ニュースレター

2007年08月01日

 

リスクマネジメント分野から持続可能性を推進 - 株式会社イー・アール・エス

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JFS ニュースレター No.59 (2007年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第61回
http://www.ers-co.co.jp/

イー・アール・エス(ERS:Engineering and Risk Services)は、不動産にかかわるリスクマネジメントサービスを行う企業です。「企業には永続的繁栄を」、「投資家には健全な資産運営を」、「市民には安全な暮らしを」を企業理念に掲げ、建物や土地の安全性を調査する高度な技術をもって得た情報を、企業や投資家など広く一般に提供すべく1998年に設立されました。

日本では折しも、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(SPC法)」が制定され、不動産の証券化が動き始めたときで、投資家が建物や土地についての情報、特に土壌汚染などリスクに関する情報の必要性を感じ始めた時期でした。当時の日本には、そうした情報を提供する会社はなく、ERSという企業の存在は、市場の側のニーズと呼応するものでもありました。

しかしながら、設立当初、ERSの「持続可能性」を100%信じていた人は、「7人の設立メンバーの中にさえ、いなかったかもしれませんね」と明かすのは、設立者の一人、同社副社長の安藤廉氏です。

その背景には、それまでの日本経済が「モノをつくってなんぼ」の世界であり、情報を必要としながらも、情報にお金を出すという意識が育まれていなかったことや、企業や市民をリスクから守るのは国の仕事だという感覚が強かったことが挙げられます。

目指している方向性には確信がある。しかし、それをもって企業を存続させるだけの環境が目の前にないという状況の中、「いつ潰れてもおかしくない」と思いながら7人で始めた企業が、9年たった今も潰れるどころか着実に成長し、企業理念に則って50名の社員がクライアントに多様なサービスを提供し続けています。

コアビジネスは「調べること、伝えること」

ERSは、不動産・金融の分野に特化した日本初のリスクマネジメント事業体です。設立当初から次の3つのサービスを提供してきました。
・デューデリジェンス--エンジニアリング・レポート(建物状況評価、地震リスク分析、長期修繕計画、遵法性)
・土壌環境評価(フェーズ1、フェーズ2)
・災害リスクマネジメント(地震、風水害、火災等)

デューデリジェンスとは、不動産の売買や証券化の際に行われる「適正評価手続」のことです。ERSは、そのうちの物的調査と呼ばれる、建物状況評価や地震リスク分析などの調査・分析・評価、コンサルティングを行っています。

土壌環境評価は、企業の環境経営に必要な情報を提供するサービスです。土地取引や不動産の証券化、不動産鑑定、資産管理などの場面で、土壌汚染リスク評価(フェーズ1)、土壌環境調査(フェーズ2)をレポートし、適切な対策の提案から、対策費用の算定までを行うサービスです。

災害リスクマネジメントは、道路や鉄道などのインフラ施設や、企業のビルや工場などの施設の地震や火災などによる災害リスクを評価・報告し、コンサルティングするサービスです。

環境部部長の坂野且典氏によれば、「ERSのビジネスをかみくだいていうなら、調べることと伝えること」です。現在、ERSは国内で上場されている不動産投資信託(J-REIT)のうち、およそ半分の銘柄についてサービスを提供しているといいます。不動産証券化の立ち上がりのころ、日本を不動産投資先と考える海外の企業には、「情報を買ってリスクを回避する」というスタンスがすでに確立されており、ERSのサービスは必然であり自然なものとして受け入れられてきました。不動産への投資が活発になり、市場は今や30兆円ともいわれます。それに伴って、浸透するまでに時間のかかった日本の市場でも、情報を買うということへの垣根が低くなってきているようです。

「ただ、あまりにも急速に膨らんだ市場にカルチャーが追いついていません。法律を含めルールが未整備な状態にあります。この分野において、日本より10-15年ほど先をゆく欧米の国々が経験してきた多くの事例に学び、このビジネスを支えるベースとなる『的確な情報の元に、自分の責任で判断し行動する』という文化体系づくり、法整備にも、情報を通じて中立の立場から貢献したいと考えています」(安藤氏)

