ニュースレター

2007年01月01日

 

ひとりひとりがつくる新しい金融 株式会社サステイナブル・インベスター

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JFS ニュースレター No.52 (2006年12月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第56回
https://www.sustainable-investor.co.jp/si/

サステイナブル・インベスターの立ち上げ

2006年3月、日本で唯一の金融特区である沖縄県名護市に、瀧澤信さん、奥山秀朗さんを初めとする若き金融スペシャリストの手によって、ある会社が立ち上がりました。その名もサステイナブル・インベスター。日本語に直訳すると「持続可能性・投資家」となるこの会社のミッションは、「持続可能な社会に向けて金融を通じて貢献する」ことにあります。

それまで、大手金融機関でファンド運営や金融商品開発の最前線で活躍していた二人。「気候変動など危機が差し迫る中で、社会をどう変革していけるのかを考えるとき、今までとは少し違った方法で、金融を通じて社会に働きかけていくことができると考えました」と、瀧澤さん、奥山さんは会社立ち上げの理由を語ります。

確かに、いまや総額で2000-3000億円ほどになった日本のSRI(社会的責任投資)市場ですが、それでも米国の2兆ドルと比べるとまだわずかに過ぎません。また、ファンドに含まれる銘柄も、環境に取り組んでいる日本を代表する大企業が中心となり、通常のインデックス・ファンドと呼ばれるものとどうしても似通ってしまうという指摘もあります。こうした状況で、例えば温暖化ガスの排出量をとっても日本ではまだ増加傾向にあり、サステナブルに向けた経済・社会構造の大きな転換が遅れています。

二人には、現状の金融的な資金循環の流れは、必ずしも持続可能な社会づくりの方向に向いていない恐れがある、との危機感がありました。個人個人のレベルでは正常な感覚としてあるものが、資金の大きな流れになった時に必ずしもしっかり反映されていなことから生まれているのではないか。そこで二人は、「個人ひとりひとりが、地球や未来のことについて当事者意識をどうしたら持てるのか。」と考えました。

そこで得た結論は、「サステナブルな消費活動やライフスタイルについて関心の高いひとりひとりが、自分でリスクを負って企業に投資する。つまり、株主になる。そして、投資した企業がもっとサステナブルになるよう、どんどん意見し応援する。そして一個人ではできなかった、企業との密な接点・コミュニケーションを重ねていくなかで、個人も企業もお互いに成長し変わっていく」というアプローチでした。

この「ひとりひとり」となりうる層を、同社は「知的富裕層」、つまり、知的水準がとても高い層(必ずしも金銭的に富裕層という訳ではなく)、知的な意味での富裕層の方々と捉えました。「私達は、日本人のほとんどの方々は、この『知的富裕層』ではないかと考えています。例えば、子供を育てる母親はもとより、士業、法人の役員、職員、OBの方々、教育に携わる方々、スポーツ選手や芸能人など、それぞれの分野で日々社会的責任を果たしつつ、よりよい社会の構築を心から願い意識している人達が、日本にはたくさんいると思われるからです。持続可能な社会に向けて金融を通じて貢献するためには、多くの知的富裕層の協力とリスクテークが必要です。そのための魅力あるソリューションを提供していきたいと考えています。」

「儲からない」ことを「儲かる」に - プロとしての提案

こうした考え方から生まれた同社の一つ目のソリューションが、「参加型」「株主行動型」のエコバリューアップ・ファンドです。「利益をあげながらサステナビリティに貢献する」ことを目指す、国内上場株式等に投資する投資事業匿名組合であるこのファンドは、1口は10万円で、5年間の存続期間を予定し、利益があれば毎年分配されます。また成功報酬の1割を上限として、環境や社会活動を行う研究機関やNGOなどへの寄付も行われます。

このファンドに対して、たった2ヶ月間(2006年7-9月)のインターネット限定での募集に関わらず、100名弱の方から2.7億円の資金が集まりました。「自らリスクを追わない多くのファンドと違い、当社自身も1000万円出資しています。株式投資の性質上、マイナスの年もでるとは思いますが、5年間で年平均10%程度の利回りで運用することをめざします。」と運用を統括する奥山さんは言います。

具体的な投資は次のような考え方で行われます。まず、「エコバリュー」に注目します。本来のエコバリューに比較して現在の株価が割安であることを重視します。そしてそのエコバリューが今後「バリューアップ」することを見極めます。現状のままでバリューアップする企業もあれば、バリューアップする余力や可能性を多分に含みつつも、そのことに当該企業自身が気が付いていない場合もあります。

