ニュースレター

2006年11月01日

 

人々が抱える様々な悩みや負担に誠実に向き合う ユニ・チャーム株式会社

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JFS ニュースレター No.50 (2006年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第53回
http://www.unicharm.co.jp/eco/

「育児や介護に追われて大変。」そんな声を聞いたことはありませんか?

本当は家族のケアができる大切な時間なのに、身の回りの世話などはとても大変で悩みが多いというのが、多くの人にとっての実情かも知れません。その負担を少しでも軽減し、社会生活を快適にするものの一つに、機能性の高い衛生用品-例えば、紙おむつはじめ、ウェットテッシュや生理用品などがあります。実際、「日々の育児や介護に追われている中で、贈り物として何が一番助かりますか」と聞かれて、「紙おむつ」という答える方も少なくないでしょう。

「ムーニー」(紙おむつ)のブランドでよく知られるユニ・チャームは、そうした衛生用品における日本のリーディングカンパニーの一つです。同社は、「単なる『モノづくり』ではなく、人が抱える様々な悩みや負担に対し、誠実に向き合っていきたい」という想いのもと、様々な衛生用品を、アジア、中東、北アフリカを含め世界24カ国以上の国及び地域の人々に提供しています。

創業者の想い

1961年、日本では第二次世界大戦の終戦からの復興が進み、人々が自分たちの「生活」に目を向け、生活を支えるものや出来事に強い関心を抱くようになった当時、生理用品はまだ薬局のカウンターの中に置かれ、隠れるように買う商品という見方をされていました。同社会長である高原慶一朗氏は、「社会で弱い立場にいる女性たちを不快や不便から解放し、夢の実現を後押ししたい」という理想を抱き、同社を創業。2年後に商品の販売を開始したときに注目を浴びたのは、向上した商品性能とともに、日用品店の店頭に陳列するという画期的な販売方法でした。斬新な商品と販売方法が浸透するにつれて、ユニ・チャームの生理用品の存在は女性の社会進出を後押しするものとなっていきます。

その後1981年、働く女性が増えることで、育児の負担の軽減も求められるようになるなか、赤ちゃんが快適で子育てが楽しくなるようにとベビー用紙おむつ「ムーニー」を発売。1990年代には、少子高齢化が進行するなかで介護の負担を軽くする大人用排泄介護用品の提供を開始します。その後、不織布の技術やケアの分野で培った経験を基盤に、シートクリーナーなどのお掃除用品、食品の鮮度保持シート、化粧用パフ、ウェットティッシュ分野、ペットケア用品、幼児教育事業へと専業分野を広げてきました。

創業時の想いは、同社の経営理念「NOLA&DOLA」(Necessity of Ladies with Activities & Dreams of Ladies with Activities)として表現されていましたが、2001年には、「NOLA&DOLA」の「Ladies」を「Life(生活者)」へと進化させ、新世紀NOLA&DOLA(Necessity of Life with Activities & Dreams of Lifewith Activities)として、多様化するニーズへ応えていく企業姿勢を打ち出しました。現在、同社の従業員は1,004名(単体。グループでは6,030名)、売上高は2,461億円(2005年度)に上っています。

ライフサイクルで見る環境負荷

さて、同社の製品は、その便利さや優れた機能性から多くの人の社会生活を支えている一方で、「使い捨て商品」のビジネスモデルにおける環境面での課題を抱えています。同社はいま、この課題を正面からみつめ、資材の調達からお客さまの使用後の廃棄まで、ライフサイクル全体での環境影響の把握と低減に取組み始めています。

ライフサイクルでの環境負荷図
http://www.unicharm.co.jp/eco/pdf/2006/CSR2006_P40_54.pdf
(2.31MB,P46-47)

2005年度のライフサイクルを見てみると、同社は約36万トンの原材料・副資材を投入し、約34万トンの製品を生産しましたが、お客さまが使用した後に廃棄される量は、生産量の数倍に及ぶ92.8万トン(推定値)に及んでいます。コーポレート・ソシアル・レスポンシビリティ部環境推進室室長の高柳克司氏は言います。「機能の性格上、水分などを吸収するために重量が3、4倍に増えてしまいます。

私たちが取組むべき第一の課題はやはり、この資源の有効利用と廃棄物の削減です。」この認識をもとに、同社は今ライフサイクルの上流である開発・設計と、下流である使用済み商品のリサイクルの両面から取組みを進めています。

