギやヒノキを植え続け、現在、別子銅山には豊かな森が蘇っています。

この別子の森をはじめとして日本の国土の約1,000分の1に相当する、約4万haの社有林を管理する住友林業。その経営の根底には、木を植え、森を育みながら、永続的に植林と生産を繰り返していくという、別子銅山の大造林計画によって学び培った「保続林業」の考え方がありました。住友林業は、林業におけるサステナビリティに100年以上前から取り組み続けている企業なのです。

再生可能な天然資源である「木」にこだわり、創業以来の企業精神を守りながら、世界的視野で環境・経済・社会のサステナビリティに、「木」を軸としていかに貢献できる企業であるか。そこに挑戦し続ける住友林業の取り組みを紹介します。

国産材活用に向けての取り組み

戦後、全国各地で行われた拡大造林で、スギやヒノキがたくさん植林されましたが、その後、安価な輸入材によって国産材の市場は縮小。林業を支えてきた人材の高齢化と後継者不足の中で、森林整備が進まないまま荒廃し続けています。

そうした中、京都議定書発効により、日本は2012年までにCO2排出量の6%削減(1990年比)が義務づけられました。その内3.8%については、国内森林のCO2吸収量で達成する計画です。林野庁は「木づかい運動」など、国産材の積極活用を国民に呼びかけています。

拡大造林で植林された樹木が伐採期を迎えている今、国産材の市場が活性化すれば森林に再び人の手が入るようになるでしょう。しかし、手入れされなかった山の木は品質も悪く、木材製品に加工することも使うことも容易ではありません。

「家の中では靴を脱いで生活する日本人は、床の仕上り具合など住宅の品質に関しては世界一要求が高い国民です。それに加えて、耐震基準が厳しくなっている今日、わが国では住宅建材の品質管理は極めて重要です」(新井氏)

住友林業は、長年の経験と勘で木の状態や性質を見抜き、家のどこに使うのか、適材適所を見極めています。木の良さを最大限に引き出すため、木の含水率を最適かつ効率的にコントロールする技術などを開発、徹底した品質管理下で製材・加工された木材を使用しています。製材時に発生する小幅板などの端材も、「クロスパネル」という住友林業独自の耐力面材の材料にするなど、余すところなく活用しています。

こうした取り組みにより、販売する住宅の主要構造材での国産材比率を年々伸ばし、2006年度は51%、2008年度は70%を目標に掲げています。戸建住宅「My Forest(マイフォレスト)」の北海道向け商品では、主要構造材の北海道産使用比率100%を達成しています。

持続可能な木材調達に向けての取り組み

国産材の使用比率を高めていく一方、強度やコスト面で市場のニーズに応えるため、木材の海外調達も並行して行っています。輸入材における問題は、発展途上国で多いとされる違法伐採です。日本は世界有数の木材輸入国。違法伐採された木材を扱うことのないよう、2005年10月、住友林業は独自の「木材調達基準」を設けました。

この基準に則り、社内横断的なメンバーで構成された委員会にて取り扱い木材の合法性審査を開始しました。2006年、次なる段階として、独自の「木材調達方針」策定に動き出しました。NGOとの円卓会議、ワーキンググループでの議論を重ね、2007年6月、環境と社会に配慮した持続可能な木材調達のための「木材調達理念・方針」を発表。行動原則や具体的数値目標を掲げた行動計画まで定めました。

新井氏は、行動原則の中の「サプライヤーとの直接対話を重視する」という点に、住友林業らしさがあると言います。「山や森林は、歴史をふり返ってもわかるように、人間によってどうにでもなってしまうもの。書類審査だけでなく、サプライヤーと直接対話して、その人間性に触れる。利益追求だけでなく、地球規模の環境や社会的な影響を考えて堅実な協力関係を築ける人とビジネスをしたいという姿勢の表れです」

