ニュースレター

2006年08月01日

 

50年前からの「軽・薄・短・小・ローパワー」 - カシオ計算機

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JFS ニュースレター No.47 (2006年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第46回
http://www.casio.co.jp/

今ほど環境というテーマが話題になる前から、「軽・薄・短・小・ローパワー」を開発の根本において製品を作り続けている会社があります。カシオ計算機(以下、カシオ)です。カシオは1957年の創業当時から、"独創的なモノづくりによる社会貢献"を実践しようと、「創造 貢献」を経営理念に掲げて、多彩なデジタル製品の創造を続けてきました。

カシオの事業は、売上の約80%を占めるGショックなどの時計や電卓などを含むエレクトロニクス機器事業部門と、液晶モジュールなどを製造するデバイスその他事業部門に分かれています。売上の割合としては約20%のデバイス事業が、エレクトロニクス機器事業に対し、電力消費量は約3倍、燃料消費量では約2倍と、カシオグループ全体の環境負荷の大きな割合を占めています。これは、エレクトロニクス機器事業では基本的に、サプライヤーより調達した部品を組み立てる工程が主であるのに対し、デバイス事業は原材料を加工する工程があるためです。したがって、このデバイス事業の環境負荷をいかに低減するかがカシオの課題と言えます。

この課題認識にもとづき、カシオは両事業部門における製品の「小型・軽量・薄型・省電力」化を基本に、地球温暖化防止、大気汚染防止、化学物質の管理、用水使用量の低減と土壌・水域汚染防止、製品の回収・リサイクルなど、資材調達から製品製造、物流、製品の使用、廃棄、回収・リサイクルにいたるすべてのフェーズにおける環境負荷の課題を洗い出し、改善の取り組みを行ってきました。

カシオの環境経営は、1993年1月に制定された「カシオ環境憲章」と「環境基本方針」に基づいています。続いて出された「カシオ環境ボランタリープラン」は、この憲章・方針を実践するための行動指針です。このボランタリープランは副社長が委員長を務める環境保全委員会が制定するもので、毎年改定を重ね、現在は第10版になるそうです。製品開発から始まり、設計、包装、物流、営業、回収・リサイクルなど、19分野における環境への取組み施策をまとめています。
http://www.casio.co.jp/csr/env/

環境保全委員会のひとつの活動として、年に2回環境会議が行われています。カシオグループの環境経営方針や行動目標、行動計画を決定したり、活動実績の報告、将来的環境動向や各実行部門間の情報交換の場になっています。特に、上期は設計部門、下期は各拠点の現場の事例発表を行うことになっており、普段は表舞台に出ることの少ない開発設計部門の技術者が、実際に開発を行った製品についての環境負荷低減の取組みや具体的な環境配慮の工夫について発表を行うなど、従業員の環境意識のアップ、士気向上にも役立っているといいます。

さらにカシオは、「カシオグループ環境行動目標"クリーン&グリーン21"」において具体的な数値目標と行動期限を明確化し、いつまでに何を行うかを、大きく製品と事業所に分けて、細かい計画を立て、コミットメントし、達成へ向けて推進しています。

中でも注目すべきは、製品に関わる行動目標の筆頭に上げられている環境適合型製品の開発目標です。これはカシオ独自の基準に基づくグリーン商品の売上比率となっており、2001年度より「カシオグリーンプロダクツ活動」を開始した同社は、2005年度までに、売上比率を全商品の売上の50%にするという目標を掲げて活動してきましたが、2004年度に売上比率59%と、目標を一年前倒しして達成しました。そこで、新たに「2007年度までに売上の70%にする」という目標を立て、さらにグリーン商品の比率を高めるべく、技術課題を抽出しながら改善を図っていく考えです。

どのようにして、このような目標を前倒しで達成できたのでしょうか。環境センター長である大塚秀則氏は、「環境適合設計は積み重ねです。設計部門における環境意識の浸透度が高まったこともありますが、一つの製品がグリーン商品になれば、その後継商品も当然グリーン商品でなければならないという循環がうまく回ってきたのでしょう」と述べています。ボランタリープランの改定を行ない、製品環境監査シートによるアセスメントを、製品毎にこつこつと積み重ねてきたことが社内に浸透してきた成果だと考えているのです。

この環境意識の向上に貢献しているのが、先述した環境会議であると大塚さんは言います。「環境会議で、設計者や拠点の方々に、部門ごとの考え方、課題、今後の展開を含めて事例を発表してもらう。自分たちの仕事を他部門にアピールする機会になるだけでなく、各自の仕事の振り返りにもなるし、情報共有によって横展開を図れる。現場の生の声が経営層にもダイレクトに届く」。

また、これまで、回収・リサイクルが未対応だった時計や電卓などの小型コンシューマ向け製品のリサイクルについても、海外の新たな法規制に伴い、対応推進体制が整ってきました。WEEE&RoHS指令は、ともに欧州共同体における法規制ですが、それぞれ、電気電子機器の回収・リサイクル体制、電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用を禁止するものです。カシオでは、売上の40%を海外から得ていますが、売上の13.4%が欧州であることから、その対応が急ピッチで進められています。

WEEE指令に対しては、現地販売会社であるカシオヨーロッパを中心に、各国の法制内容をもとに、回収・リサイクル能力や再資源化処理能力などを調べ、現地リサイクル業者の選定を進めています。欧州で開始した対応のワールドワイドな展開を、ぜひ期待したいところです。

RoHS指令に関しては、鉛、水銀、カドミウムなどの特定有害物質6物質を全廃すべく、これらに加えて、カシオが独自に指定した管理対象化学物質を加えた26物質群についての購入部品における含有率を調べ、調査データのすべてをデータベース化しました。設計者は、このデータベースを使用して安全性を確認しながら部品を選定し、製品出荷判定時には化学物質環境監査を実施しています。

現在、カシオが取り組んでいるCSR適合設計では、グリーン商品であることはもとより、さらにユニバーサルデザインを実現した商品を生み出すことが求められています。環境負荷を抑え、リサイクルしやすいだけでなく、操作のしやすさ、ボタンの押しやすさ、グリップの持ちやすさなど、機能を加えても「誰もが使いやすい、人にやさしい」モノづくりをカシオは目指しているのです。

そのほか、国連機関やISOとの連携のもと、地球環境への貢献を通じて「生きていく力」を身につけながら、未来への希望を持てる教育を目指すという「Kids ISO」に共感し、工場見学などの機会を利用して、各小学校に「Kids ISO」を広めるなど、カシオの社会貢献活動も広がっています。

これらの「創造 貢献」の経営理念を支えているのが、カシオの創造憲章です。大塚さんが胸ポケットから取り出して見せてくれたカードには、表にカシオ創造憲章、裏にカシオ行動指針が書かれています。社員が署名をして、常に携帯しているのだそうです。

50年前の創業に始まった「創造 貢献」の精神が環境行動目標に広がっていったように、モノづくりを通した環境負荷の低減へ、カシオのさらなる挑戦は続きます。


(スタッフライター 三枝信子)

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