設計段階からのアプローチ

ライフサイクルの上流、すなわち開発や設計の段階からの環境負荷の低減は、製品環境ワーキンググループという横断的なチームが中心的役割を担っています。このグループでは、環境担当者のみならず、開発本部、マーケティング部門が参加し、製品のコンセプト作りの段階から環境面での負荷軽減、新しい価値提供を目指します。

具体的には、同社が考える「環境配慮型商品」の評価基準として、包装においては詰め替え型タイプの提供、商品においては機能を維持しながら原材料を減らす、廃棄時のCO2排出量を減らす部材へ変更する、などを設定。その上で今、いつまでに全製品に対して何%を環境配慮型商品とするかの数値目標を定めて開発を進めています。2010年度全商品の55%を「環境配慮型」とするという長期目標は、前倒しで2005年度に達成されたため、今、長期的な目標をより高いところに見直しています。一つ一つの改善は小さなものであっても、積み重ねは大きな効果を生み出します。実際におむつでは、資材の原料投入量は1990年時と比べて容積比で約4割削減されました、と高柳氏は言います。

これと同時に、より精緻な負荷削減に向けて、LCA(ライフサイクルアセスメント)の考えかたを既存商品の評価に用いて、開発データとして蓄積する取組みを進めています。2005年度には、各カテゴリーの代表的生理用品でLCA分析を実施し、結果を公表しました。

LCAの取組み
http://www.unicharm.co.jp/eco/pdf/2006/CSR2006_P40_54.pdf (2.31MB,P51)

これらの情報をうまく開発段階に生かす体制を整備し、製品性能の一部として環境性能を反映させていくことが、今後の課題になっています。

使用済み商品のリサイクル

では、下流である使用済み商品のリサイクルについてはどのような活動が進んでいるでしょうか。「設計段階での資源有効利用を進めてきましたが、廃棄物を減らす面では限界もあり、使用済み商品のリサイクルの可能性追求がいよいよ重要になっています。」と高柳氏はその重要性を強調します。

おむつをリサイクルすることには、肌に触れるデリケートな製品であるという特質上、安全性が最も高い基準で問われるという課題があります。このような条件のなか、これまでに同社はリサイクルの可能性を追求してきました。廃棄物を回収して、紙・プラスチックの材料分を取り出す技術や、紙・プラスチック以外の部分から堆肥を作るといった内容です。残念ながらこれらは、衛生面、また回収のコスト面などの課題が未だ残っています。

実現するためには、もう一つ気候というハードルもあります。これは、例えば海外では使用済みおむつを回収してリサイクルを行っている事例がありますが、高温多湿である日本では2、3日に一回の回収では衛生上難しいというものです。「こうした課題も含めて、将来的に何らかの形でリサイクルが実現できないか検討を進めていきます。」と高柳氏は言います。

未来に向けて

この「資源の有効利用・廃棄物の削減」という大きな課題に取組みながら、同社は、ライフサイクルに沿ってグリーン購入やCO2排出量の削減など、13テーマに及ぶ環境目標とアクションプランに沿って着実な改善を続けています。

これらの活動を基盤に、2003年には、メーカーの第一の使命として、高品質で価値の高い「モノづくり」に特化したCSRを掲げ、業界に先駆けてCSR部を設置しました。そして2004年度には、公正な企業経営の推進を担う「企業倫理室」を創設し、企業倫理に則った「行動指針」の制定などの基盤作りに努め、2005年度にはそれらの取組みを深めつつCSR活動や報告について外部ステークホルダーの声を聞く会を開催。2006年には、グローバル・リーダー企業を本格的に目指していくために、国連「グローバル・コンパクト」の支持を表明し、世界の抱える課題解決に対して積極的に貢献していくことを内外に宣言しています。こうして同社は、CSR(企業の社会に対する責任)を総合的に捉え、企業活動と一体化する努力を重ねています。

「社会で弱い立場にいる女性たちを不快や不便から解放し、夢の実現を後押ししたい」という創業者の想いは今、商品を通じて、国境を越えて多くの生活者に影響を与えるようになりました。今後は、持続可能な社会の実現に向けて、生活者を育児や介護の不便、不快から解放し社会生活を助けることと、資源を有効利用し廃棄物の出ない仕組みを一刻も早く作ることの両立が問われています。「人が抱える様々な悩みや負担に対し誠実に向き合う」ユニ・チャームから、「使い捨て商品」のビジネスモデルを乗り越えた新たな商品やサービスが次々に生まれることを期待しています。


(スタッフライター 小林一紀)

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