ニュースレター

2006年10月01日

 

『運ぶ』を支え、環境と未来をひらく - いすゞ自動車株式会社

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JFS ニュースレター No.49 (2006年9月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第51回
http://www.isuzu.co.jp/company/eco/index.html

社会を支える「モノを運ぶ」

普段はあまり気にしなくても、私たちの生活をしっかりと支えているインフラの一つに、「ものを運ぶ」物流があります。どんなに情報通信技術が発達しようと、工場に運ぶ原材料、スーパーに運ぶ日用品、家庭に運ぶ食糧品など、私たちの生活を支える物資は何らかの方法で使う人のもとに運ばれてこなければなりません。この「運ぶ」を支える現代の主役の一つにトラックがありますが、長い距離を毎日走るだけに、高い耐久性、安全性、経済性、そして環境性能が求められるのはいうまでもありません。

そのようなトラックのひとつが、最近よく見かけるようになった「CNGトラック」です。圧縮天然ガスを燃料にしていて、ガソリンに比べCO2の排出量が低く、燃やしても硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)が発生しないことが特徴です。日本で走っているCNG車の中で最も多いのは、小型トラック「エルフ」(いすゞ自動車)です。「エルフ」はCNG車トラック市場でのシェアが8割近くにのぼります。今月号では、「『運ぶ』を支え、環境と未来をひらく」を合言葉に、「商用車、ディーゼルエンジンのグローバル・リーディングカンパニー」を目指す、いすゞ自動車の活動を紹介します。

ディーゼルエンジンの特徴とは

いすゞ自動車は、1916年に産声を上げた日本最古の自動車メーカーで、創業以来、世界の「運ぶ」と「動かす」を支えることを使命に、商用車とディーゼルエンジンの開発・生産にこだわり続けてきました。主にバスや大型・中型・小型トラックを製造し各国百数十カ国で販売するほか、日本の他、ポーランドやタイ、北米でもディーゼルエンジンを製造し現地の自動車会社に供給しています。2005年度には、約62万台の車両、約114万基のディーゼルエンジンを生産し、連結の売上げは約1兆5800億円(うち海外比率は6割)に達しています。

さて、同社がこだわるディーゼルエンジンには、ガソリンエンジンと比べどんな特性があるでしょうか。自動車の場合、一般にガソリンエンジンの寿命は約10万-30万kmであるのに対し、ディーゼルエンジンは高負荷の使用や高圧縮での燃焼にも耐える頑強な構造により、ガソリンエンジンの約3倍、約30万-100万km以上の耐久性があると言われています。また、ガソリンエンジンに比べて熱効率に優れ、燃料消費量が少なくてすむため、CO2の排出量は2-4割少ないというメリットがあります。その他にもディーゼルエンジンは、自動車用では主に軽油、船舶用は主に重油を使用していますが、植物油や廃食用油(廃テンプラ油など)からの精製油など、いろいろな燃料を利用できる可能性のあるエンジンです。一方で問題は、ガソリンエンジンに比べてNOxやPM・黒煙などの排出ガスが多いこと、振動が大きいことなどで、その改善に向けた努力がなされてきました。

いすゞ自動車は、原材料の調達からリサイクル、廃棄にいたる車の一生(ライフサイクル)の環境負荷を認識し、国内外の製造会社および国内の販売会社を対象に連結環境マネジメントを導入して、CO2削減、ゼロエミッション活動、規制物質対応、リサイクル活動など広範囲に活動を進めています。同社の取組む数ある活動のなかでも最も重要なものの一つが、「使用時」の環境負荷削減です。これは、例えばCO2排出量(小型トラック)をライフサイクルで追った場合、調達(2.9%)、生産(1.6%)、使用(95.5%)、廃棄・リサイクル(0.03%)と、使用時の排出が圧倒的に多いことからきています。このため同社では、燃費向上(CO2の低減)、排出ガスの低減に、ハード・ソフトの両面から集中的に改善に取組んでいます。

ハード面での取り組み - 燃費の良い、クリーンなエンジン・車両の開発

ではまず、ハード面の取り組みから見ていきましょう。いすゞでは、開発のベースコンセプトとして、安全(Safety)、経済(Economy)、環境(Environment)の3分野における技術の高度化を目指す(それぞれの頭文字をあわせた)「Seeテクノロジー」を掲げています。これは、環境負荷の低減と安全性・経済性を両立させる新しい価値を創造しようとする考え方です。このコンセプトに基づき同社は、軽量・コンパクト化、高効率化を追及しつつ、千分の一秒単位で繰り返させる燃焼とそれに伴う各システムの作動を精密にコントロールする電子制御技術及び燃焼最適化技術などのエンジン技術と、転がり抵抗、空気抵抗低減等の車両技術の統合を進めた結果、この10年で約40%の燃費向上を実現しました。排出ガスについても、日本では平成17年排出ガス規制(新長期規制)で、未規制時(1973年)を100%とした場合の規制値をNOxは12%、PMは3%としましたが、これは世界でも最も厳しいレベルになります。いすゞのディーゼルエンジンは、もちろんこの規制をクリアするものとなっています。

