ニュースレター

2007年05月01日

 

広がる環境コミュニティ・ビジネス

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JFS ニュースレター No.56 (2007年4月号)

日本では近年、環境コミュニティ・ビジネスへの関心が高まり、各地で実践が広がっています。環境コミュニティ・ビジネスとは、グローバルまたは地域の環境問題の解決につながる領域で、市民が主体となって、地域をベースとしたビジネスを行うことで、その問題解決に取り組み、同時に、コミュニティの再生や活性化を進める事業のことです。

特定非営利活動法人コミュニティビジネスサポートセンター代表理事の永沢映氏は、これまで起業にあまり関心のなかったシニアや主婦、学生などからの「コミュニティ・ビジネスを始めたい」との相談が増えている背景として、以下の要因を挙げています。

まず、一つめは「豊かさ」への認識が変わってきていることです。「食べるために働く」よりも「ゆとりが豊かさ」と感じる人が増えています。お金よりもゆとりや好きなことで働く、ワークライフバランスのある生活こそが豊かさと考える人が多くなってきているのです。

もう一つの大きな要因は、「協働」という言葉に示されるように、官と民のパートナーシップ、ビジネスとボランティアといったこれまでは相反すると考えられていたセクターや考え方が協働することによる事業の効率化や連携が始まっていることです。その中で「公益性」と「事業性」の両面を持つコミュニティ・ビジネスが、協働の担い手として地域で期待されているのです。

コミュニティ・ビジネスは、さまざまな課題解決の方法として期待されており、団塊世代の地域参加、地域経済活性化、地域雇用、商店街の再生、地域ブランドづくり、生き甲斐づくり、NPOの自立化など多様な課題解決策として実施されています。厚生労働省では、2003年から2012年の10年間で、約120万人もの雇用がコミュニティ・ビジネス分野で創出されると算出しています。

経済産業省では、地域の主体が連携し、地域の環境問題を経営的視点に基づいて解決しようとする「環境コミュニティ・ビジネス事業」を公募し、1件につき100-400万円程度の委託金を出し、豊富な経験と知見を持つ推進委員が事業の進め方などについてアドバイスを提供することによって、モデル事業を応援するという事業を平成16年度より続けています。

同事業の目的として、「地球温暖化問題への対応、循環型社会の構築の必要性が叫ばれている現在、地域社会においても持続可能な社会構造への転換が喫緊の課題となっています。本課題の解決のためには、事業者のみならず、市民、行政などの地域社会に存する主体が相互に連携・協働し、その有する人材、資源などを最大限有効に活用することが不可欠となっています。しかしながら、このような企業、市民、行政などが連携した活動は、その活動拠点、活動費用の面で必ずしも自立的に進展する状況になく、また連携のチャンス、ルートも限られているのが現状と言えます。

このため、経済産業省では、事業者、NPO、市民などの各主体が持つ能力が充分に発揮されるよう、地域において中小企業、市民などが連携し、地域が有する環境問題を解決しながら、地域を活性化する「環境コミュニティ・ビジネス」を公募により発掘し、その展開を支援します。また、その成果、課題などを評価し、広く普及・啓発を行い、持続的かつ効率的な環境改善を図ります」としています。

平成18年度にモデル事業として選出された環境コミュニティ・ビジネスには、北海道という寒冷地で廃食油の再資源化をはかるビジネスを展開しようという「バイオディーゼル燃料寒冷地ビジネスモデル構築事業」や、地元の特産物の廃棄物として排出されるかき殻を再資源化して、商業的に利用することで里海を保全しようというビジネスモデル構築事業、地元の川の3メートルという小落差を活かしてマイクロ発電事業を創出・運営することで、地域を自然エネルギー自給村にしようというプロジェクトなどがあります。

また、琵琶湖という観光地で、ソーラー技術と屋台船を融合させた"ソーラー和船"をつくり、レンタル事業を展開することで、環境に優しい観光業をサポートしようという事業や、同じく琵琶湖の富栄養化を防ぐヨシを二期作し、刈り入れたヨシを様々な形で商品化することで、湖水の浄化を事業化しようという事業もあります。

たびたび厳しい渇水に見舞われる福岡では、使用済みの酒樽などの資源を再利用し、雨水タンクを市民の自宅などに設置することで、貯水量を拡大し、潤いのある地域の水循環をみんなで再生する事業、沖縄では養殖サンゴの植え付けキットを作ることで、観光客がサンゴの植え付けを楽しめるようにし、地域の産業振興をはかるとともに自然環境の復元を進めようという事業もあります。

どの環境コミュニティ・ビジネスも、それぞれの地元の特性や特徴を活かし、さまざまな環境問題の解決とコミュニティの活性化をめざす事業であることがわかります。

永沢氏によると、従来型の企業は「事業」としていかに収益をあげ、拡大していくかという点に力を注いでおり、一方ではボランティアのような市民活動では「地域貢献」といった社会性を強調する側面がありますが、コミュニティ・ビジネスでは、その両方の利点を生かした仕組みづくりがポイントとなるそうです。

さらに、市民の視点から見た柔軟な発想による事業の検討や、人のネットワークを基盤としていること、地域課題の解決というような使命(ミッション)を求心力としていること、企業が対応できない地域と密着したニッチ的な事業、ボランティアとは異なる積極的な事業展開の側面を持っているなどの特徴があります。

環境コミュニティ・ビジネスには、福祉やその他のコミュニティ・ビジネスに比べて、3つほど特徴があると永沢氏はいいます。

第一に、専門性です。その商品がどれだけ「環境や健康によい」という信用性があるかを科学的に評価する必要があり、そのためには専門性が求められます。単に「使い捨てをやめてリユース食器を使えば環境負荷が低減する」といっても、「リユース食器を洗う際に水や洗剤を使うことでの環境負荷がかかる」といったデータも必要になります。ある食品を「健康的」とうたうには、何がどのように健康になるのかを示さなければなりません。

第二に、資金力が必要だということです。多くのコミュニティ・ビジネスが創業者の自己資金の範囲など、小規模な投資で創業しています。しかし、環境コミュニティ・ビジネスでは、研究費、プラントの購入や運搬、施設などコストがかかることも多く、銀行からの融資だけではなく、私募債、地域ファンドなど、幅広く地域での資金調達をはかる必要が出てくるでしょう。

第三は、地域連携です。全てを自分たちだけで背負うのではなく、足りない部分を地域の方と補完したり、自治体や企業、金融機関、大学、NPOなどと幅広く提携することです。特に環境コミュニティ・ビジネスでは、大学や研究機関の研究力や企業の技術力、自治体からの許可などが重要な鍵を握る場合が多く、「地域が豊かになる」という同じ目的を持っている多くの関係者と連携し、多くの人々を巻き込むことが必要です。

「環境問題の解決に向けて」「地域に必要なことを」「地域にあるもので」「自分が出来ることを」「地域のネットワークで補って」実施する環境コミュニティ・ビジネス。さまざまな課題に直面しつつも、実際に関わっている人々は、やりがいと手応えを感じつつ、とても生き生きと活動しています。その様子をみていると、このような環境コミュニティ・ビジネスが日本でこれからますます広がり、「地域のたづなは地域で握る」ことによる活動の効果と満足感を伴って、人も地域も、そして地球も元気にしてくれそうな気がしてきます。


(枝廣淳子)

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