ニュースレター

2006年11月01日

 

ビジネスを通じて自然環境を守る - パタゴニア日本支社

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JFS ニュースレター No.50 (2006年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第52回
http://www.patagonia.com/japan/

パタゴニアの創業者であり登山家であるイヴォン・シュイナードは、1957年18歳の時に、手作りの登山道具ピトン(岩の割目に打ち込む金属製のくさび)の販売を始めました。まもなく仲間たちと、カリフォルニアで登山道具の会社を設立。次々に改良を重ねたシュイナードのピトンは好評を博しました。

しかし、当時のピトンは、繰り返し岩に打ち込んで使うため、少しずつもろい岩を傷つけ、破壊していきました。クライミングの人気が高まるにつれ、自然への被害が深刻になっていくことに気づいたシュイナードは、1972年、売上の7-8割を占めていたピトンの製造を止めることを決断しました。

それからは、ピトンに変わる新しい登山道具を発売し、登山家たちに、自然のままの岩場を守りながら登山する「クリーン・クライミング」を働きかけていきました。新しい登山道具は、岩を傷つけないだけでなく軽くて機能性にも優れていたので、数年のうちに従来のピトンからの切り替えに成功しました。

自社の製品が自然環境を傷つけていることを知った以上、どんなに困難と思われても、その製品を作り続けることを選ばない--このときの意志と経験とが、パタゴニアの企業理念の根底に流れています。

パタゴニアは、この登山道具の会社の衣料部門として1973年にスタートしました。

登山やサーフィンなどのアウトドアウエア、スポーツウエアを中心に、繊維素材の開発から製造、販売までを行っています。日本支社は1988年に設立され、パタゴニア製品の国内でのマーケティングと販売を担っています。全国に12の直営店、200以上の取扱店、オンライン・カタログ販売という3つの販売チャネルがあり、約160名の従業員が働いています。

野生のままの自然が自らのビジネスの存立基盤であると強く認識しているパタゴニアのミッション--「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として、環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」は、日本においても、米国本社と変わりなく忠実に実行されています。

一つ目のミッションに対して、パタゴニアは、「製品のライフサイクルを循環型にするために、将来的に、製品に使用する全てを、再生素材(recycled)または、再生可能な素材(recyclable)なものに100%切り替える」という目標を掲げ、素材の開発とリサイクルの仕組みづくりを推進しています。

パタゴニアは、自らの製品が自然環境に汚染をもたらしているとの意識から、1991年に主要な4素材--コットン、ウール、ポリエステル、ナイロンに関する製品のライフサイクルアセスメントを実施しました。その結果、すべての素材が何らかの環境インパクトを与えている中で、特に大量の農薬を使って栽培したコットンが最も環境に悪影響を与えていることが分かり、1996年までに全てのコットン製品を、オーガニック農法で栽培されたコットンの使用に切り替えました。ウールについても、2004年から一部の製品にはオーガニック認証のウールを採用し、今年からアンダーウエア製品にも単位面積あたりの飼育頭数を制限し、自然牧草と湧き水のみで飼育している牧場からのウールを使っています。

1985年の発売開始以来、ベストセラーとなっていた保温効果が高い両面起毛のシンチラ(R)は、1993年にリサイクルしたペットボトルからの再生繊維を50%使ったPCR(R)(Post Consumer Recycled)に切り替わりました。現在、PCRシンチラの再生繊維の割合は90%にまで高まり、さらに多くの製品にリサイクル素材を利用するための研究が行われています。

2006年の特筆すべき成果は、回収した着古した自社ブランドのポリエステル衣料や、ペットボトルからできた再生ポリエステル繊維を50%以上含む新しいキャプリーン製品の販売を、各国のパタゴニアで開始したことです。

キャプリーン(R)は、20年前に開発された速乾性に優れるポリエステル素材で、2005年9月に、これを回収して再び繊維に戻すという「つなげる糸リサイクルプログラム」*1)が日本と米国で始まっています。このリサイクルプログラムは日本の繊維メーカー帝人ファイバーと共同で開発したものです。
http://www.patagonia.com/web/jp/patagonia.go?assetid=6491
http://www.japanfs.org/db/1199-j

また、新しいキャプリーンには、一般に防臭加工に使用される銀を使わず、天然成分を使用した抗菌防臭加工が施されています。その他の製品にも、染料や防縮加工などの処理にはできるだけ化学薬品の使用を避け、天然由来の成分を使用しています。

こうしたさまざまな努力を重ねて増やしてきた環境配慮型の素材を使った製品には、2006年秋冬の製品カタログから、緑丸にeの文字を白抜きした「eロゴ」の表示を始めています。この表示により、お客さまは、環境への影響が少ない製品を容易に選ぶことができます。

二つ目のミッションに対する活動には、資金的な支援と、非資金的な支援とがあります。パタゴニアは、自主的に地球税として、売上の1%以上または税引き前利益の10%以上のいずれか大きい額を自然環境の保護・回復のために寄付しています。2005年5月から2006年4月までの1年間に、2,218,795ドルを支出しました。この中には、草の根的な自然環境保護活動をしている団体への助成金プログラム、年間を通じて実施する環境キャンペーン、アウトドア産業によって組織された環境保護基金「コンサベーション・アライアンス」での支援なども含まれます。

日本支社も、アメリカ本社同様に助成金プログラムで日本国内の環境団体を支援するほか、日本のアウトドア関連企業と協力して「コンサベーション・アライアンス・ジャパン」を立ち上げ、これまでに24の自然環境保護に取り組むグループに資金援助しています。

非資金的な支援としてユニークなのは、インターンシップ・プログラムです。これは、2ヶ月間を上限として、パタゴニアの従業員が自ら選んだ環境保護団体でフルタイムで働き、その間の給与や福利厚生はパタゴニアが負担するというものです。日本支社では、大阪店の1人が北海道の尻別川で絶滅寸前の魚イトウの保護活動を、また札幌店の1人が北海道の手塩川水系の自然を守る活動を行っている団体で働きました。南米パタゴニア地方の国立公園での自然保護活動にも、日本から3人の従業員が参加し、今年も10月末から3週間、女性社員がパタゴニア地方に行く予定です。

インターンシップを終えた従業員たちは、店頭でのトークイベントやメディアへの露出などの機会を通じて、活動で得た経験や自然環境の魅力を周囲に伝えていく役割を果たします。

また、日本支社では、直営店でのイベントやスピーカー・シリーズに特に力を入れており、各店でほとんど毎月1回開催しています。渋谷店では、有機野菜や無農薬野菜を扱っている団体と協力して、2006年4月に2日間のオーガニックマーケットを開きました。関心はあっても日ごろ手に入りにくいオーガニック食品が身近に手に取れることから、お客さまに好評で、10月にも再び開催しました。

パタゴニア日本支社では、米国本社と同様に、製品カタログやウェブサイトでの情報発信、製品や活動ノウハウの提供など、あらゆるビジネス機会を利用して、環境問題の解決に取り組んでいます。米国本社で決定されたテーマや情報に基づいて、関連する活動を行う日本の団体と連携したり、日本での問い合わせ先を掲載するなど、日本のお客さまにより分かりやすく訴えかけ、行動につなげてもらうために、今後も力を尽くしたいと考えています。

*1)Common Threads Recycling Program

参照サイト:
パタゴニア・ヒストリー
http://www.patagonia.com/web/jp/contribution/patagonia.go?assetid=3351


(スタッフライター 西条江利子)

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