ニュースレター

2007年02月01日

 

循環型社会に向けて、自転車を所有から使用へ

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JFS ニュースレター No.53 (2007年1月号)

ちょっとそこまで行くときは、どのような交通手段を使いますか? もちろん歩く、いや車で、いつも自転車を利用するという人も多いことでしょう。自転車は「小さな惑星(地球)のための乗り物」と呼ばれるように、通勤・通学・買い物などの近距離交通手段として、幼児から年配者まで生活の中で広く利用されています。

日本では、1970年代に自転車の保有台数の急激な増加により路上放置問題などが生じましたが、地方自治体などの努力で駐輪場の整備が行われ、緩和してきました。近年、地球温暖化防止が世界的な緊急課題となっている中、自転車の無公害・省資源性が注目され、クリーンな移動手段として、また、脱クルマ社会のモーダルシフトの担い手として、自転車を組み込んだまちづくりが行われるようになってきました。

そして、自転車を資源として有効に活用するという観点から、「所有」から「使用」に力点を移していこうという考えが生まれてきました。本号では、日本の自転車をめぐる状況と、自転車共有の取り組み、および放置自転車を地球の資源として有効利用するために途上国に再生自転車を贈る運動を紹介します。

自転車は「人間が発明した最高の乗りもの」

自転車は「人間が発明した最高の乗りもの」とも言われるそうですが、その理由は、(1)空気を汚さず、温暖化を進めない。(2)健康にいい。自転車に20分以上乗ると、エアロビクスのような有酸素運動になり、余分な脂肪を落としながら心臓や肺も強くすることができる。(3)場所をとらない。クルマ1台が走るスペースを自転車なら6台走れる。また、クルマ1台分の駐車スペースに、自転車なら20台駐輪できる。(4)お金がかからない。クルマの100分の1の値段で、ガソリン代、税金もかからない。(5)多くの人が利用できる。クルマは無理でも自転車なら手が届く人が世界に数十億人いる。(6)効率がいい。重量が約17kgしかないため、多くの原材料を必要としない。(7)大人も子どもも同じように使える、などです。

放置自転車問題

日本の自転車の利用状況を見てみると、2004年の数字では、約8600万台もの自転車があり、国民1.5人につき1台所有しているという割合になります。保有台数からみれば、日本は中国、米国に次いで第3位、国土面積と対比すると、日本の自転車密度はかなり高くなります。

自転車は手軽で便利な乗り物なため、急速に保有台数を伸ばしてきましたが、不要になった自転車はどうすればいいのでしょうか。自治体の粗大ゴミの日に出したり、まだ使える自転車はリサイクルセンターに持ち込んだりして、整備され、リサイクルショップで販売されています。一方、駅周辺や商店街の認められていない場所に駐輪していたり、長期間置きっぱなしの自転車は放置自転車となってしまいます。盗難自転車が乗り捨てられて、放置自転車になることもあります。

このような放置自転車は(1)歩行者や車両、緊急車両の乗り入れなどの妨げ(2)再盗難(3)モラルの低下(4)景観の悪化の原因となるため、1980年に制定された自転車法(自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律)に基づき、自治体の自転車対策部署により撤去されます。

一定期間保管しても引き取り主が現れない放置自転車は、廃棄物として処分されます。2002年度のデータによれば、日本全国の廃棄自転車の総数は649万台ですが、そのうち14%は下取りなどで小売店や大型店に運ばれてきたもの、69%が粗大ゴミとして自治体などから回収されたもの、残りの17%が放置自転車となっています。撤去された放置自転車のうち、持ち主に還るのは約半数しかありませんでした。

自転車が路上放置される理由は、自転車乗用環境整備の立ち遅れや、自転車利用のモラルの低下、その他、使い捨て商品と考えられるようになったことも挙げられます。近年では大量生産により、価格が手頃になり、また大型量販店などで新品の自転車が安く入手できるようになりました。自転車が破損した場合でも、修理してもらうより新品を購入する方が割安との考えが生まれ、家電製品と同様に使い捨て商品として扱われるようになってきました。

脱クルマ社会へ

1997年の京都議定書以降、地球温暖化対策が急務となり、持続可能な交通という発想から自転車の存在がクローズアップされてきました。1998年に決定された「地球温暖化対策推進大綱」のなかで「自転車の利用を促進するための質の高いネットワーク化された自転車道」や「自転車駐車場の整備」について新たな取り組みを強化すると書かれているように、自転車を社会システムに組み込むとの表明が行われ、まちづくりの視点から駐輪対策が行われるようになってきました。

自転車を「所有」から「使用」へ ねりまタウンサイクルの取り組み

自転車利用者が実際に走行している時間を見てみると、1回当たり平均10-15分と言われています。残りの時間は、自宅か駐輪場にあるか、放置自転車として路上を占領しているのです。近年、自転車をもっと活用するため、利用者が自転車を共有し、「所有」から「使用」に力点を移そうという動き、つまり自転車の便利さというサービスを提供しようという考えかたが広まってきました。自転車の総量を抑制し、放置自転車を削減するという発想も含まれています。

自転車が区民一人に1台の割合で普及している東京都練馬区では、自転車を電車やバスと同様に都市交通の1つである公共財として位置づけ、1992年よりレンタサイクル事業(ねりまタウンサイクル)が開始されました。

