ニュースレター

2007年04月01日

 

使用済み自動車は宝の山 車のシートをオフィスチェアに - ウィズ会宝株式会社

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JFS ニュースレター No.55 (2007年3月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第59回
http://www.with-works.jp/

2003年末には、世界を走っていた車は約8億4千万台でしたが、現在中国やインドで急速にモータリゼーションが進み、2010年には10億台に達するだろうといわれています。2005年、日本のメーカーは国内で1千万台、海外で1千万台、合計2千万台生産時代に突入、一方で、国内では毎年約500万台の自動車が使用済みとなります。2005年は、そのうち約130万台が中古車として輸出され、約370万台が適正処理されました。リサイクル率85%(2005年度実績、重量比)として計算すると、毎日1万台以上の使用済み自動車から、約2千トンのシュレッダーダストが発生します。

約1.1トンの車が使用済みとなった場合、その膨大な素材資源はどうなるのでしょうか? 自動車は鉄、アルミや銅などの非鉄金属、白金やパラジウムなどの希少金属、さらにプラスチック、ウレタン、ゴムなどの化学合成物質、ガラスといったさまざまな素材からできていて再生資源の宝庫です。これを完全にリサイクルする循環システムを作ることで、地下資源の枯渇を回避できます。今回はリサイクルが難しい自動車の座席シートをオフィスチェアとして再生した「トレジャーチェア」を提案する石川県金沢市のウィズ会宝の取り組みをご紹介しましょう。

日本では2005年1月に自動車リサイクル法が施行されましたが、自動車シートはウレタン、繊維、プラスチックなど複数の素材から構成されているため、破砕すると膨大なゴミになり、また、分解・再資源化するには多くの手間と費用がかかります。現在、どこも廃棄物の最終処理場の逼迫で困っているのが現状です。

一方、10台に1台の割合でまだまだ使える座席シートがあります。車の座席は長時間運転しても疲れないように、普通の椅子以上に機能性が追求されています。設計には人間工学の粋を凝らし、一般家具には使わないような高級機能素材も、ふんだんに使われています。自動車メーカーが莫大な開発費をかけて生産しているそんなシートを利用しないのはもったいない、とウィズ会宝は考えました。

ウィズ会宝では、自動車解体・部品リサイクルを行っている親会社の会宝産業で発生する座席シートを利用しています。まず使用済みのシートをクリーニングします。そして、自動車シートのリクライニング機能やヘッドレスト調整機能をそのまま活かし、ガス式昇降調整機能のついたキャスター脚の上に据えつけます。同じ車種でも座席の仕様などが異なることがあるので、一つ一つ状態を確かめながら、手作業でキャスターなど部品を取り付けます。約3年間で、500脚ほどを販売しました。

座面の上下調節機能やランバーサポート(腰当て)機能がついているものもあり、また、別途料金で肘の取り付けや布の張替えもできます。また、持ち込んだ車のシートを椅子に加工するオーダーも受けており、廃車後も愛車の思い出とともに、手元に置いておくことができます。オフィスチェアタイプのほかに、高齢者向きの座椅子タイプもあります。こちらは360度回転盤がついているため、座ったまま身体の向きを楽に変えることができ、後方にキャスターがついているので、移動も簡単にできます。購入者からは「座り心地が良くて驚いた」「作業効率が間違いなく上がりました」など、うれしい声が届いています。

2008年度から、宝の山から生まれたこのトレジャーチェアの販売収益金の一部を植林活動に寄付し、「車が木になる」運動を実践する予定です。木は成長する過程でCO2を吸収するので、自動車から排出された分を実質的に相殺し、カーボンニュートラルの実現に貢献したい、そう考えたからです。

代表取締役の近藤典彦氏は、「21世紀は資源節約時代です。自動車リサイクル業も、解体業から資源生産業あるいは部品循環業へと変革しています。持続可能な循環経済の構築のためには、地下資源に頼るのではなく、地上にある資源、つまり製品とその廃棄物を優先して資源として活用すべきです。」と語ります。「たとえば動物は、動脈と静脈を血液が循環することによって定常状態を保っています。日本ではものを作る産業を動脈産業、ものを分別回収する産業を静脈産業と呼びますが、産業界を流れる資源がうまく循環してこそ、健全な社会が作られます。われわれは、静脈産業の一翼を担い、循環型社会の創造を目指します。」

近藤氏は、この他にも全国の自動車解体業など29社を会員とする内閣府認証NPO法人「RUMアライアンス」(全国自動車リサイクル事業者連盟)の理事を務め、持続可能な社会の実現に向けて、さまざまな活動をリードしています。2006年5月8日、国連60周年記念イベントとして、RUMアライアンスは、国連機関(国連環境計画など)と連携して「国際リサイクル会議JAPAN '06 for THE CAR」を東京で開催しました。この会議では、今日あらゆる国に広がった自動車市場に対応して、使用済みになった自動車も同じように地球規模でそのリサイクルを考えることが必要であり、動脈産業に対する静脈産業の国内・国際市場における経済価値が大きいことを明確にしました。

また「もったいない」「競争から協調へ」といった理念が国境を越え普遍的な価値であることや、増加する使用済み自動車は、メーカーや生産国だけの問題ではなく、国際機関、政府、自動車メーカー、リサイクル業、ユーザーすべての利益当事者が協調して解決すべき問題であることが確認されました。

このNPOでは、2007年内に自動車リサイクル技能士(仮称)制度の創設をめざしています。自動車リサイクル技能士は、国家資格の自動車整備士とは一線を画し、二酸化炭素の排出量や環境汚染の現状、天然資源の枯渇問題など直接、自動車解体に関係ない環境全般にかかわる事柄の知識を試験問題に加える方向で検討中です。

金沢市に技能士養成の場となる研修センターを新設し、将来は海外の取引先にも参加を呼び掛けていく予定です。 同センターで同年5月を目標に、自動車リサイクル技能士の養成講座を開設し、第1回目の試験は年内に行われる予定です。近藤氏は、「自動車リサイクルが資源循環型社会にどれだけ貢献しているかを認識する必要があります。自動車リサイクル技能士を一つのブランドとして認知させていきたい」と話しています。

地球は有限であり、世界的に資源価値やエネルギー価値の再評価がなされている今日、ゴミは資源、地球というシステムにゴミは存在しないという認識が広まっているのを感じます。ウィズ会宝、そして会宝産業は使用済み自動車を資源として捉え、最大限に活かす方法を追及し、着実に実現しています。

RUMアライアンス
http://www.rum-alliance.com/


(スタッフライター:二口芳彗子)

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