ニュースレター

2007年06月01日

 

企業とともに「人が森を助ける。森が人を助ける。」 - 高知県、森の力

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.57 (2007年5月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第15回
http://www.pref.kochi.jp/index.php

新しい仲間

日本全国で県面積に対して森林率が一番高い県はどこか、ご存知でしょうか? それは高知県です。森林率は84%にも及びます。この豊かな森林を抱える高知県が、このほど初めての【自治体会員】としてJFSに加わってくださることになりました。今回は、この高知県の特に森林に対する取り組みについて、ご紹介します。

高知県の森林

高知県は本州から瀬戸内海を隔てた南西に位置し、4つの県からなる四国という島の中の一番南側にある県です。太平洋を臨む海岸線は長く、日本最後の清流といわれる四万十川が流れており、気候は冬も温暖であるため、プロ野球のキャンプ地としても有名です。

高知県の森林は約6割が人工林で、そのほとんどが1960年代の高度成長期に植林された樹齢40年を超えた木で、60年を超えた木も少なくありません。本来ならば、すでに木材として伐り出し始めなければならないのですが、1970年頃から海外からの安い木材が輸入されるようになって、国産材の価格が大幅に低下してしまいました。そのため、林業経営は困難になり、林業就業者数も約30年で4分の1に減少、森林の手入れをする人手が不足することとなり、結果として森林が荒れ果ててしまったわけです。

こういった現象は高知県に限ったことではなく、林業に関わる各地域の共通の課題です。日本の森林は急峻な山地が多く、伐り出すのに大変な労力と技術を要することも、森林を荒れさせる要因の一つでもありました。しかし、そのまま手をこまねいていては、日本の森林は荒れる一方になってしまいます。各地でさまざまな工夫がなされていますが、高知県が行ったことは、これらの森を企業と一緒に手入れをするということでした。

協働の森事業推進チームの創設

荒れてしまった森を、何とか緑の森に甦らせたい。高知県は熱い思いを抱いて、企業へのアプローチを始めました。この取り組みは、当初、2004年に橋本大二郎高知県知事が森林の吸収源を活用した「排出権取引の推進」を選挙公約として発表したこと、翌年に京都議定書が発効することを受け、文化環境部内に新たにできた「排出権取引推進」の特命チームで始まりました。

しかし、残念なことに国内における排出権取引制度の創設は、検討課題として先送りになってしまいます。そこでチーム統括者の市原利行さんは「協働の森事業推進チーム」を創設し、排出権取引制度を視野に入れつつも、基本視点を企業の社会貢献を含むCSR(企業の社会的責任)活動に変更して、企画を推進していくことにしました。

「協働の森事業」とは、高知県の森林環境を活用した企業の社会貢献、環境貢献、さらには新しい社会的サービス・事業の創造として環境ビジネスの可能性を探るというものです。2005年8月の政策協議で、森林が有するCO2吸収機能を柱とした企画でとりまとめることで方向を確認、9月には事業名を「環境先進企業との協働の森づくり事業」とすることが決まりました。市原さんは早速、手作りのパンフレットを持って企業回りを始めました。企業による森づくりの呼びかけが始まったのです。

環境先進企業との協働の森づくり事業:森の力
http://www.pref.kochi.jp/~junkan/kyoudouno_mori/kyoudounomori_top.htm

森の力

そこからの活動が大変だったと、市原さんは振り返って語ります。「訪問当初は、まず、間伐という言葉の意味を理解してもらうところから始めなければなりませんでした。次に"なぜ、高知県なのか"について、なかなか説明ができませんでした」。何事も当たって砕けろの気持ちでぶつかっていったのだと市原さんは笑いますが、その苦労は大変なものだったようです。高知は遠すぎる、といった指摘もありましたが、事業への協力要請や商品企画のアイデアを求めて企業訪問は続きました。

