ニュースレター

2007年08月01日

 

日本を低炭素社会にすることはできる!

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JFS ニュースレター No.59 (2007年7月号)

-「脱温暖化2050プロジェクト」の中間報告より

はじめに

2007年6月にドイツのハイリゲンダムで行われた第33回主要国首脳会議(G8サミット)では、地球温暖化問題が主要議題として討議され、「2050年までに温室効果ガス排出を少なくとも半減させることを真剣に検討する」としたサミット議長総括が発表されました。これにより「ポスト京都議定書」の議論が本格的に動き出すと期待されています。

2050年をターゲットとした脱温暖化の検討は欧州を中心に行われていますが、日本でも環境省の地球環境研究総合推進費の戦略的研究プロジェクトが進められています。2004年度にスタートした「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト」(通称:脱温暖化2050プロジェクト)です。国立環境研究所と京都大学が中核となって、日本の大学・研究所・企業から、環境、エネルギー、経済、産業、交通、都市、国際政治など幅広い分野の研究者約60名が参加しています。

そのうち、国立環境研究所、京都大学、立命館大学、みずほ情報総研(株)が中心となっている「2050日本低炭素社会」プロジェクトチームは、「2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討」と題する3年間の成果報告書を2007年2月15日に発表しました。その結論は、「我が国が、2050年までに主要な温室効果ガスであるCO2を70%削減し、豊かで質の高い低炭素社会を構築することは可能である」というものです。以下にその概要を紹介しましょう。
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2007/20070215/20070215.html

研究の目的

気候の安定のためには、世界の温室効果ガス排出を2050年までに現在の50%以下にする必要があり、一人当たりの排出量の大きい先進国は、大幅な削減が必要という背景を踏まえ、本研究では、2050年の日本において、CO2排出量を1990年に比べて70%削減した低炭素社会実現の可能性について研究しています。

検討手法

本研究では、2050年の望ましい将来のシナリオを想定し、それを実現するための道筋を考える、「バックキャスティング」手法を採用しています。シナリオには経済発展・技術志向のシナリオA、地域重視・自然志向のシナリオBと将来像に幅を持たせた想定とし、それぞれの社会像をブレーンストーミングにより定性的に、例えば、家庭生活ではどのようなサービスを必要とするか、どのような都市・住宅に住んでいるか、産業構造がどのように変化しているか等々を描き出し、これを定量化し、エネルギーサービス需要を推計します。

検討の前提として、一定の経済成長を維持する活力のある社会としており、シナリオAでは、一人当たりの国民総生産(GDP)成長率を年率2%。Bでは1%を想定しています。人口は、2000年に1億2700万人だったのが、少子高齢化の継続で2050年にはAで9500万、Bで1億まで減少し、世帯数は2000年の4700万世帯が、2050年のAでは4300万、Bでは4200万になると推計しています。これにより、GDPは2000年に比べてAでは約2.0倍、Bでは約1.5倍になります。

さらに、衣食住や娯楽などのサービスレベルの維持・向上を図る、モーター駆動自動車(電気自動車や燃料電池自動車)などの革新的な技術は想定するが、核融合などの不確実な技術については想定しない、原子力などの既存の国の長期計画との整合性を図ることを前提としています。

1990年比CO2排出量70%削減は、

エネルギー需要の40-45%削減とエネルギー供給の低炭素化によって可能

需要側のエネルギー削減は、一部の部門でエネルギー需要増があるものの、人口減や合理的なエネルギー利用によるエネルギー需要減、エネルギー効率の改善で可能となります。

各部門でのエネルギー需要量削減率(2000年比)は、次のように見積もられています(幅はシナリオAとBの違いによる)。

産業部門:構造転換と省エネルギー技術導入などで20-40%
運輸旅客部門:適切な国土利用、エネルギー効率、炭素強度改善などで80%
運輸貨物部門:物流の高度管理、自動車エネルギー効率改善などで60-70%
家庭部門:建て替えにあわせた高断熱住宅の普及と省エネ機器利用などで50%業務部門:高断熱ビルへの作り替え・建て直しと省エネ機器導入などで40%

