ニュースレター

2007年07月01日

 

共感を売り、新たな価値を生み出す - エコ産業創出協議会

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JFS ニュースレター No.58 (2007年6月号)

「環境にやさしい」モノづくりを超えて

東京湾に面した京浜臨海部は、明治の後期から埋め立て造成が始まり、その後、大正時代に現在の主要工場の大半がつくられ、今日の工業地帯の骨格が形成されました。日本を代表する四大工業地帯の一つとして、長らく日本経済を牽引してきましたが、1970年代のエネルギー危機以来、産業構造の転換に伴い、重化学工業企業の再編や工場の移転などによって、活力の低下が懸念されてきました。

この臨海部を活性化し、20世紀型の工業社会ではない、新しいエコ的な社会デザインのモデル地区にしようと、地元神奈川県と、資源リサイクルビジネスを手がけるアミタ株式会社で始めたグリーン経済特区の構想をきっかけに、2002年2月に「エコ産業創出協議会(以下、協議会)」が発足しました。省資源、省エネルギー、省廃棄物というコンセプトで、「もったいない」精神を発揮した社会実験を行う、企業と自治体のネットワーク組織です。

協議会のめざす「エコ産業」とは、単に「環境にやさしい」モノづくり産業ではありません。現在は、工業中心社会を是とした政策が基盤にあるため、産業が伸びれば伸びるほど、自然資本も社会資本も劣化する、バランスの悪い仕組みができています。ところが、物販をメインに、人々の欲望に火をつけるという社会経済モデルだけでは、私たちは精神的な充足感を得ることができません。

「関係性、つながり、信頼を取り戻すため、共感を売り、新たな価値をつくりたい」。アミタ株式会社代表取締役社長で協議会会長の熊野英介氏は、協議会のめざす持続可能な社会経済は、そうした関係性の上に成り立つ、まったく新しい社会デザインだと考えています。こうした取り組みは、なかなか一社だけではできません。複数の企業が集まり、仮説検証を繰り返すことで、ビジネスイノベーションのヒントを手にいれることができるのが、この協議会の大きな特徴です。

コラボレーションによるイノベーションを取り組みの基盤にすえた協議会には、2007年6月現在、16社の企業と自治体が会員として参加し、現在は3つの分科会に分かれ、さまざまな研究・実験が行われています。使用後のリサイクルまで考えて商品を設計する「エコデザイン工房」分科会のほか、狭義の「産業」にとらわれず、住民と事業者が協働でまちづくりを進める「YUIタウン」分科会に加え、安全で安心なサステナブル社会をめざす「安心安全デザイン」分科会など、ユニークな取り組みも始まっています。

3Rの次に来るリファービッシュ

これまでの活動のなかで、事業化に向けて動いた事例としては、「リファービッシュ」事業があります。リデュース、リユース、リサイクルという3つのRはよく聞きますが、その次に来るもうひとつのRがリファービッシュ(磨き直し)です。一次使用後の製品をリファービッシュし、付加価値をつけて新たな製品として販売することで、製品のライフサイクルを延長し、廃棄物を減らし、環境負荷を減らすことを目指して活動してきました。

あらゆるモノがリファービッシュの対象になりますが、協議会では、環境負荷が高く、緊急の課題である「中古トラック」のリファービッシュというモデル事業に乗り出しました。

各種排気ガス規制が強化される中、古い車種をそうした規制にも対応するようリファービッシュすることで、基準を満たす車両への乗り換えを促すことが目的です。さらに、新車への入れ替えが進む過程で、基準を満たさない中古車両が、市場、特に海外の市場に流出し、結果的に「公害の輸出」を進めることにならないようにする狙いもあります。

この事業には、オリックス、イフコ(現・オリックス自動車)、アミタ、JFEホールディングス、日本工営、コクヨの6社が、新しいビジネスモデルを研究したいという想いで参加し、それぞれの強みを生かして試行錯誤を重ねてきました。これまで、神奈川県の補助や環境省の委託を受け、本格的な事業化に向けた課題を探り、技術・コスト両面からリファービッシュ車の実用化をめざした試作・販売実験を行いました。

