ニュースレター

2006年07月01日

 

バイオマス産業コンプレックスの創造 - 荏原製作所

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JFS ニュースレター No.46 (2006年6月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第45回
http://www.ebara.co.jp/

2006年3月31日、日本政府は新しい「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定しました。これは、2002年末から取り組んでいるバイオマス利用促進の国家プロジェクトをさらに推し進めるため、重点課題や施策を見直したもので、バイオマス輸送用燃料の利用促進、未利用バイオマスの活用等によるバイオマスタウン構築の加速化などが盛り込まれています。

バイオマスとは、ここでは、動植物から生まれた有機性資源で、化石資源を除いたものをいいます。代表的なものに、家畜排泄物や生ゴミ、木屑、もみ殻などがあります。

バイオマスは、植物が太陽エネルギー、水、二酸化炭素から光合成して作り出した有機物がもとになっており、数ヶ月から数十年で再生可能です。バイオマスも燃焼すれば二酸化炭素を発生しますが、全て植物が成長過程で吸収したものなので、ライフサイクルで見ると大気中の二酸化炭素の増減には影響しません。この特性は「カーボンニュートラル」と呼ばれます。

日本のバイオマスで未利用の割合が多いのは、食品廃棄物の約80%(約1,760万トン)、消費された紙の4割以上(約1,600万トン)、稲わらやもみ殻などの農作物非食用部の約70%(約840万トン)、間伐材・被害木を含む林地残材のほとんど(約370万トン)、下水汚泥の約36%(約2,700万トン)などで、今後の有効活用が期待されています。

荏原製作所(以下、荏原)は、1912年、渦巻ポンプの製造からスタートした産業機器メーカーで、風水力機械事業、廃棄物処理プラントや上下水道設備などの環境エンジニアリング事業、風力発電、燃料電池などの新エネルギー事業、さらに半導体製造用の装置・機器の製造も手がけています。子会社101社と関連会社18社を合わせたグループ全体での売上高は約5,150億円、従業員数は約15,000名です。海外21カ国に子会社・関連会社があり、海外での売上は1/4を占めます(2005年度)。

荏原は、早くから、循環型社会の実現に貢献する環境調和型企業を目指してきました。1990年代半ばには、資源の消費を抑え、廃棄物を最小化する「ゼロエミッション」の考えに着目し、ゼロエミッション事業を行う組織を立ち上げています。

そして2002年、自らが目指す持続可能な社会の姿として、「バイオマス産業コンプレックス」の概念を掲げました。荏原は、自社で扱う廃棄物の多くがバイオマス由来であることから、ゼロエミッションの技術をベースに、バイオマスをエネルギーや資源として活用、循環させる社会システムすなわち「バイオマス産業コンプレックス」の構築こそ、究極の環境産業であると考えたのです。

環境事業カンパニー・プレジデントの寺島一嘉さんは言います。「今、地球環境にとって最大の問題はいかに二酸化炭素を減らしていくかです。バイオマスを有効利用した循環型社会は、最終的に廃棄物となったバイオマスを焼却しても二酸化炭素の割合が増えることはありません。持続可能な社会を実現するには、化石燃料の利用を減らし、バイオマス由来の産業を発展させるしかないのです。」

国内では、市町村のバイオマスを最大限に活用し、新しい地域産業の創出と経済成長を目指す「バイオマスタウン」の構築が進められており、荏原はいくつかのプロジェクトに携わっています。

たとえば、千葉県山田町では、バイオマス多段階利用システムの実証研究を産官学の連携で行っています。このプラントでは、家畜排泄物、農作物残渣、間伐材・製材残渣などを資源に、メタン発酵、メタン吸蔵、炭化、水蒸気爆砕、堆肥化などの技術を使って、中間生成物や駆動エネルギーのやりとりをしながら、バイオマスを使いつくします。具体的には、メタン発酵によるバイオガスをバイオマス輸送用の軽トラックの燃料として使用したり、発酵残渣を炭化して濃縮液肥を取り出したりなどが想定されています。