そこで、投資対象は3つに分類しています。「エコベスト」「エコテック」「エコポテンシャル」です。エコベストは、既にエコ先進的でありながらも、市場評価が割安に放置されている企業です。全体の約半分を目安にこのような銘柄を組み入れています。次にエコテックは、特筆すべきエコ技術やエコビジネスモデルを持つ企業です。全体の約2割程度を目安に組み入れます。最後に、エコポテンシャルというのは、現時点エコ先進的とは言い難いものの、将来的にエコベストになり得るポテンシャルを持っている企業です。全体の約3割程度を目安に組み入れています。このエコポテンシャル企業は、多くがその潜在力に会社自身が気が付いていないケースが多いため、そのことを当事者に気付かせる意味で一番エネルギーを要しますが、ナチュラル・ステップやクラブエコファクチャーなどのNGOや日本アプライド・リサーチ研究所などのバリューアップパートナーとともに、投資先企業に対してサステナビリティに関する前向きな戦略的提言を積極的に行い、エコバリューアップの可能性を具現化することを株主としても促していきたいと考えています。

このファンドの特徴はまた、その「参加型」のしかけです。組合員は、2週間に1回のメールマガジンやブログを通じて、先端の環境関連情報、投資や資産運用に関する情報、また投資先企業の生の情報を得ることができます。 さらに、知る・学ぶだけでなく、組合員は投資事業にブログを通じて「意見」を言ったり、「議論に参加」したりすることができます。同社がそれらの意見を集約・分析して、投資先企業のトップに提言することで投資先企業の行動を変えることができる機会を提供していくという仕組みになっています。
(エコバリューアップファンド 詳細)
https://www.sustainable-investor.co.jp/si/fund/detail.html

同社はこのエコバリューアップファンドに引き続き、2006年12月、新たに二つ目のファンドを開始しました。「森林ファンド」です。森林はご存知のように、私たちが生きていくのに必要な酸素や水の源泉であり、海の魚介類はじめ多くの生物の栄養分を与えています。森は元気に育つには、単に植林をするだけでなくその後も長い年月をかけて継続的に愛情のこもった管理と手入れが不可欠です。しかし日本ではこの管理と手入れに相応のお金が確保されず、放置され、森林の価格は下落する一方という状態にあります。この森林ファンドは、森林を再生するために必要な資金を継続的に生み出す仕組みとして構想されました。

もちろん、単純に山を買っても長続きしません。そこで二人が金融のプロとして考えたのが、「ハイブリッド」型という手法でした。これは、資金の半分で山林を買い、半分は高利回りの外国債券などへ投資して安定運用する、というものです。「例えば、7.0%利回りのニュージーランドドル建て債権を5千万円購入したと仮定します。そうすると、為替リスクを除いて考えれば、毎年350万円相当の利息が入ります。この約350万円と補助金等をあわせたものを予算として、森林の再生原資にします。この例の場合では、為替リスクが発生しますが、森林の管理と手入れに必要な費用を安定かつ継続的に確保でき、持続可能な形での森林育成・森林再生の実行が期待できます。」

ファンドの満期は14年後の2020年に設定されました。本来は森林の育成には50-100年がかかりますが、今回は初めてということもあり、京都議定書の次なるターゲット年でもある2020年を一つの区切りとして資金償還の機会としたものです。

購買する森林は今、一つはレクレーション林として東京の武蔵五日市から徒歩圏内でいける山林(環境林)を、そしてもう一つは収益を生む林として奥地の山(経済林)を検討しています。経済林の方は、地元のプロ・ネットワークの協力を得て計画的に間伐して山を育てる計画です。「今は木材としては樹齢50年の20メートルの杉でも価値がつかないくらいですが、実際には二酸化炭素の吸収、生物の多様性への貢献などの価値を生み出しています。世の中では山林は儲からないと言われていますが、やり方次第で儲かるようにすることができるはずです。資産形成にとっても預金しているよりよっぽど増えたという状況を、金融のプロとして作り出していきたい。」と、奥山さんは静かにその思いを語ります。

(森林ファンドの詳細)
https://www.sustainable-investor.co.jp/si/fund/detail.html

自分の資産を、自分の責任で投資運用する世の中を目指して

金融と聞くと、大きな金融機関に任せておけば安心と思われる人も多いかもしれません。しかし瀧澤さんは、問いかけます。「インターネットに代表されるように大きな時代の流れとして、今後一部の限られた人ではなく一般個人に力が移ってきています。金融機関がもっているお金は、元はと言えば預金している僕たち、私たちのお金。もっと個人が知識を拡充し、各々の思いや判断に自信をもって、お金の流れをつくっていけば、よりよい社会の形成の原動力になりうるのではないでしょうか。」

ひとりひとりが、自分の資産を、自分の責任で考えて投資運用行動をできる世の中をつくりたい。そのために同社はエコバリューアップファンド、森林ファンドで着実に成果をあげていくことに加えて、今後も、個人の実体験に働きかける、様々な金融商品やプログラムを構想しています。例えば、理論だけの教材を使うのではなく、実際のファンド運用を疑似的に体験して学んでゆくような「体験型の金融教育」という考え方もその一つです。

サステナビリティへの志を掲げ、金融の可能性と限界を知り尽くした上で新しいお金の流れを提案するサステイナブル・インベスターのこれからにご注目ください。


(小林一紀)

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