ニュースレター

2006年12月01日

 

お金の流れを変える - 大和証券投資信託委託株式会社

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JFS ニュースレター No.51 (2006年11月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第55回
http://www.daiwa-am.co.jp/
http://www.daiwa-grp.jp/branding/

ダイワ・エコ・ファンドの意義

2006年2月、「ダイワ・エコ・ファンド」という投資信託が大和証券から発売されました。このファンドはSRI(社会的責任投資)の一つで、環境に配慮しながら収益性も良好なEco2企業(エコロジー×エコノミーを両立する企業)を投資対象としています。

日本で最初にSRIが社会に認知されたのは、1999年、日興エコファンドが発売されたとき。人気を得たSRIはすぐに成長し、各社ファンドの資産総額で1,000-1,500億円ほどになりました。ところがその後、景気の低迷もあり規模的に限られた状態にとどまっていました。その中で、「ダイワ・エコ・ファンド」は、2006年11月27日現在で純資産総額546億円を集め、社会からのSRIへの関心の高さを改めて証明したのでした。

投資信託とは、多くの人から集めてまとめた大きな資金を、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品のこと。販売会社である証券・銀行、ノウハウを駆使して運用を行う投資信託会社、実際の管理・処理を行う信託銀行の3社が一つのチームとして機能します。このダイワ・エコ・ファンドについては、設定・運用を実際に行うのは、大和証券投資信託委託株式会社(以下、大和投資信託)です。同社は1959年に設立された大和証券グループの会社で、その後、投資信託分野におけるリーディングカンパニーに成長しました。

現在は403名の資産運用プロフェッショナルがノウハウを駆使して、さまざまなファンドの設定・運用を行っています。現在運用するSRIファンドは、ダイワSRIファンド、ダイワ・エコ・ファンド、ダブル・ウィング、ベストシックス、そして、OHみらいの5本です(詳細はhttp://www.daiwa-am.co.jp/sustainability/sri.html )。

これらの純資産総額を合わせると、日本で約30本あるとされるSRIファンドの純資産総額(2006年7月現在、出典『ウィキペディア』)約2,300億円のうちの、約3割を占めるに至るといいます。

大和投資信託がこの分野で先行している理由は何でしょうか。同社の運用本部のトップである荒井勝CIO(Chief Investment Officer)は、その理由について、「大和証券グループが表明している、持続可能な社会の実現が企業の社会的責任であるという考え方に基づいて、サステナビリティに対して金融機関としてできることは何かを問うてきました。銀行や保険会社とは異なる証券という業務に携わるグループとして、投資信託こそが最大の手段であると考えて取り組んでいます。」と語ります。

大きく変わりつつある金融

欧米で20世紀の初めに始まったSRIですが、21世紀に入った今、改めて世界的な注目を浴びています。その根底には、世界的に進行する、貸付や負債などの間接金融から株式などの直接金融への大きな流れの中で、株式に対する関心の高まりがあります。そして、お金の流れとサステナビリティとの関係の重要性が認識される中で、金融業務における環境やサステナビリティに配慮したベスト・プラクティスを追求し普及することを目的とした国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)や、機関投資家などに対して、環境・社会・企業統治上の問題を投資行動の中で考慮するよう促す行動規範である責任投資原則(PRI)などといった、金融機関が行動するためのフレームワークが生まれてきています。大和投資信託は、日本で初めてPRIに署名した投資信託会社となりました。

こうした世界の流れの中での日本はどのような状況にいるのでしょう。欧米で誕生したSRIですが、日本でも社会的責任という感覚は昔から製造業を中心にありました。1999年のエコファンド発売後、一時途切れた時期もありましたが、環境面の取組みをベースに世界的なSRIの流れに今追いついてきており、FTSE4GoodなどのSRIインデックスでも日本企業の採用数が増えています。ただし、どんな理由でどんな指標を報告していくのか、欧米との文化的違いを踏まえて、積極的に世界に伝えていくことが今後の課題となっています。

