ニュースレター

2006年09月01日

 

環境マネジメントシステムでエコモールの実現へ - イオンモール

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JFS ニュースレター No.48 (2006年8月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第48回
http://www.aeon.info/

日本では、広大な敷地に専門店が集まった大型ショッピングセンター(以下、SC)が成長し、売り上げを伸ばしています。近年は、都心から離れた郊外や地方都市での建設が目立ちます。

イオンモール株式会社は、日本全国に22ヶ所の大規模複合型ショッピングセンターを開発、運営するSC専業のディベロッパーです。同社のSC事業は、1992年青森県にオープンしたイオン柏SCから始まりました。イオンモールが展開するSCは、二つの核となる店舗とそれをつなぐ70-180の専門店街で構成されており、敷地面積はおよそ3.6-20万平方メートル、商業施設面積はおよそ3.3-7.7万平方メートルです。

これだけ大きな建物を運営し、周辺地域からお客さまを集め、買い物やサービスを楽しんでもらうには、照明や空調などのエネルギー消費、来店や配送の車両からのCO2排出など、多くの環境負荷が伴います。また、SCからの梱包材や飲食店からの生ゴミなど、毎日多くの廃棄物が出てきます。イオンモールは、お客さまへの豊かさや快適さの提供と自らの環境負荷の低減をどう両立させていくのでしょうか?

「SCは、地域のお客さまに愛され、たくさんのお客さまに繰り返し来ていただけるSC作りをすることが一番環境によいのです。」イオンモール 管理本部 環境・社会貢献・ISO事務局長 松井正子さんは話します。

同社は、2012年に50SCの展開を目指し、毎年新しいSCを開業しています。それに伴う環境負荷の絶対量の増加は避けられません。しかし、一つひとつのSCで環境負荷を減らしながら、お客さまに提供する豊かさや快適さの価値を高めていくことによって、SC全体での環境効率を高め、結果として社会全体の環境負荷を減らしていこうと、同社は考えています。

たとえば、日本では、温暖化防止のために冷房の温度設定は28度が推奨されています。しかし、一律28度の設定ではお客さまに暑苦しい思いをさせてしまう場合もあります。それによってお客さまに足を運んでもらえなくなるとお客さまの数が減り、来店客一人当たりの冷房のためのエネルギー使用量は高くなってしまいます。外気温にあわせてその都度快適な温度に設定し、たくさんのお客さまに来てもらうことができれば、来店客一人当たりのエネルギー使用量を下げることができます。そして、温度設定を下げるために余計に消費したエネルギーは、他のところで省エネの工夫をしようと考えるのです。

こうした考え方を大前提に、イオンモールは、2001年にISO14001を取得し、環境マネジメントの仕組みを活用して、環境負荷の低い"エコモール"の実現に向けての取り組みを継続しています。

環境パフォーマンスの向上のために、イオンモールが開発を進めているのが、エネルギーの原単位管理手法です。立地や規模・施設が異なる既存の21のSCのエネルギー使用量をさまざまな角度で比較・分析し、どのSCでどのような対策を講じれば、効果的にエネルギーを削減できるのかなどをデータで示し、管理する試みです。事例を紹介しましょう。

各SCの1平方メートル・1ヶ月の電気使用量をグラフに示し、平均値よりも電気代が少なくなっているSCの構造や施設の特徴を分析しました。そうすると、専門店街に面積が他よりも大きい店舗(大型店)が所々に入っているSCでは、電気使用量が低く抑えられていることが分かりました。これは、大型店が個別空調を上手に管理することで、専門店街の共通部分も涼しく全体の空調の設定温度が高めでも快適さが保てるためです。このような知見は今後の新しいSCの設計に生かすことができます。

別の分析では、21のSCを、冷房需要の大小と、室温を1度下げるのに要するエネルギー使用量の高低を2つの軸で分類しました。そして、冷房需要が大きく1度下げるためのエネルギー使用量が高いSCを特定し、エネルギー使用量削減の投資をすれば大きな削減効果が期待できることを論理的に示すことができました。

