ニュースレター

2007年07月01日

 

食育から地球環境を変えていこう

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JFS ニュースレター No.58 (2007年6月号)

食育とは

日本の食文化は米を主食にして、その季節に手に入る食材(「旬」と呼びます)を取り入れた日本ならではの食生活を形成してきました。日本食は長寿食として世界中の人々に注目されています。しかし、1990年頃から、日本はモノや情報が溢れる消費社会の中で、食の多様化、簡素化、外部化(外食および惣菜・調理済み食品などの利用)、欧米化などが急速に進み、食のあり方や、食を取り巻く環境が急速に変化してきました。日本人が培ってきた規則正しい食事、栄養バランスの取れた食事、食べ残しや食品の廃棄に配慮した調理、家族が食卓を囲む楽しい食事など、健全な食生活が見失われつつあるともいえます。

これらの食をめぐる問題の解決を目指す取り組みが「食育」です。2005年6月に成立された「食育基本法」の前文では、「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるべきと位置づけられ、経験を通して、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるもの」とされています。

同法では、方向性として「食に関する感謝の念と理解を深めることや、伝統のある優れた食文化の継承、環境と調和した生産などへの配意及び農山漁村の活性化と食糧自給率向上への貢献など」をあげています。食育基本法の制定推進役を務めた服部栄養専門学校理事長の服部幸應氏は、食育の3本柱として、「選食力」「食事作法を身につける」「地球の食を考える」を提唱し、食育運動をすすめています。

「食育基本法」の制定

食育をめぐる行政の動きを遡ると、文部科学省では90年代半ばから、自ら学び考える「生きる力」を養うという健康教育に力を入れており、農林水産省では地産地消や食糧自給率の問題に取り組んでいました。このような中、BSEの発生や食品の安全をめぐる問題が契機となって政府の課題として浮上し、2002年11月、文部科学省、厚生労働省、農林水産省の三省連携による食育推進連絡会議が設置されました。教育関係者や栄養士のいう「食教育」「食に関する指導」、農業関係者による「食農教育」や民間による米飯給食普及運動や子ども向け料理教室などのすべてが「食育」という語に収れんされ、食に関する取り組み・教育の総称になっていきました。

食の安全、情報の氾濫、食の海外依存、生活習慣病の増加など、日本が抱えるさまざまな問題や不安を解消するために、一人一人が正しい食の知識を身につけ、食に関する意識を向上させることが望まれています。そして、家庭、地域、学校が連携し、食の文化を継承しながら都市と農山漁村の交流・活性化を図り、食べものや食べ方を大切にすることを共有し、心と体の健康を増進できるように、食育が国民運動として推進されることが求められています。

「早寝早起き朝ごはん」運動

今日の子どもの学習意欲や体力の低下、肥満、キレやすいなど、子どもの心と体の異変は、家庭における食事や睡眠などの基本的な生活習慣の乱れと相関関係にあると指摘されています。朝食の欠食率は増加傾向にあり、7-14歳では3.0%、20歳代男性では34%(2004年厚生労働省「国民健康・栄養調査」)となっています。

この状況の解決策として、文部科学省は、早寝早起きや朝食をとることが望ましい基本的生活習慣を育成し、さらには生活リズムを向上させることにつながると考え、「早寝早起き朝ごはん」運動を食育の推進策に設定しました。2006年には、「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が設置され、地域全体で家庭の教育力を支える社会的機運を醸成するために、民間主導の全国的な普及啓発活動の展開が始められました。

徳島県阿波市立市場小学校、 よってたかって「味噌汁プロジェクト」

地域を大切にしながら食育を進めている、徳島県阿波市立市場小学校の藤本勇二先生による「とくしま味噌汁プロジェクト」を紹介しましょう。

市場小学校は文部科学省により、学校・家庭・地域が一体となった環境教育の実践に取り組む市町村のモデル地域に指定されたことをきっかけに、食育に取り組んでいます。環境教育主任である藤本先生は、長年にわたり「食農教育」に関わり、各教科・総合学習との連携を図りながら、子どもたちが主体となれる授業を仕掛け、「よってたかって」地域と交流しながら生きる力を育てる教育を展開しています。