SRIの課題その1 -パフォーマンスの評価

しかし規模で見ると、数十兆に及ぶ日本の全投資信託のなかで、SRIの割合はたった数%に過ぎません。今後社会に広く受け入れられるためには何が必要なのでしょうか。「最大の課題は、SRIで成果があがるかを検証することです。」と荒井氏は指摘します。投資信託は売買の期間が年金などと比べて比較的短く、財務指標の評価が基盤になるという側面があります。一般投資家から経済的なリターンを最大化することが求められる中で、環境・社会などの非財務要素を考慮することは、場合によっては阻害要因になるという議論は、まだ根強くあります。

こうした状況を乗り越える方法について、荒井氏は定量的な分析こそが鍵になると考えています。「SRIは長期的な理念としては認められてきましたが、今、短期的にパフォーマンスにどう反映されるのかも問われています。我々は運用のプロとして、SRIはパフォーマンスもいいとは軽々しくは言えません。SRIの評価項目と、マーケットの様々な要素、切り口、組み合わせの関連性をデータとして徹底的に分析、検証していく。それによって、どういう条件ならどうなるのかを定量的に示すことが、将来SRIが確立するために必要です。」

その取組みの一つが、同社が京都大学大学院経済学研究科と進める「知的財産・無形資産価値評価モデルの構築」の共同研究です。企業のブランド価値も含め、これまでの財務分析では測れなかったものを測っていく手法作りで、こうしたツール作りがSRIの定量的評価に結びつくことが期待されています。

SRIの課題その2 -NGOや投資家との対話

SRIが社会に根付いていくためにもう一つ必要なこと、それは一般投資家への浸透です。最初の課題とも関係しますが、環境・社会・ガバナンスの要素が短期のリターンに反映されるのか、という問いへの答えは、一言で言えば、「そういうことを見て投資家が投資すれば、価値が上がる」となります。しかし日本では(投資家より)企業の方がCSRに熱心な面があり、一般投資家の関心はまだ低いのが現状です。一方欧米では、多くの投資家の方から「こういう企業には投資しない」という意思表明があったり、NGOから例えばFTSE4Goodの基準改定などに積極的に物申したりしています。そうした、投資家と企業、また非営利組織と企業とのさかんなやりとりを通して、意識や基準が高まっていくという流れがあります。

大和投資信託では、企業からのIR訪問を含む企業とのミーティングの機会は毎年約8,000回に及びます。荒井氏は、「こうした場で、SRIインデックスの基準について、企業に対してベースの考え方まで含めて説明、伝えていきたい。」と言います。同社は企業と投資家だけでなく、NGOなどの市民組織、非営利組織が企業、投資家とやりとりできるようなコミュニケーションの場作りも進めたいと考えています。

これからの変化

持続可能な社会に向けて、今後、お金の流れはどう変化していくのでしょうか。「日本における急速なCSR、SRIの流れはこの5、6年のものです。それだけでこれだけの変化があったわけで、今後5年もすればSRIは様変わりしているかもしれません。」と荒井氏は言います。例えば、中国においてSRIはどう発展するでしょうか。中国の企業が成長するなかで、中国から海外への投資、また海外から中国への投資が増えています。当然その中で、世界から中国企業を見る際の基準も高くなっていくでしょう。情報の共有が進むにつれて、中国企業も急速に変化し追いついてきます。5年後のSRIランキングには中国企業がたくさん入っているかもしれません。

SRIが特別の商品でなく、当たり前になる世界。そこでは、SRIファンドだけでなく通常型の投資信託でも、環境・社会・ガバナンスといった評価基準が浸透しているはずです。金融に社会的な視点を組み込み、問題を解決する方向にお金の筋道をつけることを社会的使命と捉えている大和証券グループと、SRIの設定・運用をリードする大和投資信託の取組みに期待しています。


※大和サステナビリティページ
(JFSが「サステナビリティを考えよう!」コラムを連載中)
http://www.daiwa-am.co.jp/sustainability/index.html

(スタッフライター 小林一紀)

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