共通の思いが支えるコーポラティブタウン

神奈川県の北西端に位置する藤野町は、人口1万672人(2007年5月現在)。都心から1時間ほどしか離れていないにもかかわらず、清流が注ぎ豊かな水をたたえる相模湖を抱き、周囲を500-1,000メートルの低山に囲まれた自然豊かな町です。「芸術の町」ともいわれ、多くのアーティストが集まり、各種芸術のイベントが盛んに行われています。

この藤野町を舞台に進められている取り組みが、「YUIタウン」分科会です。

「YUI」という名の通り、相互扶助の考え方である「結」の思想を具現化した、持続可能な「コーポラティブタウン」の創造をめざしています。

コーポラティブタウンとは、コーポラティブハウスのまちづくり版で、コミュニティに対して、共通の思いやニーズを持って集まった住民・事業者が、協働して創造的にまちづくりを進める仕組みです。「結」の考え方に基づき、地元の木材のマテリアルリース、エコツーリズムなども重視しながら、地域の個性を生かした事業を住民参加型で進めようというものです。

たとえば、農業を始めてみたいけれど、平日は仕事で畑に手をかけられない人がいる一方で、自給的な農業を営み、時間に余裕のある、畑仕事はベテランという年配の住民がいます。何年も見捨てられていた遊休地を、週末だけ農業に取り組みたい人に貸し出し、地元住民が平日の管理を担うようになれば、そこには企業誘致に頼らない新たな産業が生まれます。土地や住居を、所有や投資の対象と見るのではなく、「結」を実践するために利用することで、人々の協働や信頼に形を与えることができます。

このように、ハードだけでなくソフトの面からも、広義のエコ産業を生み出していこうというのも協議会の特徴です。

持続可能な社会デザインのプロトタイプを

こうした試みが新しい社会モデルとなるには、さまざまなバリアを超えなければなりません。リファービッシュ車の例では、せっかく民間企業のコラボレーションで事業化の実証実験を重ねても、車検の手続き上、なかなか実用化に踏み切れないという課題に直面しています。YUIタウンでは、2007年3月に藤野町が相模原市に合併されたことで、地元自治体との新たな調整の必要が出てきました。民間主導といえども、真のイノベーションを生み出すには、国の施策への働きかけや、地方行政との連携が欠かせないことがわかります。

目に見える成果を上げるには時間がかかりますが、それでも、コラボレーションを通じてこうしたトライアル・アンド・エラーを続けることで、協議会のメンバー企業は、どこにどのような課題があり、その解決の糸口を探る実験をできること自体が大きなメリットです。ビジネス書には載っていない、現実の課題解決を学ぶ機会となっているのです。

熊野氏は「中小企業こそ、こうしたメリットを生かす機会を積極的にとらえてほしい」といいます。現在、協議会の会員は比較的大手の企業が中心です。そこで、もっと多くの中小企業に仲間になってもらい、大企業をある意味で「利用」するくらいの気構えで、イノベーションを起こそうという機運を盛り上げていきたいと考えています。さらに、国内企業・自治体だけでなく、海外やNGOからも知恵を寄せ合い、持続可能な社会デザイン、特に地球規模の環境問題の解決に向けた、新しいプロトタイプをつくる仕組みを展開する予定です。

大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムから脱しようと、さまざまな「環境に配慮した」製品がすでに生み出されています。しかし、いくら原材料を減らしてリサイクルでつくられても、十分に活用されず、廃棄物を大量に出し続けている限り、本質的な変化を遂げたとはいえないでしょう。協議会では、多くの知恵を寄せ合い、学びあいながら、真の持続可能な社会経済をめざして、幅広いエコ産業創出の促進・支援を続けていきます。


(スタッフライター 小島和子)

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