市場小学校でも、朝食を食べてこない子や夜型生活のため午前中、集中力を欠く子が目立つようになってきた中、「とくしま味噌汁プロジェクト」の発想が生まれました。身近な食である味噌汁を取り上げ、味噌汁の具調べから徳島県内3校で交流学習を行うことにより、朝食をしっかり食べる大切さから地域の良さの気づきへ、さらにはエコクッキングの実践、食糧自給率の問題へと発展していったのです。

1学期は味噌汁の具調べと味噌の仕込みを行いました。2学期は手作り味噌と地域の具でこだわりの味噌汁を作り、その準備として、旬について学び、「どうして旬がなくなってきたのか」と栽培技術の発達、貯蔵冷凍技術の発達、輸入の増加などが原因であることに関心を向けました。

さらに、地産地消と環境問題についても触れました。これは2005年に行った「地産地消うどんを作ろう」の学習成果を踏まえたものです。「地産地消うどんを・・・」の学習では農政局の担当者を招いて、食糧自給率の現状や地産地消の可能性をについて話してもらいました。「輸入がストップしたらたいへんだ」「輸入すると環境にも負担がかかる」「食の安全の問題もある」と外国に食料を頼ることの危険性を理解しました。

10月末には、交流学習をすすめている宍喰小学校から、子どもたちの手作り「だし」、鳴門東小学校からは立派な「ワカメ」が届き、一学期に仕込んだ手作り味噌を使って、環境に配慮したエコクッキングを取り入れた味噌汁作りが行われました。旬の食材と、交易で得た食材を生かした味噌汁を作っていた昔の暮らしを授業で再現できたのです。手作り味噌の樽を開けたとき、子どもたちから「いい味噌の匂いや」と感動の声があがりました。

3学期は地域の「旬」の野菜を見つける取り組みをしました。藤本先生は、「味噌汁という素材は普遍と特殊という性格を備えているため、全国交流学習への展望が開けるのではないか」と、徳島での実践をもとに、「味噌汁プロジェクト」を全国に展開していくことを提案しています。

「早寝早起き朝ごはん」運動がきっかけとなって、子どもが授業に集中できるようになった、大人も生活リズムが改善し健康増進につながった、家族団らんの時間が増え地域とのつながりができたなど、さまざまな効果が報告されています。
http://www.ruralnet.or.jp/syokunou/200611/01_1.html
http://syokunou.net/modules/popnupblog/index.php?param=6
http://www.tcu.or.jp/syougakkou/ichiba/ichiba/kankyou/kankyou.htm

平和堂の食育活動宣言

スーパーやコンビ二に行けば、お弁当やおにぎりやお惣菜が手に入るというように、食の簡素化志向の高まりや外部化が進展するにつれ、食品産業の果たす役割は、より重要となってきました。中でも食品スーパーマーケットは、単に食品を販売するだけではなく、売り場や商品を通して、消費者とのコミュニケーションの中で、消費者が望む食に関する情報や知識を伝えていくことが期待されています。

1957年の創業以来、94の店舗を展開している総合小売業、平和堂(滋賀県彦根市)は、食の流通に関わる企業の社会的責任(CSR)として、健全な食生活や健康で豊かな人間性を育むために、食の大切さを伝える「食育活動」を行っています。

平和堂のホームページならびに同社の社会・環境報告書によると、平和堂は、「食育活動推進委員会」を組織し、2006年5月にはホームページ上で、「食の安全・安心」と「健康な食生活」の実現を目標に、健康で豊かな人間性を育むために食の大切さを伝えていく体験活動に取り組むという、食育活動宣言を行いました。

同社は、"1日に5皿以上の野菜や200g以上の果物を食べよう"というファイブ・ア・デイ活動や、食品メーカーと連携しての食生活向上の情報提供、店頭の地場野菜の比率を年々引き上げるなどの地産地消の活動、栄養や日本の食文化が受け継がれてきた調理法を紹介した冊子を発行して、伝統文化を啓発するなどの取り組みを行っています。
http://www.heiwado.jp/syokuiku/
http://www.heiwado.jp/eco/eco_report.html

食は誰もが毎日の生活の中で関わっていることです。その中で、自分自身の食生活を振り返ったり、毎日の食事をちょっと気にかけたり、さらには、地域や地球のことを考えて、環境に優しい食のあり方を選択していくこと----それが私たちにできることではないでしょうか。

関連資料:
平成18年度版食育白書
http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/whitepaper/2006/book/index.html


(スタッフライター:湯川英子)

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