ニュースレター

2007年03月01日

 

地球温暖化防止に向けて、液晶工場の挑戦 - 東芝松下ディスプレイテクノロジー

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.54 (2007年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第58回

パソコン、携帯電話、カーナビゲーション、テレビ、DVDプレイヤー、デジタルカメラ--さまざまな情報機器の画面に、液晶ディスプレイが採用されています。液晶産業は、日本の基幹産業の一つに成長し、今後も需要の拡大が予測されています。その一方で、液晶や半導体など電子デバイスの製造過程では、デジタル機器や家庭電化製品の最終製品などの組み立て製造過程に比べ、非常に多くのエネルギーが消費されることから、温暖化防止対策を同時に進めていくことが不可欠です。

デジタルプロダクツや電子デバイス、社会インフラ、家庭電器などの事業をグローバルに展開している東芝グループは、電子デバイス事業での温暖化防止対策に重点的に取り組んでいます。グループ全体の売上高に占める電子デバイス事業の売上高の割合は20%ですが、エネルギー使用量(CO2換算)で見ると、電子デバイス事業はグループ全体の約70%を占めているからです。

今回のニュースレターでは、東芝グループの電子デバイス事業の一翼を担う東芝松下ディスプレイテクノロジー(以下、TMD)が、液晶工場で取り組んだ、地球温暖化防止へのチャレンジをご紹介します。


TMDは、東芝と松下電器産業の液晶部門が合併して、2002年に誕生しました。同社は、中小型のモバイルディスプレイの分野で高い技術力を持ち、国内に4工場、国内、海外には各1つの製造子会社と15の販売拠点を展開しています。従業員数は約2,700人、売上高は3200億円の計画です。(2006年度)

TMDは、2005年11月に石川工場に増設した、液晶の新しい製造ラインにおいて、温暖化防止のためのさまざまな工夫を取り入れました。このラインは2006年4月から稼動しており、従来型の製造ラインで稼動した場合と比べて53%の温室効果ガスの排出量削減が達成できる見込みとなりました。

新ラインには、液晶の製造では初めて取り入れられた方法を含めて、3つの側面から温暖化防止の対策がとられています。

まず一つめは、空調用冷水を作る上での省エネルギー化です。液晶の製造には、品質を保つために非常に高いレベルのクリーンな環境が要求されます。そのため、クリーンルームでは、常に空調を使用して清浄度を保ち、温湿度の管理を行っています。温度の管理のためには摂氏14度の冷水があれば十分ですが、湿度の管理には摂氏6度の冷水を必要とするため、従来は6度の冷水を一律に使っていました。そこで、新ラインでは、空調用冷水の温度を6度と14度の2系統にして使い分け、より少ないエネルギーで冷却力の効率化を向上させました。

また、新ラインのある石川県では、冬場に冷え込むため、12月-翌年3月までの間は、低温の外気を利用して空調用冷水を冷やすことが利用できます。このシステムを採用することによって、消費エネルギーの低減を図りました。東芝グループの中でも、冬場の低温が利用できる地域にある多くの工場で、このシステムが採用されています。


二つめは、クリーンルームのボールルーム化と、床下の空調リターン階の活用です。ボールルームとは、社交ダンスやパーティを行う部屋のように、柱のない構造の大きな部屋を意味しています。従来は、作業ごとにいくつもの小さな部屋に分け、それぞれをクリーンルームとしていたため、非常に多くの電力が使われていました。

新ラインでは、部屋の仕切りを取り去り、一つのクリーンルームで製造を完了する方式を採用することにより、クリーンルームのスペース効率を向上させました。そして、部屋全体を清浄化するのではなく、個々の製造装置と、装置から装置へ基板を運ぶ搬送装置のみを局所的に清浄化することにより、消費電力の大幅な削減を目指しました。

また、通常のクリーンルームは2階建てになっており、2階部分で製造が行われ、1階部分は空調によって天井から床へと流された汚れた空気の通り道(空調リターン階)として使われています。新ラインでは、この1階部分も製造に使うことを考えました。これが実現できれば、クリーンルームの床面積を大幅に削減することができ、空調などの消費電力をさらに削減することが可能になります。

ボールルーム化は、半導体の工場では採用されている方式だそうですが、半導体よりもかなり大きな基板を扱う液晶の工場では、実現が難しいとされていました。それに加えて、清浄度の低い空調リターン階を活用するという、今までにない構造のクリーンルームの生産設計は、新ライン建設での最大のチャレンジでした。

技術開発や製品開発、製造、設備などの関連部門の担当者が協力し、議論と検討を重ねました。そして、個々の装置への清浄化ユニットの取り付け、基板移載時に気流制御、工程ごとの清浄度の調整などの多くの工夫を取り入れ、床面積を従来比で約44%削減した新しいクリーンルームが完成しました。これによって、消費エネルギーを削減できるだけでなく、建材や清浄化ユニットの使用量を減らし、建設費用を抑えることもできました。


三つめは、PFC(Perfluorocabon)ガスの排出量削減です。PFCガスは、フロンの一種で、炭素の数千から数万倍の温室効果があります。液晶の製造過程では、CF4、SF6、NF3などのPFCガス等の使用が不可欠ですが、水では分解しにくく、使用後はそのままラインの外に排出されていました。

TMDの新ラインでは、PFCガスを燃焼して分解した後、水を加えて無害化する最新の装置を導入することによって、PFCガス排出量を90-95%削減しています。

さらに、新ラインでは、NF3を使わずに、温室効果のないフッ素で代替することを決め、国内で初めてフッ素ガス発生装置を導入しました。フッ素を使えば、環境負荷を削減できることは分かっていましたが、フッ素はガスボンベに詰める場合、充填圧力、充填濃度に制約があり、液晶産業の様に大量に使用する場合には、使い勝手が悪く、これまでは実現が困難でした。TMDでは、NF3を代替するために、いろいろな方式を検討し、最終的に、英国の装置メーカーの技術によるフッ酸を電気分解してフッ素を生成する方式を採用しました。現在、順調に稼動し、成果をあげています。

液晶ディスプレイ業界では、世界的な削減目標として、2010年に、PFCガスなどの排出量を2000年レベルに抑えることを取り決めています。2010年の液晶の生産量は、現在の3-5倍に拡大することが予測されていることから、この目標値はかなりハードルが高いといえます。

TMDでは、この目標値を達成できるよう、新ラインで実現したPFCガスなどの削減技術を、他のラインにも積極的に展開していく考えです。また、一度使ったPFCガスをライン外に一切排出しないで再利用することができる新技術の開発も進めたいとしています。

以上のような多くの創意工夫を取り入れた新ラインは全体で、従来方式であればCO2換算で年間60,082トンの排出が予測されるところ、年間28,258トンの排出に抑えられると試算され、まもなくその成果が現れます。新ラインの立ち上げに参画した技術担当者たちは、さらなる温室効果ガス排出削減のための課題解決に、今も邁進しています。


(スタッフライター 西条江利子)

English  

 


 

このページの先頭へ