とはいえ、「この理念・方針には、なお課題がある」と、新井氏は言います。森林の持続可能性には、生物多様性や保護価値の高い森林といった明確に統一された基準がない概念が含まれています。希少な動植物を保護するというレベルから進んで、生物多様性の保全を突き詰めていくと、林業自体ができなくなってしまう可能性があるからです。「事業との折り合いをどうつけていくのか。理念や方針を生きたものにするため、この課題に取り組み続けていきます」

「涼温房」と「旧家のリフォーム」

ハウスメーカーとして注目されている取り組みが、「涼温房」と「旧家のリフォーム」です。「涼温房」は、いわば住宅版ウォーム・ビズ、クール・ビズ。日差しや風など自然を利用する日本の伝統的な家づくりの知恵(障子や欄間、簾など)に、現代の技術(断熱材、ペアガラスなど)を必要なだけプラスして、夏涼しく冬温かい、衣替えできる家づくり、住まい方の提案を行っています。

また、「旧家のリフォーム」は、ライフスタイルや現在の建築基準法に合わせて旧家をリフォームする事業。全国各地でニーズの高い事業の1つで、歴史と伝統を大切に考える住友林業らしい取り組みです。

両事業に共通するのは、今あるすべてのものを、必要に応じて活かすということ。自然の風を活かし、日本人が継承してきた生活文化を活かし、現代のテクノロジーも要所に施す。「化石燃料を使ったものに頼り過ぎず、伝統を守るだけにとどまらない、住む人が本当に快適と感じる家をつくることが、ハウスメーカーとしての住友林業らしさです」(新井氏)

山林と都市を、木と人の心を緑でつなぐ活動

住友林業グループの住友林業緑化は、企業などの緑地資産活用コンサルティングサービス「エコアセット」を、インターリスク総研、鹿島建設、国際航業と協同で行っています。住友林業は、300年にわたって培ってきたノウハウで、緑を介してクライアント企業のお手伝いをしています。

21世紀の里山「トヨタの森フォレスタヒルズ・モデル林」、屋上緑化した一部を農園にして近隣住民に開放する「三井住友海上駿河台ビル」、ラムサール条約認定湿地、北海道・クッチャロ湖に大同特殊鋼が所有している500haの土地の保全活動(「浜頓別プロジェクト」)などがそれにあたります。

また、熱帯雨林の再生のために研究されたクローン技術を活かし、文化的価値の高い京都・醍醐寺のシダレザクラ「土牛の桜」を後世に残すべく、クローン苗生産も行いました。この技術は、絶滅が危惧されている樹種の保存にも役立つと期待されています。

「こうした環境緑化の活動では、住友林業の名前はあまり表に出ないので、知らない方が多いと思います。しかし、街に緑が増え人に喜んでもらえたら嬉しいですし、歴史ある木を次代に継承することは大切なこと。山林と都市を、木と人の心を緑でつなぐ。そのお役に少しでも立てることが私たちの喜びです」(新井氏)

地球温暖化によって、森や木の大切さ、環境問題への市民の意識も高まってきています。最近、住友林業は「教育」に力を入れています。2006年からは、"森の博士"に扮した住友林業社員が案内役となり、クイズやエコハウスの模型づくりを親子で楽しみながら、環境問題を学習するプログラム「夏休み親子エコロジースクール」(朝日新聞・朝日小学生新聞主催・住友林業協賛)をスタートしました。『まんがでよくわかるシリーズ 森と木のひみつ』(学研)の本づくりにも、森林経営関連の企業を代表して全面協力。全国の小学校、公立図書館に無償配布しています。

「都市空間においては、自然がもたらす快適さを、ありとあらゆる面に活かしていきたいと考えています。技術との融合を図りながら、古来より受け継いできた自然と共生する暮らし方や環境とのかかわり方を、木を軸とした事業を通して、住友林業はこれからも提案していきます」(新井氏)


(スタッフライター 青豆礼子)

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