事業は企業と高知県、森林のある地元市町村の3者で交わされるパートナーズ協定から始まります。森林を再生させるための取り組み場所を特定すること、森林再生のための協賛金の提供、地域との交流が促進されることが協定の基本事項です。協賛金を森林整備や環境教育に使用する代わりに高知県が用意したのは、「森の力」のシンボルマーク、パートナーとなってくれた環境先進企業の情報を高知県から発信すること、1年間の活動の定期報告、実際に高知県の森林を活用して行う企業の森林活動を地域や地元の団体などをつないでサポートすること、それから森林そのものです。

どのような形で「森の力」を活用し、どのような形で協働していくかは定めていません。パートナーとなってくれる企業は、それぞれに個別事情や要望が異なるため、あえてメニューを固定化せず、企業とともに考えていくハンドメイドの協定を高知県は選んだのです。

パートナーズ協定(締結事例)
http://www.pref.kochi.jp/~junkan/kyoudouno_mori/jirei/kyoudounomori_jirei.html

高知県からのご提案
http://www.pref.kochi.jp/~junkan/kyoudouno_mori/teian/kyoudounomori_teian.htm

「森の大きな力を再生するパートナーになってください」。事業を説明するパンフレットには、大きく「森の力」と書かれ、そんなメッセージが添えられています。森林にはCO2を吸収する温暖化防止の機能がある。しかも高知県にとっては、昔から人々の生活の場、経済を支える場でもありました。

森を再生しなければならない。人が植えた森であるならば、人が再生させることも可能であるはずだ。そして森が再生されれば、人の生活も環境も活性化する。森を助けることが、結果的には人を助けることにもなるのだ。「森の力」のキャッチコピーである「人が森を助ける。森が人を助ける。」という言葉には、森林が抱える問題に正面から向き合った、高知県の強い思いが込められているのです。

森林の再生と地域の交流から、新たな取り組みへ

初めての協定が結ばれたのは、2006年5月、三井物産との協定でした。続いてキリンビール、さらに電源開発、四国電力、日本たばこ産業、損保ジャパンなど、現在(2007年5月末)は16協定を締結、協働の森林は全体で約1,000haになりました。各所で森林の再生事業が始まり、また山の手入れ体験ツアーなど、パートナー企業と地域との交流も行われています。受け入れ先の地元でも、他の地域からの訪問者との交流は地域の活性化が図れることや、中山間地に多く住む高齢者たちの生きがいにもなると喜んでいます。

高知県では、この7月から協定の約束の一つでもあった「CO2吸収証書」の発行を始めます。間伐などの整備が行われた協定森林のCO2吸収量を計算し、パートナー企業に発行するというものです。これにより、協定企業のメリットがさらに明確になると高知県では考えています。

また高知県は、2003年度から全国に先駆けて「森林環境税」の導入を行っています。これは県民税に一律500円を上乗せし、個人・法人ともに幅広く負担してもらうという森の保全を目的とした税金制度で、税金は主に「県民参加の森づくり推進事業」と「森林環境緊急保全事業」の2つに使われ、2003‐2006年度の4年間で約2,243万平方メートル分の森林を間伐しました。

森林環境税のページ
http://www.pref.kochi.jp/%7Eseisaku/kinobun2/hp_1/sinrinkankyouzei.htm

他にも県民が森林と身近につきあうことができるように、毎年11月11日を「こうち山の日」と定めて行うイベントを支援するほか、森林を生かしたグリーンツーリズム事業、体験学習のプログラム作り、そのための人材・組織の育成や経費の補助なども行われます。こうした取り組みのおかげで、アンケートでも県民の意識や山への関心も理解度が進んだという結果が表れています。

日本全国の森林で、同じような問題が起きている中、高知県の取り組みは注目を集めています。森林環境税も高知県をモデルとして2006年度までに16県が同税を導入し、2007年度以降も導入決定が3県、22府県が導入することを検討中です(2006年8月高知県調べ)。市原さんは協働の森作りでパートナーを組んでいる企業をつないで、地域だけではなく全国の方々との交流の場を開きたいと、まだまだ大きな夢があるようです。こういった地域の取り組みを、JFSも応援していきたいと思っています。


(スタッフライター 三枝信子)

English  

 


 

このページの先頭へ