求められるブラウンフィールドへの取り組み

ERSでは、コアビジネスと同時に、2005年から環境部の坂野氏と佐藤利子氏が中心となって「ブラウンフィールド」についての研究と情報発信を進めています。

ブラウンフィールドとは、米国で10年以上前から使われている「汚染された土地」に関連する造語です。日本ではこの3月にようやく定義されましたが、米国では2002年に成立したブラウンフィールド法で、「危険物、環境汚染、汚染物質の存在、あるいは存在の可能性があるために拡張、再開発または再利用することが難しくなっている不動産」と定義づけられています。

土壌汚染という環境問題が、土壌と土地所有者だけの問題でなく、周辺地域を巻き込んだ社会問題を引き起こすこともあります。ブラウンフィールドを浄化し、活用可能な土地にすることは、単に土地をきれいにするだけでなく、社会的な安心をもたらすものでもあるのです。

欧米諸国は日本より早く土壌汚染が社会的な問題となり、その対策におけるさまざまな経験と教訓を持っています。ブラウンフィールドにはどのような問題があり、どういう役割の人が問題解決に当たり、どのような技術で解決したのかをリサーチすることは、日本がこの問題に直面したときの参考になると、坂野氏と佐藤氏は考えています。2005年から「全米ブラウンフィールド会議」に毎年参加し、学んだことをウェブやメールマガジン、セミナーなどで紹介しています。
http://www.ers-co.co.jp/topics/
全米ブラウンフィールド会議(English):
http://www.brownfields2006.org/en/index.aspx

「そのような情報発信活動に東京都や環境省などからも興味を示していただけるようになりました。背景には、2002年に制定された『土壌汚染対策法』が思うような成果をあげていないことがあるのかもしれません。例えば、浄化すれば活用できる土地とわかっていても、中小企業や個人が取り組むにはコスト負担が大き過ぎるという問題があります。ブラウンフィールドの理解を深め、法的・行政的な視点から経済活動しやすい仕組みづくりを、問題が深刻化する前に整備していかなければなりません。メールマガジンで、自治体などで地道に行われているすばらしい取り組みを海外などに伝えてきたことが、何かの助けになればとも思っています。」(坂野氏)

情報はつながるためのソフト

急成長した不動産への投資ビジネスの世界で、ERSは健全な市場を「創る」べく、厳格な中立性を保ち、科学的アプローチと豊富なデータベース、技術者の的確な判断において、事業を持続してきました。

社団法人建築・設備維持保全推進協会(BELCA)のガイドライン改訂への参加、環境省の土壌汚染対策実態調査の英訳など、国内だけでなく国際的に遜色のない市場のフォーマットづくりにも、積極的に持てる技術、情報を提供しています。

今後、不動産に関するリスクマネジメントのニーズは、ますます表面化・多様化することが予想されます。「ニーズを叶えるために必要な情報を探す技術は、すでにたくさんある」と、安藤氏は胸を張ります。「そうした技術に関する情報が、まだ広まっていないのはもったいないことだと思います。情報提供サービス企業として、リスクを回避したいニーズと、リスクを知るためのエンジニアリングを情報でつなげていく、それが使命です」

「きれいな土地に暮らしたい」。これは世界中の人々に共通する思いです。欧米諸国は、不動産投資に関しても、ブラウンフィールドの問題においても、日本より先に問題に直面し、解決のために動いた経験を持っています。その差は10年とも15年とも言われます。日本はまだその過程を経ていないが故に、危機感も少なく、見通しがきかないのかもしれません。

だからこそ、今やるべきことをやる。それがERSの一人ひとりを動かすものであり、その動きが、企業を持続可能に導くエネルギーとなっているのではないでしょうか。


(スタッフライター 青豆礼子)

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