これに加え、クリーンエネルギー車の開発も進めています。冒頭に紹介したCNG車は、小型エルフに留まらず、中型トラック、路線バスにも展開されています。2005年4月に発売した新型車「エルフCNG-MPI」は、ディーゼル車の新長期排出ガス規制に対しNOxを80%低減し、PMや黒煙はほとんど発生しないといいます。また、更なるCO2排出量の改善と排出ガス性能向上を可能にするディーゼル・ハイブリッド車も発売されました。その他、ディーゼルエンジンが多様な燃料に対応が可能である特徴を活かして、DME(ジメチルエーテル)やGTL(ガストゥーリキッド)はじめ、バイオマス燃料にも適合したエンジンの開発が重要なテーマとなっています。

ソフト面の取り組み - 燃費の良い運転方法をお客さまに知っていただく工夫

ソフト面から使用時の環境負荷を削減しようとする取り組みも、また進んでいます。その代表的なものが、ドライバーの運転操作状況をリアルタイムに集計し、省燃費運転のための改善点を具体的にアドバイスする「みまもりくん」のサービスです。これは、いすゞ自動車のユーザーである配送業者から寄せられた、「燃費を向上させたい」「運行管理業務を効率化したい」というニーズに対応した、高度運行情報システムです。パケット通信網とインターネットを活用し、車両からの運行データを「みまもりセンター」に収集。それらのデータをもとに解析作業を行い、車両の運行情報(燃費、CO2・NOx・PMの排出量、位置情報、ドライバー運転操作情報など)を提供します。

具体的には、次のような診断結果が何項目にもわたって得られます。「アイドリング 2点/5点中。5分間のアイドリング燃料消費量が、全体の約2%と多くなっています。休憩などで長時間のアイドリングを低減するよう、工夫が必要です。」「シフトアップ回数 2点/5点中。シフトアップ回転数の平均は、2,000rpmとまだ引っ張りすぎています。理想は、1,540rpm以下です。まずは、がんばって300rpm早めにシフトアップをしてください。燃費が大幅に向上します。」2006年6月時点での同サービスの契約台数は、累計で前年比約3倍増の7,000台に達しています。「省エネ運転に役立つレポートサービスとリアルタイムでの車両情報サービスが、エコドライブの実現に効果的」との評価を受けて、「みまもりくん」は2005年12月、第二回エコプロダクツ大賞国土交通大臣賞を受賞しました。「エコプロダクツ大賞を受賞できたのは、単なる情報提供にとどまらず、どのように改善したらよいかというところまで踏み込んでいるところが評価されたからだと思います。」と同システム企画担当の前園昇氏は語ります。

みまもりくんサービス http://www.isuzu.co.jp/cv/cost/mimamori/index.html

社員一人ひとりの意識向上

これらの取り組みに加え、同社がいま非常に力を入れているのが、社員一人ひとりの意識向上です。「例えば地球温暖化は人類にとって緊急かつ最大級の課題ですが、まだ頭では理解しても切実には感じていない人が多いのが現実です。地球市民の一員として、社員の一人ひとりが日常生活からアクションを起こす必要があります。」と語るのは、同社プログラムマネジメント部環境推進グループの上條悦夫氏です。その一つの方策として、6月には家庭でできる省エネ活動をまとめた小冊子『暮らしのなかのエコアクション』を全社員に配布。これは、約50からなる「エコアクション」をリストアップし、日常生活のなかでどれほど実践できたかを記録するもので、いすゞでは各家庭に持ち帰り、家族ぐるみで地球温暖化問題に取組むことを薦めています。

また今年からは通勤における公共交通機関の利用、徒歩通勤など「エコ通勤」を奨励し、実際にどれくらいの人が行っているかのデータも取り始めました。同環境推進グループリーダーの金沢孝氏は、「地道な活動でも継続して、ゆくゆくは各職場での活動にもプラスの効果を与えたい」と期待を寄せます。その効果は実際に少しずつですが現れてきています。「例えば、ある工場では現場のアイデアから『工場のアイドリングストップ』という活動が生まれています。これは、自動車のエンジンを無駄に動かすのをやめるアイドリングストップと同じように、工場の生産機械も一定時間使用しないものは電力供給をとめてしまう、というこれまでにはなかった発想の取り組みです。これだけでも大きな省エネ効果があります。」

今後に向けて

グローバルに事業展開するいすゞにとって、環境への意識が未だ低い途上国市場などで環境配慮型の商品をどう浸透させていくかは、持続可能な社会をつくるために大きな挑戦です。燃費を良くし、排気ガスを少なくすることは国内外を問わず追求していくのは当然としても、簡単ではない現実もあります。それは、国によって規制が違うなかで、良いものを出しても現地では価格の問題があること、また、途上国の軽油には硫黄分が多く含まれていて、安全対策を含め、燃料性状の違いへの対応が求められること、などです。しかしこのような状況のなかでも、同社の井田義則社長は、いすゞの役割について前向きに捉えています。「排出ガスの問題が深刻な現地政府の方々に、環境規制に積極的に取組んで頂けませんかと提言しています。こうした地域にも環境問題をクリアした普遍的な価値を持った商品で社会を後押しすることこそが、いすゞとしての義務だと思うからです。」(2005年度の環境社会報告書より一部抜粋)。「『運ぶ』を支え、環境と未来をひらく」。いすゞ自動車がこの合言葉を実現するために展開するさまざまな取り組みに大いに期待しています。


(スタッフライター 小林一紀)

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