バイオマスは、そのままではエネルギー密度が低い、つまり付加価値が低いため、輸送には適しません。その地域で有効利用するシステムを考えることが必要です。

そして、資源やエネルギーとして使ったあとの残渣も、再度、資源やエネルギーとして繰り返し利用し、最後の最後に残ったものを廃棄する、というカスケード方式で、利用価値を高めることが不可欠です。

荏原の強みは、工業排水の処理、都市ゴミなどの固形廃棄物の処理、大気の汚染物質の除去などを通じて培った多様な技術やノウハウを組み合わせ、経済性や効率性を考慮し、地域に最適なシステムを提供できることです。このような総合的な技術を駆使して環境事業を行うことができる企業は世界でも数少ないでしょう。

同社は海外でも積極的にバイオマス事業を展開しています。その一つが、2005年4月に発表されたマレーシアの「国家バイオ政策(NBP)」への協力です。マレーシア政府は、この政策により、2020年までにバイオ産業をGDPの5%に育成するとしています。

荏原は、現在マレーシア企業とのジョイントベンチャーにより、4つのバイオビジネスの展開を構想しています。油やし廃棄物からのバイオ製品生産、サゴやしでんぷんからのバイオ製品生産、動物排泄物のエネルギー化、機能性植物・食物の生産です。

油やし栽培はマレーシアの主要産業ですが、やし油を圧搾したあとの大量の廃棄物は単に焼却されたり、そのまま放置されるなど、大きな環境負荷となっています。この廃棄物からまずEFB*を取り出し、リグニンの抽出からリグノフェノールを生成、同時にセルロース・ヘミセルロースの糖化からバイオエタノールを生成します。リグノフェノールは、バイオペイント(バイオ糊)やウッドプラスチックとして利用でき、バイオエタノールは自動車の燃料として利用できます。リグニンなどを抽出した残渣は、燃焼させて電力や蒸気、肥料灰として活用します。また、やし油廃液は、メタン回収と燃焼により、CDMクレジットの取得を目指します。
*EFB:Empty Fruit Bunch(油やし空果房)

サゴやしは、でんぷんの多い植物で、今はでんぷんを作っているだけですが、このでんぷんを糖化、発酵させて乳酸を取り出し、重合させることによって生分解性プラスチックの素材となるポリ乳酸を得ることができます。セルロースと廃棄物も、酵素を働かせて糖化させることによりポリ乳酸の原料とします。最後に残る樹皮や葉は、燃焼、ガス化させて、ポリ乳酸製造の電力や蒸気として利用します。このようなプラントを作ることによって、雇用を創出し、地域産業の振興にも貢献する計画です。

動物排泄物は、メタン発酵や焼却により発電に利用し、残ったものは肥料やコンポストに利用します。機能性植物の栽培は、野菜に水や温度などのストレスを与えることで、疾病の予防に有効な機能性成分を作ろうという新しい分野で、マレーシア国立の研究機関と研究を行っている段階です。

これらの構想を事業化していくための次なる課題は、資金調達、ポリ乳酸などのバイオ製品の販売ルートの開拓、そして、自社で保有していないポリ乳酸の重合技術の取得です。これらは、荏原の力だけで達成できるものではなく、複数の企業との連携が必要です。優れたノウハウや技術を持っている企業はたくさんありますが、荏原のような強い意志で、バイオマス産業社会を実現したいと考える企業はまだ少ないのが現状です。彼らをどのように巻き込んでいくかが、この事業の推進の鍵となるでしょう。

「将来の夢は、ボルネオ島にサゴやし畑を作り、でんぷんからポリ乳酸を生産するプラントを作ることです。バイオマスをより付加価値の高い生分解プラスチックに変えて世界中に輸出し、バイオマス製品を世界に広げていきたい。」と、寺島さんは語ります。

かつて、私たちの身の回りのほとんどのものは自然素材(バイオマス)で作られ、大切に使われ、自然の中に還っていきました。石油由来のエネルギーや製品と違って、温暖化や廃棄物や有害物質の増大を引き起こすことはありませんでした。地球にも私たちにもやさしいバイオマスエネルギー、バイオマス資源を現代の産業システムに取り入れ、循環させることで、持続可能な社会を実現しようという荏原の挑戦に、これからも期待しています。


(スタッフライター 西条江利子)

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