エネルギーの原単位分析を通じて、SCの環境負荷を下げるような工夫の余地が、まだまだたくさんあることが分かってきました。同社では、全SCのエネルギー使用量の全体把握からSCごとの環境影響を細かく分析し、原単位のデータで全SCを比較することで、優先順位を明確にし、より効率的に負荷を削減していく努力を続けたいと考えています。

もう一つ、イオンモールが力を入れ、環境マネジメントシステムを通して成果として現れてきていることがあります。それは、従業員の環境マネジメントや環境活動への参画意識の向上です。松井さんは「環境活動を推進していくためには、従業員の教育が一番大事。」と強調します。

従業員教育の柱の一つは、内部監査員の育成です。現在は社員の8割以上に当たる232人が、審査機関主催の「内部監査員養成セミナー」を修了し、内部監査員の資格を取得しています。また、内部監査員の資格を取る前段階として、自社で「準内部監査員」の資格を設け、1日コースのセミナーも開催しています。準内部監査員は、社員だけでなくパートタイマーや派遣社員も対象になっており、セミナーを受講して資格を得た者は133名となっています。

内部監査員として環境マネジメントシステムに関わるようになった従業員が増えたことで、「今までISO推進責任者など一部の人たちが黙々とやっていた活動の意義が分かった。」「新入社員でも産業廃棄物処理について行政の方と話が通じる。」などの声が聞かれ、現場での実践にも結びついています。「最近は、ISO事務局の支援がなくても、自分たちで課題を見つけ、自分たちで解決策を見つけられるようになってきた。」と松井さんは言います。

一例を挙げると、SCから出た廃棄物の処理やリサイクルについては、以前は委託業者任せにしていましたが、今では従業員が直接処理の現場を視察し、リサイクルできるものはないかと探したり、リサイクル方法を検討しています。イオンモールのSCは、環境方針の一つに廃棄物の発生抑制とリサイクルの推進を掲げ、廃棄物ゼロを目標としていますが、従業員の地道な取り組みによってリサクル率は年々向上し、2005年は65.2%となっています。

松井さんは、従業員教育の効果が、テナントである専門店従業員の教育にも広がっていくことを期待しています。イオンモールのSCでは、店舗から出る廃棄物を17品目に分類して回収しています。バックヤードにある廃棄物の保管庫には、専門店の従業員が毎日ゴミを出しにやって来ます。各SCでは、専門店の従業員に気持ちよく分別に協力してもらうために、廃棄物倉庫を清潔で明るく安全な場所にするよう心がけ、分別や廃棄時の注意事項を表示したりしています。廃棄物の計量システムを導入している13SCでは、計量結果を専門店にフィードバックし、廃棄物量の削減に役立ててもらう予定です。

また、2005年からイントラネット上に、本社全部署とSCの目標プログラムの進捗管理、エネルギー使用量、廃棄物量のデータを一元管理するための「イオンモールSRシステム」が稼動しています。実績を入力すると、適合・不適合が瞬時に画面に表示されるので、強みや課題を検証でき、次のアクションにつなげることができます。優れた成果を上げた部署は、昨年から毎年1回「イオンモールSR賞」として7部門が全社に発表され従業員の大きな励みとなっています。

環境への取り組みは直接利益に結びつくものではありません。しかし、環境を真剣に考え、活動を浸透し継続させていくことが、地域や専門店からSCへの信頼につながるとイオンモールは考えています。

2012年に50SCという長期目標を達成したとき、このままでは同社の環境負荷の絶対量は現在の2.4倍になってしまいます。したがって、2012年までに現在の2.4倍以上の環境効率を達成してはじめて、全体の負荷量を減らすことができ、そのための施策も手ごたえをつかみ始めたところです。今後も、従業員に根付いた継続的改善の取り組みによって環境負荷を削減しながら、地域のお客さまに愛されるSCとして、環境効率を大いに高めていくことを期待しています。


(スタッフライター 西条江利子)

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