ねりまタウンサイクルは1台の自転車を複数の人が使うことにより、自転車の有効利用と駅への自転車の乗り入れを抑制するもので、駅と自宅または通勤・通学先との交通として、現在、区内6駅で7つの施設、2,750台のレンタサイクルが供用されています。施設は立体機械式で統一規格の自転車を改造して収容しており、施設前面にある自転車の出入り口で登録カードを差し込むと、自転車が出てくるという仕組みになっています。

1台の自転車を、駅まで来る人と駅から会社や学校などへ行く人の二人以上が使用することができ、2005年の稼働率は平均約80%でした。同時に、放置自転車台数減少にも効果があったと報告されており、交通不便地域などのバスに代わる交通手段として期待がかかっています。

「途上国の草の根保健ボランティアに再生自転車を贈ろう運動」

再生自転車は有限な地球資源という考え方により、ムコーバ(13の自治体とNGO・ジョイセフ(家族計画国際協力財団)が連携した再生自転車海外譲与自治体連絡会(Municipal Coordinating Committee for Overseas Bicycle Assistance;MCCOBA)は、再生自転車を海外で生かす取り組み「途上国の草の根保健ボランティアに再生自転車を贈ろう運動」を展開しています。

ムコーバは、1988年に初めて再生自転車を海外に譲与して以来、2006年までに、アジア、オセアニア、中近東、アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海域の90カ国に52,000台を越える再生自転車を譲与してきました。しかも、再生自転車それぞれに、スペアタイヤ、チューブ、パンク修理セット、空気入れを添付しています。

再生自転車は現地では非常に高価なものであり、一人の保健婦さん、助産婦さん、家族計画普及員が再生自転車1台を手にすると、途上国の無医村で500-800人の住人に対して基礎的な保健医療活動を提供できるため、「神様の贈り物」「二輪車救急車」「走る回覧板」「鉄の馬」などと呼ばれ、重要な役割を果たしています。

譲与を希望する国や譲与リクエスト台数も年々増大し、2004年4月には45ヶ国、約40,000台に及んでいます。一方、加盟自治体の出荷可能台数は2005年度実績で2,956台と追いつかない状態にあり、ムコーバは広く社会からの理解と協力が得られるように努めていく必要があるとしています。しかし昨今の自治体や助成団体の厳しい予算を反映し、事業は縮小傾向にあります。

「ムコーバ誕生のきっかけは、1986年、アフリカのウガンダを訪問した際、たった1台でいいから日本から自転車を持ってきてください。という1人の女性の訴えからでした」と、ジョイセフ理事の高橋秀行さんは語ります。「さらに、その女性は、自分たちの力で移動できる自転車さえあれば、多くの人々が死なずにすむのです。この村の生活は必ず変わるのです。と言いました。発展途上国では交通手段がないために、手遅れで命を落とすことが少なくありません。彼らにはガソリンが必要な四輪駆動車より、人力で走る自転車のほうが有用です。つまり、真に自転車を求めている人たちに、ピンポイントで届けることが鍵なのです」。1998年、東京都豊島区がフィリピンとマレーシアに再生自転車を寄贈したことを知り、自治体とジョイセフが協力して再生自転車を海外に寄贈する活動が始まりました。

ムコーバは自治体とNGOの役割分担により成り立っています。自治体は引き取り手のない放置自転車を整備点検し、再生自転車として提供し、海外輸出のための保税倉庫への搬送を行います。国際的な活動をしているジョイセフは、再生自転車の供与先の選定や輸送手続き、現地での調整・通信連絡業務などを行ない、再生自転車の活用状況を地方自治体に報告しています。

輸送の際、再生自転車は部品に分解されます。20フィートコンテナに組み立てた完成車の状態で積み込むと75台しか入りませんが、分解をすると200台分の自転車を積み込むことができるからです。再生自転車の組み立てを現地で行うことにより、日本の組み立て技術の普及を図ることができ、現地での修理と保守に効果が発揮されています。

また海外輸送には、(財)自転車産業振興協会と(財)東京都道路整備保全公社が助成をしています。日本郵船グループは、再生自転車を積み込む中古コンテナとグループ企業が運航をする海上輸送を無償で提供しています。市民の活動として、書き損じ葉書と使用済み切手や使用済みテレホンカードによる資金も、海外輸送費に活用されています。

ジョイセフは、今後もムコーバ(再生自転車海外譲与活動)を通じて、市民社会に対する環境問題、有限な地球の資源、持続可能な市民レベルの国際協力、国際理解教育、途上国の人々への思いやりの気持ちの育成など、多面的なアプローチと相互協力の可能性を模索しつつ、継続的な草の根地域開発を行っていきたいとしています。

颯爽と風を切って走る自転車----化石燃料も使わず、二酸化炭素も出さず、小さなスペースで活躍する自転車が、これからの時代にますます重要な役割を果たすようになり、人々に多くの幸せと気持ちよさを届けてくれることを願っています。

参考URL:
放置自転車の現状
http://www.cross-road.go.jp/disp_corner.php?corner_id=6
ジョイセフ
http://joicfp.or.jp/jpn/kokusai_camp/syusyu/hagaki/mccoba.shtml


(スタッフライター 湯川英子)

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