このようなエネルギー需要量の減少に加え、エネルギー供給のさらなる脱炭素化が必要になります。シナリオAでは原子力や水素など大規模なエネルギー源および炭素隔離貯留(CCS)技術が、Bでは太陽光や風力、バイオマスなど比較的小さい分散的なエネルギー源が選択されるとともに、エネルギー効率の改善の組み合わせで低炭素化が図られます。

この2050年CO2排出量70%削減に関わる低炭素技術の年間直接費用(括弧内はGDP比)は、Aでは8兆9千億円(0.83%)-9兆8千億円(0.90%)、Bでは6兆7千億円(0.96%)-7兆4千億円(1.06%)と、GDP比で見ると1%程度と算出されています。

2050年までの低炭素技術導入の道筋の検討では、資本の耐用年数などを踏まえて、早期に省エネを進めることが最適な対策の経路であるという結果が得られています。省エネ投資の導入を遅らせて削減目標を達成した場合、より限界費用の高い技術の導入が必須となり、早期投資より損失が大きくなると推定されるので、新投資の機会を逃すことなく省エネ投資をしていくことが肝要です。

低炭素社会の実現には、今まで以上の技術と社会の変革速度が必要になります。少ないエネルギーでGDPを産み出す「エネルギー集約度(エネルギー量/GDP)」の改善速度は、年率2%程度(従来最大1.5%程度)まで加速する必要があり、またCO2排出の少ないエネルギーに転換する「炭素集約度(炭素排出量/エネルギー量)」の改善速度は、CCSの利用がなければ、従来の改善率以上が必要となります。

一方で、資源の制約から脱物質化が進み、GDPが伸びてもエネルギーサービス量は伸びないことが必然となり、これによりエネルギー集約度改善速度の0.5-1%が達成できます。報告では、今後は熾烈な社会変革および技術競争が始まると指摘しています。

報告では最後に、次のように提言しています。「低炭素社会を実現するためには、今後当然見込まれる産業構造転換や国土インフラ投資を早期から低炭素化の方向に向けて粛々と進めていかねばならない。その上に、省エネルギー・低炭素エネルギー技術開発と投資、利用を加速する必要がある。政府が強いリーダーシップを持って、早期の目標共有、社会・技術イノベーションに向けた総合施策の確立、削減ポテンシャルを現実のものとするための強力な普及・促進策の実施、長期計画にもとづく確実な政府投資の実施と民間投資の誘導を推進してゆくことが必要である」。

今後の展開

本プロジェクト研究の後期(2007-2008年度)においては、2050年に至る道筋における投資の手順や経済評価、誘導するための政策評価を進める予定です。

本プロジェクトは国際協調の下に進められており、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)での交渉と平行して、先進国・途上国共通の未来に向けた低炭素世界づくりを草の根的に推進しています。

環境省は2006年2月、英国と共同して科学的研究プログラム「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」を発足させました。本共同プロジェクトは、日英が連携して2050年における低炭素社会を実現することを目指した研究を実施するとともに、世界各国の同様の研究を集大成する国際ワークショップを継続的に開催し、国際的な政策形成に貢献することを目指すもので、日本側は「脱温暖化2050プロジェクト」が中核となって進めています。

途上国を含めた約30ヶ国とともにすでに2回の国際ワークショップが開催され、第3回は、2008年2月13日-15日に東京で開催が決まっており、同年7月に日本で行われる第34回G8サミットに向けた世界の低炭素研究の集約を行う予定になっています。

「地球温暖化」が主要議題となる同サミットで、本プロジェクトおよびワークショップの成果が大いに活用されることを期待しています。

日英共同プロジェクト:
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/2050proj/press/index.html
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7232
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=8493

脱温暖化2050プロジェクト:
http://2050.nies.go.jp/index_j.html


(スタッフライター 小柴禧悦)

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